第2話 料理上手のヴァンパイアの手料理

「えっ……? 突然弁解なんかしてどうしたの?」


吸血鬼ヴァンパイアって知られてしまったので……追い出されると思って……」


「どうして?」


「……前住んでいた家も吸血鬼ヴァンパイアだとバレちゃって追い出されてしまったので……」


静かに顔を上げてシリカは、作り笑顔でこちらを向いた。


シリカの偽善の作り笑顔に翔は、心が鷲掴みにされた気分になった。


前に住んでいた家の人に吸血鬼ヴァンパイアだとバレて住む場所を追い出されて、それが何度も起これば、こうなるのも当然か。シリカと立場が逆だったら翔は、とっくに挫けてる。


「そんな事気にするな。俺は追い出さない」


「えっ……」


「俺からシリカを家に招いたんだ、だから吸血鬼だろうと関係ない。安心して暮らせ」


「でも……吸血鬼なんですよ! いつ吸血衝動を起こすか……!」


「そんなの関係ないよ。今まで他の家でも耐えて来たんだ。もし耐えられなかった俺の血を吸っていいから」


翔が微笑みながら頭を撫でながら言うとシリカは、先程まで涙目だった目から――涙を流した。


「うぐっ……初めて言われました……」


家を淡々と回って来て、挙句の果てに吸血鬼だとバレたら、『出ていけ』やら『気味が悪い』やら言われて追い出されたのだろう。何故こんなにも性格が良く、美しい銀髪を持っている可憐な少女をみんな追い出すのだろう。誰か一人くらいこの子に手を差し伸べ無かったのかよ……。


でも、そうか。みんな大切な家族が居るのか……大切な家族の為に吸血鬼は家に置けないか。もし立場が、逆だったらきっと同じ事をしていたのかもしれない。


「そっかなら俺が一番近くで初めてこのセリフをシリカに言ったんだな。あ、でも変な気遣いはするなよ」


顔を見ながら言うと、更に大粒の涙を流してシリカは、翔の胸に抱き着いた。


突然胸に抱きつかれた事に戸惑ったが、そっとシリカの背中に手を回して頭を撫でた。


「俺の胸で良ければ、いつでも貸すから溜め込んで分泣きな」


「……っ!」


「ホントによく今まで我慢したな」


「……ううっ……」


翔が優しく言うとシリカは、胸に顔を埋めて涙を流した。誰にも相談出来なくて、一人孤独に溜め込んでた辛さをやっと解放出来たんだもんな。本当に良く耐えたよ安心しな。


これからは――ここが君の家だから。



シリカが胸の中で泣いてから十分程経って、シリカは顔を上げて翔の目をじっと見つめていた。


「どうしてそんなに、優しくしてくれるんですか?」


「えっ? 突然どうした?」


「その、私と会ってまだ数時間しか経ってないのにどうしてそんなに優しくしてくれるのかと、ふと疑問に思って」


「優しいって、まだ分からないぞ? 寝込みを襲うかもしれないぞ?」


翔がシリカにふざけ気味に言うとシリカは、表情を緩めてクスりと微笑みながら言った。


「それは、心配ですね。でも私は、他の人の家を淡々としてきたので、人が何を思っているのか分かるんです。だから翔くんがそんな事をしないって分かります」


「それは、今後が大変だな。にしても腹減ったな〜」


「もう七時ですもんね。少しキッチンを借りても良いですか? 私が何か作りますよ」


シリカの提案に内心ガッツポーズをしていた。女性との関わりが皆無かいむの翔にとって美少女の手料理を食べる機会など無いに等しいからだ。


「それはいいが、さっきも言った通り俺料理は、あまり出来ないぞ?」


翔が若干顔を引き攣らせながら言うとシリカは、キッチンに向かいながらこっちを振り向いた。


「気にしないで下さい。人には向き不向きが有りますから」


「ありがとな」


「気にしないで下さい」


再びキッチンに振り向いて冷蔵庫を開けて、中の物を見ているシリカが冷蔵庫を漁りながら何を作る悩んでいる。


その様子を静かに眺めていると、シリカは、視線に気付いたのか、ハッとした顔でこちらを見た。


「聞くの忘れてましたが、翔くんって何か嫌いな食べ物有りますか?」


「嫌いな食べ物か? 特に無いぞ」


「そうですか。なら、親子丼でも作りますか」


「親子丼か最近食べてないから楽しみだな」


翔が喜びながら言うと、シリカかは、口元に手を添えて「楽しみに待ってて下さいね」と軽く微笑んだ。


シリカが、料理を作り始めてから十五分程経った頃キッチンからまろやかな匂いが流れて来た。


「いい匂いだな、お腹と背中が今にもくっつきそうだよ」


「それは、困りましたね。でももう出来ましたよ。お皿に盛りますから取りに来て下さい」


キッチンにシリカ特製の出来たてホヤホヤの親子丼を取りに行き、シリカと対面してテーブルに座る。


「本当に美味しそうだな!」


「ありがとうございます。では、食べましょうか、翔くん」


「そうだな。頂きます」


「頂きます」


二人で手を合わせて翔とシリカは、スプーンを手に取り親子丼を口に運んだ。









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