よし子ちゃんねるとキャンプ場

よし子ちゃんねるとキャンプ場

　はい、こんちくしょう。

　ということで始まりました。

　よし子ちゃんねるの、よし子ちゃんで～す。

　さっそくなんですけど、よし子ちゃんから皆さんにご報告がありま～す。

　なんと、動画の登録者数が四十二人になりました。パチパチパチパチ、拍手拍手。

　最初に投稿してから、はや四年。とうとう四十人の大台に到達したんですよ。これはズゴイことなんですよう。

　だって友だちが四十人いるかたって、そうそういないでしょう。せいぜいが二、三人で、半分以上がボッチじゃないですか。二割が孤独死で、五人に一人がホームレスでしょう。

　はい、そんなわけで、今夜はライブ配信ですよー。よし子ちゃんねるでは、二回目の生配信で～す。

　今回はですね、とある山奥のキャンプ場に来てますよ。時間は夜の七時過ぎですね。

　はい、よし子ちゃんはアウトドア系配信者なので、やっぱりライブといったらキャンプ場ということです。ちなみにここのキャンプ場、過疎りすぎて誰もいません。管理人さんも帰っちゃいましたとさ。

　そういうわけで、闇夜の中、急ぎテントを張りたいと思います。パソコンはここに固定しますので、よし子ちゃんの生テント設営サイコーな場面を楽しんでくださいな。水銀灯が一つありますので、なんとか見えますよね。

　じゃあ、さっそくペグを打ち込みますよっと。

　って。

　あれえ、なんか、うるさいですね。遠くから音が聞こえてきます。

　誰か、いいや、なにか来ますよ。

　ええっと、このキャンプ場、もう受付が終わって、管理人さんも帰っちゃいましたけど。よし子ちゃん一人なんですけど。

　なんか、光る物体が近づいてきます。ヴボボボボボ、って音もします。

　人魂とかＵＦＯとかではないです。とても人工的な響きです。バイクっぽいですねえ。あきらかに暴走族っぽいんです。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　うわあ。

　で、出ました。

　あの有名なマフィア映画のテーマ曲のイントロです。

　しかも、ホーンで奏でてますよ。

　や、ヤヴぁいです。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　族がきます。ゾクが来ますって。なして、ここに。

　そして、ピッカピカの族バイクがキターッ。

　えっ。

　ええーっと、なんでしょう。

　続々と、族の皆様がやって来ると思いました。が、一台だけです。

　しかも、なんですか。

　向こうの暗闇から、水銀灯の下まで族バイクが来たんですけど、なんかあ、ものすっごくトラックなんですけど。

　オートバイっぽいんだけど、すごく電飾ピッカピッカな派手派手バイクなんですけど、なんか、冷蔵庫っぽいんですけど。

　ああーっ。

　わかりました。

　いま、よし子ちゃんの三メートル前で停まっているんですけど、これ、オートバイじゃなくて、自転車っす。

　電球やらネオンやら、とにかく派手で、まるでエロ風俗店の看板みたいにピッカピカ。

　よし子ちゃんはですねえ、二十歳の時にお金なくて、お父さんには内緒で風俗店の面接に行ったことがあるんですよ～。まあ、即落ちしましたけどね。この話はやめときますね。

　え、デコチャリ。

　いま、チャットで、（アソコでテロリズム）さんから教えてもらいましたけど、こういのって、デコチャリっていうらしいです。さっそくググってみますね。

　あひゃっ、なんですか、この画像は。動画もありますけど。

　うう～ん。

　中学生ぐらいのヤンキー男子が、自転車をデコトラ風にしてますね。

　デコトラ、知らねえって（東京湾腐乱死体姉さん）さんですけど、あれですよ。電飾だらけの痛いトラックです、はい。昭和の時に流行りましたね。白亜紀後期の古墳時代ぐらいの昔です。

　いま、目の前に来ているのは、その自転車バージョンで、すっごい光っています。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　はい、間近でいただきました。哀愁のマフィア映画のテーマ曲です。すんごい音量で耳の中が痛いです。

｛ブオオオオオーーーン、ブオーーーーーん、ブブブブブ｝

　さらに爆音です。

　ですが、デコチャリは自転車なので、いわゆるエンジンの排気音が出ないはずですけど、どういうことなんでしょうか。

　はい、いきなり女子高生です。

　よし子ちゃんが、ではないですよ。よしこちゃんは、もう、じつはアラサー。

　３２円、現金チャットありがとうございます。ゴチです。

　女子高生というのは、皆さんもお気づきでしょうが、デコチャリに乗っている人ですね。いま、すっごく睨みつけているんですけど。な、なして敵意剥き出し？

　ええっと、セーラー服なんですよ。下はふつうに紺色のスカートだし。どこからどう見ても女子高生なんだよねえ。

　ヘルメットしていますけど、髪はけっこうロングっぽいです。茶髪とかじゃなくて、ふつうの黒髪です。校則通りって感じですよ。

　そのヘルメットなんですけど、山田土木工業(有)ってネームが入っています。現場用ですね。

｛ブヘーーーン、ブブブオーーーン、ベホベホベホブオーン｝

　爆音が凄いです。でも、自転車です。内燃機関はありませんね。

　はい、謎は解けました。

　女子高生がですねえ、口で言っているみたいです。口元が、上下左右後ろから前から動いています。ブヘブヘブヘブヘと。

　ヘッドマイクをしてますよ。デコチャリの左右に拡声器がくっ付いているのね。だから、口で爆音を言って、拡声器で増幅させるみたいな感じですね。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　だから、その哀愁のテーマ曲はいらないですよ。中耳炎になっちゃいますって。

　女子高生がデコチャリから降りました。こっちゃに来ます。来てます、来てます。もう目の前です。

　手をグーにして、よし子ちゃんに突き出してますよ。なんでしょう。

　う、うっわ。

　なんか、急に手をつかまれて、よし子ちゃんの手のひらに、なにか渡されました。グーの中に握っていた｛なにか｝です。

　なぜか女子高生が逃げ去ってしまいました。デコチャリの陰に隠れて、こっちを見てますよ。なんで。

　なにを握らされているのか、よし子ちゃんは怖いですが、そうっと開けてみますね。

　ありました。

　薄くて白いものが、何枚かあります。これはなんでしょうか。指の爪とかだったら、ホラーです。

　ちょっとニオイを嗅いでみましょうか。クンクン。

　くっせ。

　ニンニク臭え。

　これ、ニンニクのスライスなんですけど。

　どうしましょう。このニンニクスライス。山田土木工業(有)のヘルメットをかぶった女子高生がジッと見つめていますし、食べてみましょう。もぐもぐ。

　くっせ。苦っ。

　生ニンニクはきついです。胃がただれそうです。ペペロンチーノにしたほうがよかったです。

　山田土木工業(有)のヘルメット女子高生がこっち来ました。顔が近づいてきます。

　うっ。

　く、くやしいですが、すっごい美少女です。なんか、人生に不平等を感じちゃいます。

　またまた、グーを突き出しています。しかも、よし子ちゃんの目と鼻の先で近すぎます。

　開きました。

　花びらが一枚一枚咲くように、グーの指がゆっくりと可憐に開きました。

　も～わ。

　ぎゃっ、く、くっさ。

　オエーッ。

　ええーっと、握りっ屁でした。

　現場ヘルメットをかぶった見ず知らずの美少女女子高生に、握りっ屁をされてしまいました。しかも、可愛い顔して存外に臭い屁でした。

｛ブファオフォフォーーーン。ブホホ、ブベボ、ボボボボ｝

　いや、このタイミングで爆音はいらないですから。その可愛い口を忙しく動かさないでくださいな。怖いですよ。　

「チッ」

　今度は舌打ちですか。なにが気に入らないんでしょう。いちおう、よし子ちゃんは年上なんですけど。

「トイレ」

　え。

「トイレ」

　なんか、トイレに行きたいようです。

　トイレは管理人小屋の横ですよ。って言ったらデコチャリに乗りましたよ。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　もう、その曲はいらないかなあ。お腹いっぱいなんだけど。トイレは近いんだから、いちいち、そのピッカピッカなデコチャリで行かなくてもいいんだけどなあ。

　はい、そして一分後、ブオーンブオーンと口で爆音しながら帰ってきました。意外と早い用足しだったと思います。

「閉まってた」

　え。

「閉まってた」

　トイレが閉まっていたようです。そういえば、管理人のおじさんがトイレは故障しているので、その辺でヤレって言っていましたねえ。さっそく伝えましょう。

「紙」

　え。

「紙」

　紙を持っていないようなので、ポケットティッシュをあげました。お礼とかはありません。ひったくるように奪われました。

　あ、ちょっと、なんですか。

　現場ヘルメットの女子高生が、よし子ちゃんの手をつかんで引っぱっています。なので、ライブカメラが追えません。ここからは、マイクの音声のみでの配信となります。

　な、なんか、暗いところに来ましたよ。足元が草むらで、ヘビでも出そうです。

　ファーッ。

　女子高生が、いきなりしゃがんだので、びっくらして声が出てしまいました。

　しゃ～。

　うわー。

　シッコしてるう。

　デコチャリのセーラー服女子が、オシッコしてますう。

　暗闇なので、一人でオシッコするのは怖かったんでしょうね。なんせ山の中ですから。

　ははは、そういうことです。まあ、よし子ちゃんとしては迷惑ですけど、なんとなく気持ちはわかりますよ。まだ子供なんですねえ。

　ぶふぉ。

　ええーっと、オナラが出されました。

　皆さま、安心してください。これは、オシッコをしていたら、お尻の穴がゆるんじゃってオナラが出てしまうという、人類共通の｛あるある｝です。可愛い女子高生だからって、例外ではないんですよ。

　だいたい、用を足し終えるちょっと前に出ますね。締めというかトリというか、そういうアナル的なイベントなんです。音色はオッサンでしたけど。

　ぎゃっ、くっせ。

　美少女女子高生ですけど、オナラは存外に臭いです。握りっ屁より濃いです。

　あまりにも臭いので口で息をしていたら、なんか味がするような気がして鬱です。

　女子高生が立ち上がりました。パンツをたくし上げて、キッと、よし子ちゃんを睨んでいます。な、なんなんでしょう。

　ぷす～。

　うぎゃっ。

　く、くっせ。

　はい、すかしっ屁でした。

　最後の最後に、すんごく臭いのを出しましたよ。なに食べたら、こんなになるんでしょうね。

　女子高生が、フッと笑みを浮かべて背中を向けました。そのままデコチャリのほうへ歩いていきます。勝者の余裕が感じられます。

　よし子ちゃんも、急いでパソコンまで戻りました。ちょっと目が沁みていますが、みなさ～ん、元気ですかー。

（生禿げボインたれてるたれてる）さん、こんばんわです～。ええーっと、初めてのかたですね。わあ、現金チャット、５００円ごっちゃんです。

　えっ。

　デコチャリガ～ルにあげてくれって、あ、あのですねえ。

　いちおう、よし子ちゃんねるの現金チャットなので、よし子ちゃんの口座に入っちゃいますけど。そんで運営様から手数料が三割取られるわけです。

　うわあ。

　そのデコチャリガ～ルが、なにかをよし子ちゃんに突きつけています。そして、すっごく怖い目で睨んでいます。な、なんですか、それは。

　ブタさんの貯金箱でした。

　えっとう、ひょっとして、いまの現金チャットの５００円を入れろってことなのかな。

　いやいや、だってですよ。よし子ちゃんねるへの寄付なので、それはできないというか、口座への振り込みですし。

　いまですねえ、チャットの書き込みがすんごく盛り上がっています。更新が追いつきません。かるくバズッています。いくつか拾って読んでみますね。

・そこの女子高生に渡せ、ブサイク。コ〇すぞ。

・ものすごい大金なのに、自分のモノだとおもってる、ｗｗｗｗｗ～。

・デコチャリのＪＫに謝れよ。焼き土下座しろ。

・女子高生の気持ちになって考えてください。あなたの身勝手やワガママで他人を苦しめているのですよ。他者に対する慈しみが欠如しているとしか思えません。動画配信者として、失格だと思います。

　ええっとですねえ。

　なんだか、よし子ちゃんが悪いことになっていますが、まあ、そうですね。視聴者の皆さんがいうのなら仕方ないです。ものすごい大金、ではないとは思いますけど。

　それでは、デコチャリガ～ルのブタさんのお尻に５００円玉を入れたいと思います。

　チャリ～ン。

「まいど」

　はい、デコチャリガ～ルから、お礼のお言葉をいただきました。三割の手数料とかの問題がありますけど、まあ、これにて一件落着で～す。

　おっと、ここで女子高生がデコチャリをゴソゴソしてます。箱みたいなとこから、なんか出してきましたよ。

　あはは、カップラーメンと携帯用ガスコンロです。お腹すきますよね。

　そうです。今晩はキャンプライブでした。さっそく、よし子ちゃんも食事にしますよ。奇遇にも、カップラーメンなのです

　デコチャリガ～ルが携帯ガスコンロをガチャガチャやってますけど、火がつかないみたいですねえ。なんか、でろ～んとしたウ〇コりんみたいなのが、バーナーにべっとりと付着しているんですが、ええっとう、見るからに不潔です。

　よし子ちゃんの携帯ガスコンロでお湯を沸かします。デコチャリガ～ルがめっちゃ見てまして、要するに、腹が減ったから早くしろということですね。

　ほら、あっというまにお湯が沸きました。

　そして、よし子ちゃんのカップメーンはこれでーす。

　新発売、超特濃背脂チャーシュー麺でーす。

　３９８円の高級カップ麺ですよ。試食のレビューもしちゃいますね。

　って、強奪されました。

　デコチャリガ～ルに高級カップ麺を奪われましたよ、突然に。

　ちょっとう、それ返してよね。一個しかないんだから。

　いや、あのね、あなたのカップ麺を渡されても困るわけですよ。べつに交換とかいらないから。

　しかもこれ、激安スーパーで、たしか一個５８円の塩ラーメンじゃないですか。よし子ちゃんのは３９８円の高級品なんですよ。チャーシュー麺なんです。この塩ラーメン、具材がちっさいナルト一つだけなんですから。

　そんなことを言っている間に、お湯を入れて三分経って、ズルズルと食べ始めてますわ。可愛い顔した女子高生がね、現場のヘルメットかぶって、よし子ちゃんの高級カップ麺を食べているわけですよ。

「コショウ」

　え

「コショウ」

　デコチャリガ～ルが胡椒を所望しております。まあ、背脂ラーメンには必需品ですよね。

　あ、しまった。

　胡椒を忘れてきちゃった。かわりに七味唐辛子だったらあるんだけど。

これ、七味っていっても、ハバネロとかジョロキアとかの、超絶スコビル値の七味なんだよなあ。

　あ。

　ふたたび強奪されました。そんで、こっちを睨みつけながら小瓶のキャップを回してますよ。

　あ、あの、それって蓋はパカッて跳ね上げるやつで、回したら蓋が全部がとれちゃうから。

　ああ～。

　言っているそばからやっちゃいましたよ。激辛唐辛子の粉末が、すべてドサッとカップ麺の上にぶちまけられました。

　高級背脂こってりラーメンが真っ赤になっています。さすがに、それはもう食べられませんね。

　おおおー。

　だがしかし、食ってますよ。工事現場ヘルメットの女子高生が、鬼のような形相ですすっています。真っ赤な麺をズルズルズルズルと卑しい音を立てて食っているじゃないですか。

　汁はどうするんでしょうか。さすがに超激辛すぎて不可能でしょう。

　はい、飲み干してしまいました。

　ゴクゴクと、灼熱で脂ぎった真っ赤な血の池地獄が、一滴残らずデコチャリガ～ルの胃袋へ落とし込まれてしまいましたよ。

「ゲップー」

　ゲップを吐きかけられました。美少女ですけど、やはり臭いです。濃厚なゲップ臭がしました。しかも熱い。

　唇が明太子みたいに腫れあがっていますけど、なぜか居丈高な態度でよし子ちゃんを見下しています。

「どう、わかったでしょう」

　は？

　なんにもわからないんですが。言っている意味が不明なんですけど。

　はい、ここでチャットのほうに書き込みがきました。

・よし子ちゃんは負けたんだよ。素直に無職になれって。

　いやいや、負けてませんよ。ていうか、勝負してませんから。わたし、なんかしましたか。無職はイヤです。

・デコチャリの女子高生にアッパレ。はな子ちゃんに、けぇーつ。

　女子高生にアッパレをあげるのは個人の自由ですけど、はな子ちゃんって誰ですか。ここは、よし子ちゃんねるですよ。主人公は、よし子ちゃんです。あと、けぇーつ、じゃなくて、喝―っ、だと思うのですが。

・いつも死んでくれてありがとう。

　死んではいませんから。よし子ちゃんは一度も死んでいませんよ。殺さないでください。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　またまた哀愁な曲を鳴らしますか。なんか、涙出てきましたよ。

　っていうか、デコチャリと暴走族って、関連ありましたっけ。どうも両者が混同しているような感じがするんですが。　

｛ブボボボボ、ブフォーーーン、ブブブフォーン｝

　デコチャリガ～ルがアクセルをふかしまくっております。

　口で。

　超激辛唐辛子でたいがいに腫れあがったタラコ唇が、ブベベブベベと揺れ動いているのが滑稽です。

　デコチャリが走り出しまたよ。よかった、どうやらご帰還のようです。

　そう、高校生は家に帰って宿題をすませて寝てください。非行に走ってはいけませんことですよ。

　ふう。

　これで、よし子ちゃんもライブに集中できるってもんです。皆さん、ドンドン書き込んじゃってくださいな。

　失礼、違いました。

　キャンプ場内を走り回っています。爆音や哀愁のテーマ曲やその他の騒音を撒き散らしながら、ピカピカ光ったデコチャリが悠々と走っております。

　もうですね、すんごく、楽しそうに漕いでるんですよ。電飾もピッカピカで、れいのテーマ曲を奏でながら、キャンプ場を縦横無尽ですよ。激辛七味で脳のシナプスが壊れちゃったのでしょうか。

　よし。

　遠くのほうへ行ってしまいました。哀愁のテーマ曲の波長が伸びて小さくなっていきます。ドップラー効果が心に安らぎをくれるのです。どこかで犬が遠吠えしています。

　よし子ちゃんの生ライブ、ここからが本番ですよ。

　うわー。

　また戻ってきました。

　デコチャリ女子高生がカムバックしてまいりました。

　爆音をブヘブヘ言わせながら目の前まで来ましたよ。そんで現場ヘルメットの女の子が、キッとした目で睨んでいます。

「いっぬ」

　え。

「イッヌ」

　ええーっと、女子高生が黒いモノを抱いていますねえ。動いてますよ。哺乳類っぽい感じです。おそらくワンコでしょう。どこで拾ってきたのでしょうか。

　う、うっわあ。

　いきなり投げてきました。

　なんとかキャッチしましたが、この犬、すんごく臭いです。獣臭がハンパじゃありません。

　しかも、爪がヤヴぁいです。けっこう硬そう。てか、痛そう。視聴者の皆さんにも見せてあげますね。

　ほらあ、可愛いワンコです～。顔がパンダみたいで、かわいいでちゅね～。

　チャットが盛り上がってまいりましたよ。皆さん、ワンコが好きですねえ。

　え、

　それワンコじゃないよって、いやいやワンコでしょう。タヌキには見えませんよ。

　クマー。

　くま？

　もしかしてと思いますが、これって子熊とかじゃないですよね。

　クマー。

　ええっと、どうやらよし子ちゃんは、子熊を抱いているのだそうです。チャットが賑わっています。その中でもっとも気になる書き込みは、母熊が近くにいるぞ、おまえはもう死んでいる、ってことです。

　あひゃあ。

　も、もうですね。すぐに放しました。地面に置きましたよ。これでセーフティーですね。よし子ちゃんは無関係な、ただの通行人です。セーフ、セーフ。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　あ、ちょ、ちょっと。あんた、やめなさいって。そんな哀しげな曲をヤンキホーンで鳴らしたら、母熊が来ちゃうじゃないのさ。お願いだから、やめて。

　ってか、この子熊をどっから、かっさらってきたのよ。ちゃんと、もとの場所に戻しときなさいよ。

　うわあ、なついてくるう。

　子熊が足にじゃれついて離れません。

　はい、（アニマル関口）さん、こんばんわです～。

　面白くないから現金返せって、いや、あのですねえ、この展開でどうやって面白くするんですか。母熊が来たら、よし子ちゃんが襲われてグロいことになるんですよ。しかも、あなたから現金もらってないし。

「あれ見て」

　え。

「あれ見て」

　デコチャリにまたがった女子高生が、あっちのほうを指さしています。

　暗くて見づらいですが、じっくりと見てみます。

　やっべ。

　クマじゃん。

　なんか、向こうの暗闇にクマが見えるんですけど、ヤヴァくね。

「怒ってるから」

　え。

「彼女、怒ってるから」

　彼女って、あのクマですか。

「子熊をさらったでしょ」

　え。

「子熊をさらったから」

　それ、あなたでしょう。

　あなたが抱えてきて、よし子ちゃんに渡したんでしょ。てか、投げましたよね。

「東京特許きゃきゃきゃ局」

　いきなり、なんですか。意味がわからないです。てか、言えてないよ。東京特許許可局だってさ

　カチッ。

　って、キーを差し込んだけど、あんたまさか子熊をここに置いて逃げる気じゃないでしょうね。キーを回して、｛ブンブン、ブフォーン｝っていかにもアクセルをふかしてますな音を鳴らしてますけど、口で言っているだけだから。

　そもそも、どこに刺しているのよ。鍵穴とかないですよね。

　あ～あ、行っちゃいました。帰るときは、けっこう立ち漕ぎしてましたね。

　ふう。

　これでようやく一人キャンプのライブをできますよ。

　い、いや、それどころじゃないです。

　この子熊をどうしたらいいんでしょうか。すんごくじゃれついて離れないんですけど。

　おひゃあ。

　向こうの闇にいた母熊が、こっちに近づいてくるじゃあ～りませんか。ノッシノッシって、すんごい迫力できますよ。たぶん、ぜったいですけど、怒っています。これには他人の不幸が大好物の視聴者さまもニッコリです。

　に、逃げます。

　それっ、全速力です。

　子熊は追ってきません。ふう、ひとまず安心です。母熊と再会して、微笑ましい光景が見られるでしょう。

　って、のひゃあ。

　いやいや、母熊がこっちゃに来ますよ。真っ黒な巨体が、獣の生臭い息を吐き出しながら追っかけてきました。子熊はどうしたんでしょう。よし子ちゃんを追っかけなくていいから、子供を大事にしてくださいな。

　イヤー。

　追っかけてくるう。しつこく追っかけてきます。

　どうして、よし子ちゃんなんでしょう。子熊を連れてきたのはデコチャリガ～ルなのに。

　うがあ。

　マジで、ヤバえ。

　すぐ後ろに来たー。

　ケダモノの生臭い息が、よし子ちゃんの背中を濡らしています。

　た、助けて、誰か助けてください。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　あっは♡、デコチャリが来ました。よし子ちゃんの横で並走しています。助かりました。早く乗せてくださいな。

　うんがー。

　だがしかし、乗せてくれないんです。ただ右隣を並走しているだけです。ときどき左右にハンドルを曲げて、ジグザク走行してます。一時期話題になった　ひょっこり男みたいな感じです。当たり屋ですか。

　とにかく乗せてくださいよ。いまは下り坂なのでケモノを振り切れるチャンスなんだから。

　あっ。

　デコチャリのスピードが速いです。どうやら、よし子ちゃんと母熊を振り切るみたいですが、そうはイカのキン〇マなのです。

　それっ。

　どや、デコチャリの後ろにしがみ付いてやったで～。これで、よし子ちゃんをのせる気になったでしょう。

　で、でも、止まりません。デコチャリガ～ルが猛烈に立ちこぎしています。これ、四十キロを超えてますよ。制限速度違反ですって。よし子ちゃんは引きずられているのです。

　うわー。

　クマも全力疾走じゃんか。なして追ってくるのー。もういいじゃん。野生動物、死ぬほどしつこいわ。

　下りの傾斜がきつくなってきました。なんせあのキャンプ場、山の頂上付近にあったから、帰り道は超絶下り坂になるんですよ。

　ぐおう。

　すごい急カーブっす。デコチャリが超絶ハングオンっすよ。

　女子高生の膝が路面に触れるか触れないかのギリギリっす。引きずられているよし子ちゃんは、遠心力で外側に大きく振られてるんですけど。デコチャリから手を放したら谷底へ真っ逆さまじゃないですかー。

　ガッウウウーーーー。

　ぎゃっほー。

　く、クマー、が抱き着いてきましたよ。お、重いです。

　うっひゃー。

　くねくねの山道で、右に左にカーブがキツイっす。デコチャリが超絶ハングオンで、横Ｇのライブ感がハンパねえ。

　よし子ちゃんとクマが横へ振られすぎて、もはや接地すらしてません。デコチャリの後ろにつかまりながら空中にいます。

　おひゃ。

　と、飛んでます。

　デコチャリから手が離れてしまって、空中を飛んでいます。クマーに抱きつかれたまま、崖から落ちています、なう。

｛パパラ、パラパラパラパラパー、パパラ、パラパラパラパラペー｝

　崖の途中から、チャンネル登録、よろしくね～。