水よりも固く、石よりも柔らかに

レイノール斉藤

第一話 エンカウントは突然に

 高校二年、冬休み明けの始業式後のホームルーム。

 いつもなら担任の火村は教室のガヤを静めるため、そこだけ禿げ上がった頭頂部を突き出して「太陽拳!」と言って場の空気を凍らせるのが常だったが、今回は違っていた。


「はい静かに! 今日は転校生を紹介する」


 その言葉に俺を含め、休み中の近況を話し合っていたクラスメート全員が教卓の方を向く。こちら側が何か反応する前に、既にその子は先生の隣に立っていた。


雨ヶ咲 流海あまがさき るみです。よろしくお願いします」

「………………!?」


 そして、俺はその子を見た瞬間。凄まじい衝撃を覚え、完全に目が釘付けになった。一気に動悸が激しくなり、動けなくなるのに手は震え始める。みるみる内に口は乾き、頭だけが現状を解釈する方法を今までの経験から高速で検索を始めるが、結果は『該当無し』一択だった。


 ……と言うと一目惚れに聞こえそうだが、そんな柔らかい衝撃ではない。


 丁寧にお辞儀をする転校生。小柄で、一見中学生にも見えるが声は大人びていて、既にここの制服を着ているので、ギリギリ高校生で通じるくらいの雰囲気になっている。

 小声で「かわいい」「小さい」だのが聞こえてくる。が、誰も騒がない。連れてきた先生でさえも何も触れようとしない。むしろ、そっちの方が俺にとって何よりの違和感だった。


 いやいやいや、おかしいだろ! 何で誰も騒がないんだ!?


 何これ? 集団ドッキリか何かか?


 え? もしかしておかしいのは俺の方か?


 なんで……



 全身がなんだ!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る