第53話
「よし着いた」
「……う、うふふふふふふ」
教会に入って手を離したが、リットが不気味な笑い声をあげている。ここに引きずるようにして連れてくる間も、何かの拍子に吾輩が少し強く襟を引く度に、「あうっ」だの「うぅんっ」だの気味の悪い鳴き声をあげるものだから、町の人間どもの視線の痛いこと……。
「人目というものを気にするものではないのか、普通は?」
「……?」
苦言を呈してやると、リットは不思議そうな顔をする。意味がわからなかったようだが、しばらく考えると思い至ったようで逆にこちらを非難するように口をとがらせて話し出す。
「違いますよ、タヌキ様ぁ! 町の皆さんがじっとこちらを見ていたのは、あなた様のお姿が神々しかったからです!」
「はっ! 言い訳ならもう少し工夫してから口にするのだな」
言うに事欠いてなんたる稚拙な。普段の茶色い毛皮はつるんとした白っぽい肌になって頭の髪に名残を残すのみとなり、鋭かった爪は丸くなり、顔にはヒゲがなく、そして何より自慢の勇壮な尻尾がない。
ここに来る途中にあった汲み置きの桶で確認した顔がミティア様の神像にやや似ていたのだけが唯一といっていい評価ポイントといえるが……、普段と比べると威圧感も猛々しさもまるで足りない。いくら人間どもとはいえ、こんな姿を神々しいなどと誤認して見る訳がなかろうが。
「……本当のことですよぅ」
「いいから、ミティア様の足元を確認するぞ」
キリが無さそうな会話を打ち切って、吾輩は教会内へとずんずんと踏み入っていく。……むう、足音までも普段より情けなく思えてくる……、いや、よそう。自虐的に過ぎる。
だがここまでの思考は、次の瞬間に目に入ってきたもので一気に吹き飛んだ。
「――っ!? これは……っ」
「え!? さっきここを出た時には無かったはずです」
神託にあった『いいもの』。
それは大振りで立派な拵をした、一本の荘厳な剣だった。
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