黒ぶち猫は、今日もびしょ濡れ

百川 凛

第1話

 ずっと猫みたいな人だなぁって思ってた。


 隣の席のたまきくん。


 華奢な体に白い肌、サラサラの黒髪につりあがった目元。ポカポカした日の当たる場所が好きで、授業中によく居眠りしてて、気分屋でマイペース、寂しがり屋で飽きっぽい。口数は少なくて無愛想だけど、たまに優しい。


 ほら、名前も性格も行動も全部が全部猫みたい。


 今日だって六限目から突然いなくなっちゃったし。私は教室で一人ぽつんと日誌を書いていた。週番の相方である環くんが、放課後になった今でも戻ってこなかったからだ。


 この時間でも姿が見えないという事は、時間を忘れてどこかで昼寝でもしてるか、とっくに帰ってしまったかのどちらかだろう。う〜ん、せめて週番の仕事はしていってほしかったなぁ……と恨みがましい視線を隣に送りながら、私は日誌に今日の出来事を埋めていく。まぁ、日誌以外の仕事はちゃんとやってくれたからいいんだけどね。


 日誌を職員室に届けミッションコンプリート。昇降口で靴を履き替えた私は、急いで校舎裏に向かった。人気ひとけのない静かなそこは、密かに私のお気に入りの場所である。



 ……いた。



 廃れたベンチに猫が一匹、気持ち良さそうにすやすやと眠っている。白い体に黒がちょこっと混ざったぶち猫。右耳から目の下にかけて黒い毛で覆われていて、まるで人間の前髪のようだ。


 私の気配に気付いたのかパッと目を開けると、「ナーオ」と可愛らしく鳴き声を上げた。私の頬がふにゃりとゆるむ。

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