佐津間博昭は神を倒し願いを叶える事ができるのか?

霜花 桔梗

第1話 世界の雫

「佐津間、今日も園月ゼミか?」

「ああ、ま、そんなところだ」

「自己犠牲もいい加減しとけよ」


 わたしの所属する園月ゼミは『世界の雫』を研究していた。


 そう『世界の雫』はどんな願いも叶うと言われて、わたしは双子の妹の為に『世界の雫』を探して願いを叶えようとしていた。

妹は自宅の防音室に籠り、ピアノでのユーチューバーになりたいらしい。


 きっと妹をユーチューバーにすることも可能だと言う話だ。しかし、自己犠牲はと耳の痛い話だ。きっと時代錯誤である。そんなことを考えながら、グランドを横切ると……。


「そこの男子、背中が丸まっている。この学園の生徒ならプライドを持て」


 と、女子サッカー部のキャプテンの美々に言われる。ここで心が動くのだ、自己犠牲気質も自慢できる。ただのマゾとも言えるがそこは内緒な話だ。


 そんな訳で『世界の雫』を求める理由が増えた。


 そして、今日も校舎別館で園月ゼミである。


「今日の研究テーマは古典からみる『世界の雫』だ」


 竹取物語の資料が配られる。


「これは月が『世界の雫』の役割なのでは?」


 このゼミは過去の歴史から見る『世界の雫』について語ることが多い。英雄などの歴史上の人物が『世界の雫』を手に入れた痕跡があるからだ。


 この『世界の雫』は永遠の命の願いが叶うかは異論が多い。例えば空海など信仰との形で残ることが推測される。


「そこでだ、死を司る『デス』は現れたか?」

「水晶の中で眠っている」


 『世界の雫』はデスを倒すことで得られると言われている。


 しかし、デスは水晶の中で眠っている。この園月ゼミの最終的な目的はデスを倒すことである。来る時の為に武術の稽古をしていた。


「佐津間くん、今日も一局いいかな?」

「はい」


 大柄な秋田さんは高等部三年である。校舎別館の一階に道場があり、そこで対戦する。秋田さんは大きめの木刀を構える。わたしは小型の木刀二刀流である。実戦では小太刀二刀流で戦う。道場の中に木刀の当たる音が響く。わたしは秋田さんの力技に吹っ飛ぶ。


「どうした?心に乱れがあるぞ」

「簡単な事だ、女子サッカー部のキャプテンに惚れてな」

「謙虚な佐津間くんらしくないな、妹さんのピアノを日の当たる場所に置きたいのではなかったのか?」

「人生、何があるか分からないから面白いのだ」


 わたしは小太刀をクロスさせて秋田さんに切り込む。


「強い……」


 結果は木刀が首筋手前で寸止めされていた。


「やはり、デスを倒す本命だけのことはある」


 そのセリフは秋田さんの敗北宣言であった。


「ありがとうございます」


 わたしは礼をして別館のロビーに行く。汗を拭くと園月ゼミの面子がひそひそと話している。この園月ゼミは共闘であるが皆はライバルである。


 少し目立ったか……。


 わたしは足早に別館を出るのであった。

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