第59話

 「うおおおおおおおおおぉぉっ! なにぃっ!」

 「シエナ団長! 見た目の通りの硬さではありません!」

 「わかっている! 攻撃の手は緩めるな! 守勢に回れば無数の触手で圧倒されるぞ!」

 

 シエナやゲイルが中心となって苛烈な攻撃を仕掛けるが、巨樹魔獣の樹皮に傷すら入っていない。

 吾輩も加勢しなければな。

 

 「なっ!」

 「はあぁぁぁ……なんと美しい……」

 

 教会にあった適当な紐で腰に吊っていた鞘から、ミティア様から授かった剣を引き抜くと、周囲からは驚く声や感嘆の溜め息が漏れ聞こえてくる。

 そなたらは魔獣に集中しろ……と言いたいところであるが、気持ちはわかる。紛うことなき神剣であるこの剣は刃も鍔も柄もとても美しい。とはいえ、吾輩まで浸っている訳にはいかんな。

 

 「せっ!」

 ゴッ

 

 切れ味しか感じない見た目と違って木刀で殴ったような感触と音であったが……、ダメージは与えられたようだ。

 

 ギシィィィィ

 「怪しい騎士! 傷を付けた……だと!? なんだ、あの剣は!」

 

 そんな感情があるかは不明だが、痛みに呻くように枝をうねらせる巨樹魔獣を見て、ゲイルが驚いている。しかしゲイルよ、言うに事欠いて『怪しい騎士』とはなんだ、失礼な。

 

 「はっ! やはり……っ!」

 

 手遊び程度とはいえ、出発前にやり合ったシエナは納得といった様子。しかしその獰猛な表情は向ける相手が違うのではないか、こちらをじっと見るな鬱陶しい。

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