私立毬藻高校
俺の通う高校は私立毬藻高校という、北海道の片田舎に位置するかなり変な名前の学校である。いくら毬藻で有名な北海道にあるからといって、この名前はどうかと思うが。まあ少し補足説明をさせてもらうと、創立十年くらいの比較的新しい学校で、自宅から通う生徒もいれば(ちなみに、学校から駅までの送迎バスあり)、寮で暮らす生徒もいる。
俺は寮生であり、春休みの現在は家に帰らず学校に残っている。長期休暇に学校に残る生徒は稀である。そういう訳で、毬藻高校のグラウンドは今の時期、閑散としている。まあ元々、運動部が盛んという訳でもなかったし。
何故、そんな学校を俺は選んだのか。それは、憧れの人の出身校だから、冬月雪兎が七年前に全国優勝に導いたサッカー部があるから、だ。
私立毬藻高校サッカー部は全国優勝経験のある名門サッカー部、として現在もその名を全国に轟かせている……、なんてことはなかった。今のサッカー部の状況を簡潔に言うと「没落」という言葉を当てはめるのが良いだろう。
事実、全国優勝したのは七年前の一回きりで、次の年は全国大会ベスト4、そのまた次の年は全国大会にさえ出場できなかった。
現在の没落ぶりを具体的に説明すると、まずサッカー部自体が休部状態、俺以外は全員、幽霊部員。顧問と俺の二人だけで、雑談をしながら細々と練習をしている。他の生徒達からは「あれ、うちにサッカー部なんてあったっけ?」とか「うちのサッカー部が過去に全国優勝したことがあるらしいけど、あれ絶対まぐれだよなあ」とか言われる始末である。
まぐれというか、奇跡のような全国優勝を未だに思い続けているのは、もう俺だけかもしれない……。
そんな思いを抱きつつ、誰もいないゴールに向けてシュート放つ。
「ナイスシュート!」
ボールがゴールネットを揺らした瞬間、俺の後ろで嬉しそうな声が上がった。
「ゴールキーパーがいないんだから、決めて当然じゃないですか、先生」
俺は振り返って、声の主に言った。
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