第72話

 「師匠……次はバルドゥルさんのとこっすか?」

 

 アイラが明らかに不満そうに後ろをついてきている。仕方がないことかもしれんが……。

 

 「まあ、そういうな」

 

 温泉に入りさえすれば、そのような不満など湯に溶けて消えることだろう。

 問題はこの近くに都合よくあるのかという話なのだが……、あまりに遠いと現実的とはいえんからな。

 

 バルドゥルはいるだろうか? 深く考えずに実験農場まできたが、鍛冶屋の方にいるのなら無駄足になってしまう。

 

 「おお、タヌキ! 教えてもらった木や骨の削りくずはすごい成果を出しているぞ? 何やら偉い学者が話を聞きに来るということにまでなっておってな。それに最近になってそもそもの作物の生育自体も良くなってきたようなのだ! お前さんには感謝してもしきれんな!」

 

 っと……。いたのは良いが、顔をあわせた途端にすごい勢いで話し始めおった。

 

 「ば、バルドゥルさん……? 師匠って、やっぱりすごいっすね……」

 

 厳ついバルドゥルの迫力にたじたじとなっておるが、アイラの中での吾輩の評価が高まったようだ。農場の件に関しては地精霊から聞いた話を伝えただけだから、据わりが悪い想いではあるが……まあ、良い。

 地精霊……ふむ、精霊か。精霊といえば……、いや、いくらなんでも、な。

 

 そんなことより、ここには話を聞きに来たのだ。今度こそ有用な情報が得られれば良いのだが。

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