最終話
僕は許してもらえただろうか?
ごめんなさいが
伝わっただろうか?
一緒に背負い続ける事を
君は許してくれるだろうか?
*** 最終話
「……そういう事、か」
目覚めた時まず目に入ったのは白い天井と白いカーテン。次にベッドが四つ、俺以外寝てる奴は居ない。ここは、保健室か? と思った瞬間、視界の横から顔が飛び出して来た。
「金護君! ああ、良かった! 大丈夫? 車に金護君がぶつかったんだよ! 覚えてる? それで、ここは病院で、右腕と右足折れたの、あと頭も打って、あ、そっちは精密検査で大した事無かったんだけど、しばらくはリハビリだってお医者さんが
立て板に水とばかりに話し出す雨ヶ咲。その十五年ぶりに会う顔に俺は、
「久しぶり。るぅちゃん」
「っ!!……かねもり、くん?」
「はは、そういやそう呼んでたよな、あの頃。全部思い出したよ。二人で〈おままごと〉やってて、泥団子食ったんだよな、お前。それで、お腹が痛いって言われたから、バイ菌が入ったんだ! って思って。よりによって『洗剤を飲ませれば殺菌できるかも』って考えたんだよな、馬鹿な俺は」
「……思い出したんだ」
[ごめんなさい]
「最初から気づいてたのか?」
「ううん、私も最初は気づかなかった。全身鉄でできてるんだもん。気づきようが無いよ。でもお姉ちゃんに相談して、金護君の名前言ったら教えてくれて……」
「死んでなかったんだな。あの後会えなかったから勘違いしちまった」
[そして]
「大きな病院に移って、そのまま引っ越したの。退院後も通う必要があって」
「なんで気づいた時に俺に言わねーんだよ」
[ありがとう]
「忘れてるならその方が良いかなって思ったの。今更だし。でも、大鎁君も苦しんでるって知って、どうしたら良いのかずっと考えてた」
[生きていてくれてありがとう]
「……今の俺、どう見える?」
「あ、そう、そうなんだよ! 事故の時から普通に見えるようになって!」
「俺もだ。普通の人間に見える」
「え!?」
[また会えてありがとう]
「……何してんの? いきなり後ろ向いて」
「なんか、今更素顔見られるの、恥ずかしい……」
「えぇ……って言うか、お前は俺の顔散々見たんだろ?」
「うぅ、それはそうだけど」
[償わせてくれてありがとう]
「そんな事より、喉が渇いたな」
「そんな事って……じゃあ、氷貰ってくる」
「いや、水で良い」
「え? ……分かった」
数分後。雨ヶ咲が持って来た紙コップを左手で受け取り、中の水を見つめる。
もう随分この液体に触れてこなかった気さえする。
俺以上に緊張した面持ちで、雨ヶ咲がコップを見つめている中、俺は一度深呼吸をして、その水を呷った。
ゴクッ! ゴクッ! ゴクッ! フー
「……どう?」
「……水って、こんなに美味かったんだな」
ぱぁっと明るい表情になった後、ゆっくりとその顔が歪み、泣き崩れていく。
「おいおい、何でお前が泣くんだよ」
「ぐすっ、だって、良かった……ほんとに」
そんな雨ヶ咲を見て、俺はその頭を撫でたい衝動を必死に抑え……るのを止めた。
雨ヶ咲は一瞬動きを止め、更に大きく泣き出す。
自分の気持ちを抑え込んだり、隠したり、我慢するのは却って失礼な気がしたんだ。
だって彼女は、こんなにも俺に
しばらくそうして雨ヶ咲が落ち着いた所で、俺も手を離した。
さて、最後に例の件に
「そういや、あのチョコレートどうした?」
「あ、一応持ってるけど、ぐちゃぐちゃになって……」
「良いよ、食いたい。くれ」
おずおずと鞄の中から出てきたそれは、見事にタイヤの跡が付いていて、踏み潰されていた。
「また作るから」
「いや、それで良い。それが食いたいんだ、今、ここで。片手じゃ開けられないから開けてくれ」
譲る気が無い気配を察し、雨ヶ咲は包みを解いて箱からチョコレートを出す。最早原形が何だったかも分からない欠片を左手で掴めるだけ掴み、噛み砕く。
ガリッ! ゴリッ! ボリ、ボリ……
「これ、大豆入ってるのか?」
「あ、うん、好きかと思って……美味しくなかった?」
「……癖になるな、これ」
不安気にこちらを窺う表情が、一気に喜色満面になった。
くっ、ぐああぁーー! 可愛いじゃねえか! コンチクショウ!!
いや、ここは行くべきじゃないのか? そもそも目の前でチョコレートを食ったんだし、この先これ以上のチャンスがあるとは思えない、何より俺が今を逃したら言えない気がする! ……よし、覚悟完了! 金護ダイヤは砕けない!! 行くぞ!!!
「雨ヶ咲!」
「は、はい!?」
「俺! ぁ……雨ヶ咲の事!
「は〜い! 尿瓶出して尿瓶、取ってあげるから。なんなら小便以外も出すの手伝ってあげるわよ〜ん!」
……まあ、そうなるよな。ああ分かってたさ! タグに『恋愛要素無し』ってあるし!
「あ、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん!? って空先生の事かよ!」
「あ、うん、ごめん。今まで口止めされてて」
[
「は~い、旧姓
「聞いてねぇよ! 口止めって今言ってただろ!」
[本当にありがとうございました]
「まあまあ、五年後にはあんたの義姉になってるかもしれないし」
「なるか馬鹿!」
[あなたが居なければこの結末はあり得なかった]
「……///」
「そこ! 満更でもない顔をするなぁ!!」
「あ〜ん? 可愛い妹を傷モノにしといて、責任取らねぇってかあ?」
[二人とも、本当にありがとう]
「傷モノってそういう意味じゃねえよ! あんたホントに教師か!!」
「ぷっ、あは、ははは!」
「こら大鎁! 病室で大声出すんじゃないよ! そこの二人も病室では静かにして下さい!」
「げえっ! 関羽…じゃなくてオカン!」
「☆〇★□!」
「△▼●◆~」
「wwwww」
【ティーンモンスターシンドローム】になるのは思春期の子の中で1万人に1人だという。
1/10000 × 1/10000
これは、1億分の1の確率で起きた、小さな町の、小さな奇跡の物語。
*** 水よりも固く、石よりも柔らかに ***
*** 終 幕 ***
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