第58話

 移動を再開したシエナ率いるセヴィ騎士団の行軍は、順調なものだった。こちらへちらちらと向けられる様々な感情を含んでいそうな視線が鬱陶しかったものの、吾輩も集団の真ん中あたりでただついていくだけだった。

 なにせどこへ行けば良いのかわからないからこそ、ここへ混ざった訳だからな、大人しくしていたとも。

 

 そして順調であったということは……。

 

 「いたぞ、あいつだ! 総員戦闘態勢!」

 

 シエナが号令を発した。狙いはあの魔獣、あれこそがセヴィの人間どもが脅威と感じて討伐に乗り出し……吾輩が大地の翳りとやらの原因ではないかと疑っていたもの。

 

 ギシィッギシッ

 

 当たりに響く軋み音は、奴が動き出したことによるもので、見た目の通りに古い木材が鳴らす音に似ている。

 そう、魔獣は古木のような見た目をしていた。根を足として、枝を無数の腕として、そして胴と顔を兼ねる幹には恐ろしげな目鼻口があり、ある意味では地精霊に似ている外見だが、そのサイズは全然違う。見上げるような巨樹であり、枯れた葉を散らしてうごめくその姿は威圧感を与えてくる。

 時おり無秩序にうねる枝のいくつかが、別個に意思を持つように地に突き立ち、薄黄色にきらめく何かを吸い上げている。……わかりやすくて結構。あれが原因で間違いないな。

 

 「やはり同行して良かったな」

 

 浮足立つものがごく少ない様子には感心するものの、もし吾輩抜きで当たっておれば、相当な被害がでたであろう。

 吾輩は愚かな人間どもが可愛く思う。だから日頃から庇護しているし、今はここに立っているのだ。

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