第159話

 「まあとにかく、助かった! これで漁が再開できるなら、私らの店も安心ってもんだ」

 

 ナディアが手を打ちながら言った。

 少しおかしくなった空気を変えようとしたのであろうが、海産物を調理して売るナディアからすれば安心したというのもまた本音なのだろう。

 

 「思うところはあるが、あのうまいカバ焼が残っていくなら吾輩としては問題ない」

 「へへっ」

 

 率直な感想を口にすると、ナディアは右手で後頭部を撫でるような仕草をする。照れているようだ。

 しかし人間というのは愚かで大変なのだな。魔獣を追い払えたというのに、同胞の問題まであるとは。代官というのがそれほど愚かな者なのであれば、きっとこの先もなにか起こるのであろうな。

 しかし……ふむ?

 

 「ここはセヴィ領なのであったか?」

 「……そうだが」

 

 吾輩の質問に顔を見合わせた一同だったが、代表するように老いた漁師が口にした。急になんだという疑問が表情にでているが、別に吾輩もふと思ったことを言おうとしているだけだ。

 

 「領主……ジャスパーに相談すれば良いのではないか?」

 

 代官はこの漁村において主である、つまり偉いから困っているのだろう。であれば、さらに広い範囲の主である領主に頼れば良いと思うのだが。あれは声が大きくてうるさいが、会話もできないような愚か者ではなかった。

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