第160話

 「そりゃそうだが」

 「言うのは簡単だな!」

 

 漁師が口々にそれは無理だというようなことを言っている。それはなぜかと思っていると、老いた漁師が代表して口を開く。

 

 「……ただの漁師が集まったところで、領主様に陳情などできようはずがない。まして代官様の頭越しになど許されない」

 

 思わず吾輩の首も捻られようというものだ。理解できんことを真顔で深刻そうに言われても「なぜ」としか思えん。

 さっき口にしたサバのカバ焼は非常に美味であったし、ほかの店からも良い匂いがしていた。そしてそれらを支えるのは魚貝を獲る漁師たちだ。“ただの”といって卑下するようなものではないと思うのだが……。

 それに頭越しというのが非礼になるのは、理由もなくそうした時であろう。今回は理由があるのだから、ジャスパーとて理解するはずだ。当の代官とやらがどう思うかまでは知らぬが。

 

 「む? ああ、ちょうど良いではないか」

 

 まさにちょうど良いものを目にして呟いた吾輩の言葉に、ナディアと漁師たちは揃って不思議そうにする。

 だが口で説明するまでもない。

 

 「エリスよ、少し相談があるのだが」

 「なにー? タヌキさん」

 

 アイラとシエナを伴ったエリスは、もうすぐそこまで来ていたからだ。どこか機嫌の悪そうなシエナが小さく「なんだ出し抜けに」と口にして、アイラがそれを宥めているが、……ふむ、あやつらはあやつらで何かがあったということか?

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