第14話 書簡
「さて、と・・・そろそろ動くとしましょうかね。
弥生さん達は、先に詰め所に戻ってて下さい。俺はホームに直行して、
祭壇を片付けてから戻りますんで」
「ええ、了解。何か手伝える事があったら呼んでね」
暫し感傷の時間を過ごした後、小次郎はホームへ向かう。
儀式で使用した祭壇を撤収し、駅舎を日常の空間へ戻す最終仕上げだ。
「んんん~っ!・・・」
改札を通ってホームに入ると、大きく伸びをする。
儀式の最中とはまるで異なって『The・夏』といった感じの空気だ。
「折角なら小川でスイカ冷やしておけばよかったなぁ・・・」
一晩明けたとは言えども、まだまだ夏真っ盛り。
むしろ盆を過ぎて益々暑さが増して来ている感が有る。
「それにしても、昨日より更に暑くなってないかね、コレ?」
汗を垂らしながら、祭壇を片付け始める。
三方に供えてあった葡萄、筍、桃は全て無くなっていた。
「お、今年も全てお持ちになられたか。お眼鏡に叶ったようで良かった・・・」
儀式の際、黄泉の乙女達に対する供物として葡萄、筍、桃をお供えするのは
如月家では歴代の慣わしとされている。
元々“逃げる手段”として使われた物なのだが、如月家がこの儀式を執り行うように
なってからは、導き手への敬意を最大限に示す物とする位置付けになったのだ。
父からの指示で供物を揃えたものの、品質が余りよろしく無い物であった時は、
乙女達はそれを持ち帰らず、事後には父から叱られるという事も多々あった。
文字通り、供物の重要性を拳骨で叩き込まれたのである。
今より遥かに未熟であった頃を思い出し、苦笑しつつ手際良く片付ける。
すると祭壇の最上段、端の方に一枚の葉が残されていたのに気付く。
「桃の葉一枚だけ? う~んマズいなぁ、もしかして虫食いを見落としたか?」
そう言って桃の葉を覗き込み、次の瞬間、小次郎は眼を見開き震え出した。
「え・・・・え・・・・嘘ぉ・・・」
優雅な文字で、こう書かれている。
『古継月一族 貢献多大鑑 此度失態 処不問
汝精進一層 継月一族 尊名辱勿事』
それは、黄泉の女王からの書簡であった。
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