散華の庭
ももちよろづ
彼岸の桜
一八六八年 七月十九日
一番組長
一八六九年 六月
副長
✿ ✿
夏には、
きっと、
❀ ❀
「おや、土方さん」
「おう、沖田が世話になるな」
「沖田さんなら、
植木屋の主人が、くい、と奥を差す。
「
庭には、桜の花が、咲き
木々の葉に、陽光が
沖田総司は、新選組の一番組長だ。
新選組副長の俺と共に、ずっと京の治安を守って来た。
しかし、いつからか
俺は今日、戦の
「総司、来たぞ」
総司は、
「土方さん!」
俺の姿を見付けると、起き上がろうとする。
「ゴホッ、ゴホッ」
「寝てろ」
座敷に上がり、
「済みません……」
総司は
俺は
「具合は、どうだ?」
「ええ、今は少し落ち着いてます」
総司は、弱々しく笑みを浮かべた。
――
着物の首元から、ちらと
「……桜が、見頃だな」
俺は、庭へ目を
「
平五郎さんが、
総司は、
下の名で呼ぶ辺り、植木屋の主人には、良くして貰ってるらしい。
「早く、隊に戻りたいな……」
甘える様な声で言う。
「
「私が
「うるせぇ!」
「ふふっ」
総司は、
「そうだ」
総司は、がば、と起き上がり、布団を抜け出る。
「おい、平気なのか?」
「大丈夫、今日は、気分が良いから」
総司は、縁側から庭に下りる。
俺も、慌てて後を追った。
「あっ」
足下が
「危ねぇな」
俺は見兼ねて、手を取り支えてやる。
「有り難う」
総司は、俺の手を握り返し、
その
「立派な木……」
木の肌を、愛おしげに撫でる総司。
「太い幹だな」
樹齢は、どの位なんだろう……俺が、そう思った時だった。
「わっ!」
一陣の風が巻き起こる。
はらり、はらり。
一枚、又、一枚……。
一面の、薄紅色。
桜吹雪の中の、剣士。
「……散っちゃう、ね」
総司は、泣きそうな顔で、散る花を惜しんだ。
ここへ来てから、
「さて……そろそろ、帰るか」
俺は、
「次は、いつ……?」
総司が、期待と不安の入り混じった瞳で、見詰めて来る。
俺は、少し考えてから答えた。
「そうだな……暑くなる前には、又、来る」
「そうですか……」
総司は、
そんな顔をするなよ。
「この庭、
帰り
「ああ、よく手入れされてる」
ひらり、と一枚、桜の花びらが散った。
「夏には、蛍が飛ぶでしょう?
きっと、綺麗でしょうね。土方さん」
総司は、目を細めて、夏へと視線を遊ばせた。
✿
総司と別れ、俺は植木屋を後にした。
日は、もう西に
「……蛍、か」
足元には、桜の花びらが、散らばっていた。
ここへ来た時には、あんなに
「……散ると、早いもんだな」
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