生死分別詩集
YOSHITAKA SHUUKI(ぱーか
デスゲーム
【1】
噓で固められた24インチの液晶カラーテレビは、カラーの意味をなさない。モザイクに隠された真実を誰も見ようとせず、ニュースに疑いを差し挟む者もいない。だから騙され、騙しあって、殺し、殺しあって人は自ら消滅の道を選んだ。
廃墟と化した街に一人の少年が歩いていた。歩みは遅く、瞳に感情はない。それは生きる糧を見失っているように思える。その瞳で空を見上げると地獄のような光景があった。空は赤く、煙が燃え上がっている。黒くて長い物が空を行き交い、落下していく。それは地面に直撃したのか、大きな音が後方から鳴り響いた。音は耳に残り、恐怖というインパクトを与える。しかし、少年の瞳に感情が戻ることはなかった。無の感情で、少年はモザイクを永遠と探し続ける。
少年は黒い袋を両手に持ち、それを引きずりながら歩く。黒い袋はパンパンに詰められ、モザイクの顔のラインがくっきり内から浮き出ていた。少年は周囲を見渡し、点在するモザイクに目を付けた。そして彼らに駆け寄るとモザイクを部位ごとに切り落とし、袋に詰める。すると、袋の中でモザイクとモザイクが争いをし始める。肉片が千切れ、血飛沫が舞う。モザイクたちはまるで生きているかのように、互いに傷つけあって最終的に1つとなった。 しかし、少年は顔色1つ変えずに立ち上がり無表情のまま歩き出した。足取りは重く、一歩一歩が遅い。それでも灰を踏みしめ、心臓を動かす少年。千切れそうな筋肉を懸命に前に出し、もう存在しない目的地を目指す。そして少年は、かつて高層ビルが立ち並ぶ都会だった廃墟へと足を踏み出した。遠くのほうに人影が映る。その人影は、崩壊寸前のビルに押しつぶされようとしていた。しかし人間はビルに気づかず、黒くて長い物を何やらいじっている。少年は彼に伝えようとした。そこにいたら危ないと。君の命が消えると。その少年の善良な行動は、突然脳裏に浮かぶ男の警告によって塞がれた。
「絶対に声を出すな」
消えかけていた柔らかな男の声が、少年の喉に栓をした。栓の隙間から漏れ出す声は、吐息となって空気に触れた。
「は……」
同時だった。ビルが轟音を立てて崩れ去る。呆気なく巻き込まれ、モザイクとなった。命1つ分の黒くて長い物も一緒になって砕かれた。命は一瞬にして吹き消される。少年の目の前で命がまた1つ消えた。昨日も消え、今日も消えた。そして、少年はモザイク越しのモザイクをまた見る。少年の瞳は、絶望と絶望を繰り返していた。
【2】
テレビは真実を伝えず、国民に嘘を報じる。追い詰められても窮余の一策も講じず、見てみぬふりで国民を見放す。
少年は傍らに落ちている家族写真をふと見つけた。それを拾い上げ、無表情でじっと見つめる。そして、その写真を懐に仕舞った。
少年は晒された荒野の大地を歩く。コンクリートの割れた足元の悪い場所を突き進む。しかし、どれだけ歩いても景色は変わらない。降り注ぐ陽の光と妙に冷たい風がつき纏うだけ。やがて、少年は音を立てて崩れ落ちた。黒い袋の中のモザイクが外にばら撒かれ、大小様々なモザイクが少年を囲んだ。顔、手、脚、手、顔、胴体。それらは更なる絶望へと貶めた。モザイクの生気のない瞳が心を突き刺し、モザイクの薬指につけられたままの指輪は、少年の口を酸っぱい味で満たした。やがて解き放たれた嘔吐は止まらない。「大丈夫?」と声をかけてくれるものはおらず、少年は胃液が無くなるまで嘔吐し続けた。口から吐きだされ消化しきれなかった食材達が地面に落ちる。その1つの食材に、少年はかぶりつく。その懐かしい家族の味に少年は久し振りに涙を流し、モザイクに駆け寄ってモザイクを抱きしめた。その瞬間に少年は違和感を感じた。少年の全身を冷たい感触が駆け巡っていく。もう、あの温かい感触はそこにはなかった。モザイクとなった死体を少年は抱きしめていたのだった。その事実に少年は泣き喚き、両目をナイフで潰すと自身の喉を掻き切ってモザイクとなった。
命は一瞬にして吹き消される。テレビは、情報ツールとしての価値は微塵もない。都合の悪いことを消去し、国民に情報操作を行う負の遺産。垂れ流すのは素人達の学芸会、本物のエリート達は蚊帳の外。ニュースで専門家を気取る芸能人に、忖度まみれのバラエティー番組。知りもしない国民に縛られ、あぐらをかいている国民の顔色を窺い、腐りきった国民に嘘を伝える粗大ゴミ。国民は知らない。
モザイクに隠された真実を。
モザイクに隠された残酷さを。
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