彼女の元カレぶっ潰す委員会
シャクジュンジ
第0話 過去の恋
恋愛に対しての男女のスタンスの違いとして、男は過去の恋すべてに「名前を付けて保存」し、女は「上書き保存」すると一般的に言われている。要するに、男性は新しい恋を初めても過去の恋を忘れられない生き物であり、逆に女性は新しい恋を始めると過去の恋は忘れてしまう生き物であるということだ。
この言説について、僕は少し前まで「まったくもってその通りだ」と思っていた。
もちろん、ジェンダーレスが叫ばれる現代に「男とはこうである」「女とはこうである」と決めつける思想が望まれていないのはわかる。だけど実際、僕の知る限りほとんどの男女があの言説通りの恋愛観を持っていたし、それは恋愛ドラマや漫画などを見ても間違っていないように感じられた。
しかし、そんな僕の考えに異を唱えたのが、当時、僕の彼女だった
いったいどういった話の流れで、そんな話題になったのかは忘れてしまった。
とにかく、飛鳥井さんに例の言説を聞かせたところ、彼女は即座に「それは違う」と首を横に振ったのだった。
彼女曰く。
「それは違う。私は女だから男性についてはわからないけど、少なくとも女性について言うならその言説は間違っていると思うわ」
とのことだった。
「それはどうして?」
僕が問うと、彼女は答えた。
「当然よ。新しい恋人が見つかったくらいで付き合った相手のことを完全に忘れるほど、女性というものは薄情ではないわ。元カレとのことだって当然憶えてる。ただ、ちょっとだけ男の人よりも忘れたふりが得意で、なおかつ合理的なだけ」
「どういうこと?」
僕は首を傾げる。
すると、察しの悪い僕に飛鳥井さんは少し焦れたように言った。
「要するに、『上書き保存』したことにした方が都合が良いのよ。たとえばデートで一緒に遊園地に行って、『ここ、元カレと来たことあるんだ』って言われるよりも、嘘でも『わぁ! 初めて来た!』って言われた方が嬉しいでしょ」
「……それは、たしかに」
わかりやすいけど、彼氏として微妙に頷きづらい発言だ。
そういえば、飛鳥井さんをデートでどこに連れて行っても、いつも新鮮なリアクションで喜んでくれていたような……
「
飛鳥井さんの語りは徐々にヒートアップし始める。
「……って言うか、カップルにとって元カレの存在って、ぶっちゃけ邪魔以外の何ものでもないわよね。それは彼氏にとっても彼女にとっても。彼氏側にとっては、自分の彼女に元カレがいると知ればどうしても勘ぐってしまうものだし、比べられることに敏感になってしまう。彼女側にとっても、彼氏から勘ぐられたらショックだし、もし元カレが未練タラタラだったら『よりを戻そう』なんて言われる可能性だってあるわけでしょ。ホント害悪」
「……ははっ……そう、だね」
どう反応すれば良いのかわからず、僕は引きつった笑いを浮かべることしかできなかった。
飛鳥井さんに過去付き合っていた男がいることを僕は知っている。しかも、それが一人や二人ではないことも。付き合い始めてすぐの頃に飛鳥井さんの方から打ち明けられていた。僕にとって飛鳥井さんは初めての彼女だけど、飛鳥井さんにとって僕は何人目かの彼氏。それを理解した上で僕は彼女と付き合っていた。
だけど、そんな僕と飛鳥井さんの交際もやがて終わりを迎えた。
今思い返せば、こんな話を彼氏である僕に対してできたということは、この時点ですでに僕は飛鳥井さんから彼氏として見られていなかったのだろう。
実際、僕が彼女から別れ話を切り出されたのは、それから二日後のことだった。
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