砦の中の抹茶カフェ

健野屋ふみ(たけのやふみ)

始まりの章

1話 ~瓶の中のしあわせ~

『壱 小琥路こころの想い』



わたしは小琥路こころ3人姉妹の長女で、カタストロフィー後の砦内で暮らしている。砦の外は無法地帯で危険極まりない。


それでも、やっと抹茶カフェ小琥路のオープンに漕ぎ着け、今はお店として大切な時期。相変わらず客は少ないが、少しづつ増えてはいる。


カランコロン♪


呼び鈴が鳴り、次女の朱里あかりちゃんが帰ってきた。


「ただいま~」

「お帰り~朱里あかりちゃん」


砦を出て隊商を組んで、商いをしている朱里あかりちゃんの格好は革のパンツに革ジャン。

さらに腰にはショットガンとリボルバーが装備されていた。

世紀末ファッションで、男気いっぱいだ。


「はいお土産、姉貴には【開店&準備中の看板】」

センスのある看板を取りだした。

「お洒落ー!きっとカタストロフィー前に作られたモノだよね!」

「でしょうね。センスあるでしょう」


文明崩壊後、そう言ったセンスのあるデザインは、まず作られない。


どたどたどた♪


朱里あかりの帰還に、2階から環琉めぐるが掛け降りて来た。

環琉めぐるはダイビングして朱里の抱き着き、

朱里あかりちゃん大好き~」

と『好き好き』した後、朱里あかりちゃんの後ろにいる、時代錯誤な着物を着た女の子の存在に気付いた。


「誰この娘?」

「この子は、砦の外で拾ってきた」


環琉めぐるは着物の女の子を見つめ、


「今時着物って、前前時代かよ」

「わらわは、サトイモのお里!乱世に永遠の癒しをもたらす者」

お里は、ポーズを決めた。

「それカッコいいか?」

「間違った、わらわは、お前以外に永遠の癒しをもたらす者」

「変な子!」


環琉めぐるは人見知りが激しくて大変。

気は良い子なんだけど。



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『弐 朱里あかりの想い』




「おはよう」

2階から1階の店の控室に降りると、お里が、

「おはようございまする」

と挨拶をした。


砦の外で見つけた時は、衰弱していたが、一晩眠ると生気を取り戻したみたいで、良かった。


「ここの居心地は最高でする!

悪党ばかりの外とは違って、極楽浄土でする。

ここには本当のしあわせが、あるのです」


カタストロフィーは、文明世界を破壊してしまったのだ。


「お里ちゃん、抹茶モンブランを冷蔵庫に入れとくからおやつに食べてね」

と店の方から小琥路の声が聞こえた。


「抹茶モンブラン?」

その美味しそうな単語に、お里の目が輝いた。

そりゃそうだろう砦の外は世紀末だ。


「【おやつ】って何?しあわせそうな響きがするけど」


お里は【おやつ】も知らないらしい。なんか泣ける。


「【おやつ】ってのはね、3時に食べるお菓子だよ」

「3時?」

時計の針は、まだ午後1時を過ぎたばかりだ。

「そう3時まで待てるね?」

「は~い」

可愛いお返事だ。環琉とは大違いだ。

どうしたらあんな我儘に育つのだろう?


あたしは姉貴こころが作ったおにぎりを、頂くことにした。

久しぶりに食べる姉貴こころのおにぎりは最高だ。

愛情が、ほとばしっているのだ。


ゴーンゴーン♪


大きな柱時計が午後2時を知らせた。

「まだ?」

「ま~だ」


午後2時の時点では、抹茶モンブランは存在していた。

「ふふふ、あと一時♪お昼寝でもしときまする♪」

そう言ってお里は、お昼寝を始め、あたしも2階の武器庫に引き上げた。


ゴーンゴーン♪


大きな柱時計が午後3時を知らせた後、階下から叫び声が聞こえた。

「おやつがない!」

その時のあたしには、この後の事件など想いもしなかった。



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『参 環琉めぐるの想い』




永遠の旅に

     お里



お里が出て行った?

その置手紙は冷蔵庫の中にあった。

抹茶モンブランがあった場所だ!


うちが抹茶モンブランを、食べてしまったせいだ!


「おはよう~皆の衆」

ともう午後5時だが、朱里あかりちゃんが2階から降りて来た。


「お里がいなくなった」

うちはその危機を朱里ちゃんに告げた。さらに、

朱里あかりちゃん大変!お客さんが1人もこない!」

小琥路ちゃんも、泣きそうな顔をしながら控えの部屋に入って来た。


「な~に、その位で」

砦の外で世紀末を生きてる朱里あかりちゃんは、砦の中とは危機感が違うのだ。


「今迄順調に増えてたのに、1人も来ないなんて」

小琥路こころちゃんの心配性レベルがマックスの表情だ。


「うちがお里のおやつ食べてしまったから、出て行っちゃたんだよ。

どうしよう、また砦の外に出てたら、うちのせいだ!」


心配するうちと小琥路こころちゃんに、朱里あかりちゃんはニヤリと笑うと、おにぎりを一口食べ、一考し


「皆の衆、座敷童って知ってる?」

「妖怪の類?」

「まあそんなものね。座敷童が家にいるとその家に繁栄をもたらし、逆に怒らせると没落させる」


「うちが抹茶モンブラン食べて怒らせたから、客が1人も来なくなった?」

「あの子今時着物を着てたし『お里は、乱世に癒しをもたらす者』って、それっぽいこと言ってた」


「だったらうけるよね~」

朱里ちゃんは笑ったが、小琥路ちゃんの落ち込んだ。

小琥路こころちゃんはちょっと前まで、カタストロフィで鬱に陥っていたのだ。


小琥路こころちゃん、ごめんなさい、うちのせいで」


予想外の落ち込みむ、うちと小琥路こころに、朱里あかりちゃんは慌てて

「2人とも冗談だよ。ほら笑って、笑う門には福来るだよ。ほら!」


うちと小琥路こころちゃんは、無理やり笑顔を作ってみた。



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『四 お里(おさと)の想い』




砦を巡る旅は楽しかった。みんなしあわせよの~


カランコロン♪


「ただいま」

一斉に、わらわに視線が向けられた?

わらわが愛おしいのは、知ってる。


いきなり環琉めぐるが抱き着いてきて、

「わらわ、お帰り」


『わらわ』はわらわであって、わらわはわらわではない。

わらわの名前はお里!乱世に永遠の癒しをもたらす者!


「ごめんね、うちが抹茶モンブラン食べたばっかりに、

でもね、このお店はお姉ちゃんの大切なお店なの!

ここだけは没落させないで!」


何言ってる?この娘っ子は?

変な娘っ子だとは思っていたが。

姉たちも、愛おしいわらわを注視しているが、それより


「どして看板準備中?」

「えっ?」


朱里あかり環琉めぐるが小琥路を見て、小琥路こころが照れ笑った。


「ん?」

おかしな姉妹だ。



つづく

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