第25話:リア充達の放課後

 商店会から狙っていた以上の成果を引き出した俺達はテンションが高いまま俺の家になだれ込んできた。


 もしかしたら、リア充達はこんなテンションの時にカラオケに繰り出すのかもしれない。


 俺はまだ人前で歌う程には上手くないので、今日カラオケに行くと言われたら何と答えただろうか。


 家に入ると玄関前の階段で真百合まゆりの足だけが見えた。自分の部屋の方に走って逃げて行った感じだろうか。だだだ、と階段を上がる音は聞こえたので、気のせいじゃないはずだ。


 俺が思ったよりも大人数で帰ってきたからびっくりしたのかも。


「……不躾ですまない。きみは妹さんとはあまり仲がよくないのか?」


 苦い顔で先輩が訊いた。いつだったか、初めて先輩が来た日も真百合が素っ気ない態度だったし気にしてくれているのかもしれない。


「まあ、口は一切きいてくれないですね」


「そうか……すまないな」


 俺達のわいわいムードに少しだけ影が差した。


「あ、でもバスケットとかジョギングとかは付き合ってくれてますから。それよりもリビングに行きましょう!」


「お邪魔します」

「おじゃましまーーーす」

「おじゃまします」

「(ペコリ)」


 口々に言って玄関にあがるみんな。


 ◇

「「「「「お疲れ様ー!」」」」」


 16畳ほどのリビングに男女5人でいる。一応ソファがあってそこに女性3人、俺と貞虎の男2人は床にクッションを敷いて座っている。


 仔猫のカレー(仮)の事もあるので俺の部屋に招きたいところだが、広さ的にキャパオーバーだった。


 ちなみに、カレー(仮)は先輩の膝の上でゴロゴロしている。


「元気でちた……元気だったか? カレー(仮)」


 あ、先輩が赤ちゃん言葉を踏みとどまった。それはまだみんなに知られたくないらしい。


「先輩、何なんですか? その『カレーカッコカリ』って」


「この子の仮の名前だ。良い名前が思いつかなくてな……」


 今永麻衣の質問に先輩が答えた。そうなのだ。結局、仔猫の名前は決め切れず、俺が言ってしまった「カレー」が仮の名として使われている。


「へー、カワイーー」


 今永麻衣が先輩の膝の上で目を細めているカレー(仮)の喉の辺りをちょいちょい撫でている。カレー(仮)も喉をごろごろ言わせているので、喜んでいるみたいだ。


 部屋を見渡すとローテーブルには、パーティー開けしたポテチやポッキーが置かれていて、炭酸系のジュースもペットボトルで買ってきていた。


 うちは両親とも働いているので帰りは比較的遅い。帰ってくるのは遅めの夕飯の時間なので割と自由にパーティーができる。今までは経験がなかったので気付かなかったけど。


「それにしても、みんなよくやってくれた! 本当にありがとう!」


 今日、何度 先輩からこうやってお礼を言われただろう。そのたびにこそばゆくてしょうがない。


「これで地域猫も殺処分が減るというものだ」


 見たくなかった現実だが、先輩の保護活動が届かなかった猫達は人知れず処分されているのだろう。中々シビアだ。


「それにしても野坂くんのアイデアはバッチリ決まったな! あれがなかったら今頃どうなっていたか……」


「いやぁ……」


 多分、俺はニチャアと汚い笑いを浮かべているだろう。褒められるのとか慣れてないし。


「やったじゃん! 誠! もうリア充でいいんじゃないの?」


「そうなんだろうか……」


 今永麻衣が言ってくれたけど、それをそのまま受け入れていいのか俺には分からない。「リア充=リアルが充実している」なのだから自己判断でいいと思うのだが……。


「でも、俺は普通に話していただけだし、その話を拾ったのは先輩で、検証とか肉付けはみんなでやったから……」


「そのみんなでやったってのが大きいんじゃないかな?」


 貞虎が炭酸ジュースのコップを持ったまま言った。


「これまでは、誠は一人だったじゃないか。教室でも俺にほとんど話しかけてくれなかったし……」


「そう! それよ! 誠と貞虎くんは仲が良いの!? いつの間にか自然に話してたから聞けなかったけど!」


 今永麻衣がポッキーで俺と貞虎を指さして(?)訊いた。


「俺たちは小学校の時からの友達だから、言ってみれば幼馴染じゃないかな」


「マジ!? 何かいいなぁ、幼馴染!」


 今永麻衣がポッキーを口に入れてポリポリと食べ進めつつ顔は若干不満そうに言った。


 彼女と貞虎はコミュ力が高い。この二人がいれば話題が尽きることは無さそうだ。


 そうか……貞虎はそんな風に思ってくれていたのか。これもまたこそばゆい。リア充は俺にはこそばゆすぎる。


「これからは、教室でも一緒に話そう」


 貞虎がキメ顔で言った。カッコよすぎる。


 ……俺は教室で貞虎と話しても大丈夫な人間になったのだろうか。


「誠はあれね。あと洋楽を聞いてフェスに行けば立派なリア充ね」


 今永麻衣がいつか俺が言ったことを揶揄っている。確かに洋楽は必ずしも必要ではなかったのかもしれない。


 そもそも、俺はなぜリア充を目指していたんだっけ? 俺のイメージするリア充ってどんなだっけ? いつの間にか理由がすっぽり抜けている事に気づいた。


 唐高幸江も今回の事で協力することを学んだかもしれない。まあ、俺が言うのもおこがましいけど。


 それで、友だちが2人でも3人でもいいって理解できたらいいな……。そんなことを考えつつ、唐高幸江を見ていた時だった。


「まーこーとー! 唐高さんのパンツ覗こうとしてるでしょーーー!」


 今永麻衣が俺の後ろ首を引っ張り上げた。女子たちがソファに座っていて、俺と貞虎が床に座っている関係で、俺達の目線が低い。


 真っすぐに唐高幸江の方を見ると……彼女の膝の真正面だった。膝を合わせているものの少し開けば確かに下着が見える高さだった。


 俺の視線に気がつくと、唐高幸江が真っ赤になって ばっ、とスカートを押さえた。


「いやっ! 違う! 違うから! 覗いてないから!」


「~~~~~~~~~///」


 声にならない声を上げた。まあ、本気で嫌がっている感じではないから大丈夫。……そう思いたい。


「「「ははははは」」」


 あ、これは揶揄われただけだ。でも、嫌な感じはしない。


「逆に、麻衣は誠といつの間に仲良くなったんだい?」


 貞虎が今永麻衣に聞いた。


「へへへ~、秘密~~~」


 彼女ははぐらかす様に答えた。そりゃあ、裏垢でエロ写真をバンバン投稿していたのを秘密にし合っている【共犯関係】とは言えないよなぁ……。


「何だよ。誠の友だちの先輩として教えて欲しかったのに」


 貞虎がウインクして言った。いや、無駄に決まってるんだよ。美男美女だし、もしここが付き合っていたら誰も文句を言わないだろうし、間に入り込もうなんて思うヤツはいないだろうなぁ。


「へへへへへへへ」


「ははははははは」


 今永麻衣と貞虎は笑い合っていた。何かここの二人は通じる物がある様な……。リア充繋がりかな?


 唐高幸江の方を見たら目が合った。


 少し頬を膨らせて「見たいの?」と真っ赤な顔で言われた。


 何を? 何を?


「ははははは。きみたちは本当に仲がいいな」


 先輩が笑いながらしみじみ言った。何となく秘密を知ってしまって妙なつながりができただけなんだけど……。


「……」


 先輩がカレー(仮)を抱きかかえながら表情を少し曇らせた。


「どうしたんですか? 先輩」


「いや、野坂くんに相談と言うか、みんなにお願いと言うか……」


「言ってください」


 もしかしたら、カレー(仮)関係だろうか。


「その……これから生徒会の仕事が忙しくなる。商店街のホームページも作らないといけない。持久走の手配や運営もある……。私一人ではとても……」


「もちろん、手伝いますよ?」


「へ?」


 いや、あれだけ色々仕事を作ってしまったんだ。その後を丸投げする程 人でなしじゃない。


「さすがに先輩だけに押し付けたりしないですよ」


 貞虎達の方を見たら……ニヤニヤしてこちらを見ていた。


「俺達ももちろん手伝うよ。コンペの時、色々と啖呵切ってしまったしね」


 貞虎が髪をかき上げながら言った。自然な感じで笑いながら。これがまたカッコイイ。


「私は誠がやるなら面白そうだからやるー」


 今永麻衣は口にポッキーを咥えたまま、何でもない事の様に言った。


「わた……私は……私も……とも……だちのためだから……」


 ツインテールの唐高幸江が頑張って言ってくれた。


「みんなやるみたいです」


 俺が先輩の方を見ていった。


「みんな……すまない……いや、ありがとう。正式な生徒会のメンバーとして迎えられるようにするから。仕事をしてもらうのだから、ちゃんと恩恵にも与れるように手配しておくよ」


 また先輩にお礼を言われてしまった。


(カタン)その時、リビングのドアが閉まった気がした。


 ドアの方を見たけど、特に何もない。俺達はそのままパーティーをして暗くなる頃には解散したのだった。

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