TS賢者は魔法を可愛く最強無敵化する~ 勇者パーティに始末されたはずが何故か女の子になった俺、スキル【強く、可愛く、頼もしく】を使って無双しちゃいます

栖田蛍

第1話 奈落への追放 ~女の子になった俺

「さらばです。賢者シルヴァン。

 

 奈落(アビス)でも、どうぞ万全に生きてください」



 あざけりの笑みを浮かべて、俺を突き落とした男はそう言い放った。


 空中に投げ出され、徐々に加速していく落下感を味わいながら、俺は叫んだ。


「ファビオ……! なぜ……!」


 そして俺はダンジョンの底の底。

 落ちれば二度と地上へは戻れない奈落(アビス)へと落下していったのだった……




  ▽




「ようやく最下層まで来れましたね!」


 数時間前。


 勇者ファビオ率いる冒険者パーティ、<エスペランサ>はダンジョンの最も深い階層に居た。

 

「この調子で行きましょう! シルヴァン、問題ありませんか?」


「やってやる、万全だ!」


「また出ましたね、その口癖」


 ファビオと俺は拳をこつんと打ち合わせた。


「おれも全然、大丈夫。いける」


「うちも。今日は調子がいいわ~」


 パーティメンバー、戦士レオンスと僧侶シャンタルの士気も高い。


 俺ことシルヴァンは賢者として、このパーティに参加している。

 

 参加して2年。俺は多くの魔法スキルを会得しており、戦力の底上げ役として貢献しているつもりだ。

 他の皆も気さくに接してくれるし、つくづく良いパーティに巡り合ったものだと思う。


「古代魔法は、自分達が最初に見つけるのです!」


「ああ! 今の調子なら、確実に!」



 ――強力な『古代魔法』が封じられるとされるダンジョン、アルニタクの迷宮。


 多くの冒険者が古代魔法を求めて、集う場所。

 もし発見して王に捧げれば、莫大な報酬と名誉を手に入れられる。



 エスペランザの皆は、他の誰も踏み込んだことのない領域に到達し、興奮を隠せないでいた。


 ……とはいえ、俺の目的は古代魔法ではない。


 故郷で待っている病気の妹のため、一級治療師を雇えるだけの金が手に入ればいいのだ。そしてそれは、9割がた達成されていた。


(だが古代魔法の発見者という名誉をみやげに、故郷に帰るのも悪くない……)

 

 などと思ってしまったのが、良くなかったのか。


 とある隠し部屋の宝箱、ファビオの【鑑定】スキルでも判明しなかった罠が発動。

 

「危ない!」


 俺はとっさに、宝箱を開けたまま動けないでいたファビオを突き飛ばし……

 『レベルリセットの呪い』の罠をその身に受けることになった。





「すべての魔法スキルが、レベル1に……ですか」


 ファビオの言葉に、俺は力なくうなずいた。

 

 俺の首から下がっている冒険者カード。

 そこには、登録した本人が現在持っている魔法スキルなどが刻印されている。

 

 そして今、そのスキルレベルがすべて[1]になっていた。

 

「さっきまで[30]あったものが、すべて……」

 

 冒険者ギルドで、賢者の職を得て2年。

 たまたま最初から上級職の賢者が適正だった俺は、2年かけて様々な魔法スキルを会得、成長させた。


 回復以外の攻撃・補助魔法を全て使える、器用さが売りだ。


 おかげで、エスペランザというギルドの中でも最上ランクのパーティに誘われた。 


「スキルLV1……駆け出しの冒険者と同じだ」


 これでは、ダンジョンの地下一階で苦戦しかねない。


 そしてこれは『呪い』。解呪しない限り、永遠にLVは1のままである。


「……仕方ありませんね。今回はここまでにしましょう」


 ファビオは地上へ戻る事を決意したようだ。

 


 ここまで来るのに、相当な準備とコストがかかっている。

 今回は、最下層突破と古代魔法の獲得が目的だった。

 だが、どちらも達成できないまま、引き返すことになってしまった。



「すまない……」


「元はと言えば自分のせいです。かばってくれて、ありがとうございました」


 そうファビオは言って、最下層のとある小部屋にポータルを作った。

 

 ポータルとは、地上とダンジョンを行き来できる異次元の回廊。

 合言葉が設定されており、パーティメンバーのみにしか利用する事は出来ない。

 

 冒険者パーティは、ダンジョンの下層に進むたびにポータルを作りながら、徐々に攻略していくのだ。


「今回の合言葉は、……」


 ポータルの設定を終了したファビオ。


「シルヴァンはここで休んでいてください。自分たちは少し周りを探索してきます」


「……」


「気を病まないでください。こういう事も良くあるんです。……良く、ね」


 と言って、他の二人を連れて小部屋から出て行った。

 今回の探索にかかった費用を、少しでも取り戻そうというのだろう。



 俺は暗い気持ちでひとり、座って待っていると……



「た、大変です!」


 と、ファビオが慌てた様子で小部屋に駆け込んできた。


「レオンスとシャンタルが、奈落(アビス)に! ロープを持ってきてください!」


 奈落(アビス)とは、ダンジョン最下層のさらに底、落ちたら二度と戻れない領域だ。

 このダンジョンには奈落へと通じる穴がそこかしこに開いており、普段なら絶対近づこうとはしない。


「なんだって!? よし分かった!」


 だが俺は、パーティに貢献出来なくなっていたことで、焦りを感じていたのだろう。

 その不自然さに気が付かず、二人を助け出そうという考えでいっぱいになっていた。 

 

 そうして、まんまとおびき出された俺は、真っ暗な奈落(アビス)をのぞき込んだところを……

 勇者ファビオに、突き落とされたのだった。





「う……」


 痛みで、目が覚めた。

 俺は、奈落(アビス)に落とされたはず……だが、驚いたことにまだ生きていた。


 しかし、体は全く動かない。

 仰向けの姿勢で、首を動かしどうにか視線を巡らせる……


 ぽつぽつと緑色に輝く水晶があり、かろうじてあたりの様子が確かめられた。


 さっきまで居た、ブロックで構成されたダンジョンとは違い、天然の洞窟のように見える。


「ここが、奈落(アビス)……」 


 噂に聞くような、想像を絶するような光景などではないのが拍子抜けではあった。


「だ、誰か」


 答える者はいない。

 当然だ、ここは奈落なのだから……


 そうこうしてる間に、体から力がどんどん抜けていく。

 意識もぼんやりとして、自分が死に近づいているのが良く分かった。


「マティ……」


 故郷に残した、病気の妹の名前を呼ぶ。


 すまない。

 お前の病気を治すための、冒険者稼業だったが……

 

 「まさか、あれほど信頼していたパーティに裏切られる、とは……」

 

 悔し涙が頬をつたう。

 にじむ奈落の風景に、ふと気づくとしおれた花がすぐ近くに咲いているのに気づいた。


「……こんな、ほとんど光の無いような場所にも……花が、咲くんだな」

 

 しかし、地上の光の下であれば綺麗な色で咲き誇りそうな花も、元気なく首を垂れている。

 俺は、最後の力を振り絞って魔法スキルを発動させた。


「ライト」


 今となってはレベル1の、ささやかな光魔法だ。

 花の真上に、太陽の力を持った小さな光の玉が出来る。


 すると、その光を浴びた花は少しずつ元気を取り戻しはじめ……

 ぼんやりとした光を放つ、美しい花の姿になった。


「え、えらい速効性が、あったもんだ。だが、よかった、これで万全、……」


 そうしてふたたび、俺は意識を失った。




 次に目覚めた時。


 俺は、女の子になっていた。


「……なんで!?!?!?」

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