第54話

 「これは……っ!」

 

 剣を手に取る瞬間は、さすがの吾輩も全身が小さく震えるのを止められなかった。それ程の存在感。

 

 「こ、これが救世の勇者が最高神ミティア様から授けられたという……神剣メテオールっ。一振りで星の墜落に匹敵する破壊力があったとされています!」

 

 隣からリットが解説をしてくれる。

 柄を握ってわかった。この剣は……、これは……

 

 「なんと!? ただ握っているだけで力が――」

 「力が溢れて来るでしょう!?」

 「――いや、抜けていくな」

 「は?」

 

 吾輩の飾らない感想にリットが口を大きく開けて固まってしまった。期待を裏切るようで申し訳ない気持ちもあるが、事実だ。剣を持つ手から力――おそらくは魔力?――が抜けていくような感触がある。

 

 「あ! え?」

 「どうした? リットよ」

 

 リットが急に声を上げ、開けていた口を閉じて、今度は目を見開いている。……急がしい奴だな、本当に。

 

 「神託です……」

 「……ふむ」

 

 大盤振る舞いであるな。それで価値が薄れるものでもないが、吾輩の方では驚きは小さくなってきた。

 

 「して?」

 「あ、はい。“神の力は世界のあり様をたやすく変えてしまいます。人間に干渉するなら、なるべくそれを使うように” と……ミティア様は仰いました……」

 

 む、真面目な話であったか。これは神獣として未熟な吾輩への枷、と解釈するべきもののようだ。

 

 「肝に銘じて振るわせていただきます、ミティア様」

 「……」

 

 剣を胸元に持ってきて神像へと向かって一礼する。リットは目を閉じて敬虔な祈りを捧げている。

 想定とは違った形であったが、準備は整った。

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