042 託せる者

■同時刻

■ヴァシラ帝国

■見晴らしの丘


「初歩的な仕掛けです」とバーナデットが言った。「まずアイテム欄を開いてください」


 ラースは言われたとおりに宙空に表示させたメニュー画面からアイテム欄をタップする。

 持ち歩けるアイテムの種類は最大で九九個。それ以上の種類は持ち歩くことはできない。


 一度に表示されるアイテムは一〇個までで、そこから先はスクロールさせないと確認できない。


「この中に『フリトト』が入ってるって言うのかい? でも、それは散々……」


 ラースは自分の魔導力が異常にパワーアップしたことを自覚した際に、色々と身の回りで変化があったか確認してみた。

 ステータスはもちろん、装備品から所持しているアイテムまで、細かい仕様変更の有無があるかどうかまで、チェックできるところはすべてチェックしている。


 所持しているアイテムの数も把握している。現在自分が持っているアイテムの数は五三個。

 ちょっとしたレベルの高いクエストでも、すぐに挑める程度の持ち物は常備している。


「よく見てくださいラース」

 バーナデットが隣へやってきてラースのアイテム・ウィンドウを覗き込む。

 彼女の肩が触れる。甘く、気分を落ち着かせてくれるような心地よい香りが、彼女の白金の髪がたなびく度に、ふわりとラースの鼻をくすぐる。


 ……まだ信じられない。彼女がアストラリアンだなんて。


 悪い冗談だ。彼女はこんなに身近に接することができて、笑うことも怒ることもする。

 プレイヤーである自分や仲間に対しても、意見をするし、反発もする。

 そんな人間のような振る舞いを、はたしてプログラムで表現可能なのだろうか?


「ほら、ここですよ」とバーナデットがウィンドウを指差す。

 上の空で適当にアイテム欄をスクロールさせていたラースが慌てて指先を止める。


「え? ど、どれ?」

「ここです」とバーナデットは笑う。「最初のアイテムと、現在所持している最後のアイテム。五十三番目と、最初のアイテムへとループする


 最も使用頻度の高い回復薬『レッド・ポーション』を一番目にセットして、その前後は大回復薬である『クリスタル・ポーション』とスキルポイントの回復アイテムである『エーテライド』を各種。最短のスクロールですぐ表示できるようにしてある。


「空白?」

 確かに、一番目の『レッド・ポーション』と五十三番目の『ハイ・エーテライド』の間には一行分の黒い空白が存在していた。


 本来であれば、空白など存在しないで表示されているはずだ。しかし、言われてみれば、そこには明らかに不審な空白の存在があった。


 ……どれだけ丹念にアイテムや装備品そのものを眺めても気付かないはずだ。表示されているアイテムや装備ばかりチェックしていて、こんな単純なカモフラージュに気づけないとは。


 ラースはバーナデットの顔を見る。彼女は「そうです」と言わんばかりに頷いてみせた。


 恐る恐る空白の部分を指でタッチしてみる。

 そこには、確かにアイテムを選択するときの手応えのようなものが感じられた。

 ラースはアイテムを使用するときと同じ所作で、その空白をタップしてみる。


 右側にアイテムの情報を表示する小窓が開かれる。

『????』

 その小窓に表示されたアイテムの名称欄にはクエスチョン・マークが四つ浮かび上がる。

 普通、タップされたアイテムは現物として具現化され、自分の手元に自動で出現する。

 しかし、この『????』は、何も具現化されない。


 代わりに、別のメッセージウィンドウが強制的に立ち上がってきた。


『????』の封印は解かれています。再度封印しますか?

 YES/NO


 メッセージを読んだあと、ラースは再びバーナデットへ視線を送る。

 バーナデットも再び、同じように確信を持って頷いてみせる。


 ラースは『YES』のパネルをタッチする。操作を確認したかのように、開いていたウィンドウがすべて一瞬で閉じる。


「とりあえず、どの術でも構いません。魔導術を使ってみて下さい」とバーナデットが言った。


 ラースは半信半疑ながらも、異論を挟むことなく、もっとも言い慣れている初歩の術を口にする。


「我に仇なす全てを燃やせ、異界の炎、火球ファイロクス

 言い終えると同時に、夜景を楽しんでいる他のプレイヤーの邪魔にならないよう、ラースは左手を斜め下へ向けてかざす。

 かざした手の平に小さな炎の玉が渦巻き、地面のレンガへ向けて発射された。


 それは普通の威力と普通の演出効果エフェクトで表示された、普通の『火球ファイロクス』であった。


「……元に戻ってる」

 ラースは自分の左手を繁々と見つめた。握ったり広げたりして、その具合を確かめる。


 自分自身の中で体感的な変化は何もなかった。

 さっき操作した封印の有無。たったそれだけの操作で、威力が桁違いに変化するということなのだろうか。


「これで理解できたと思いますが」とバーナデットが言った。「これまでの強化されていた術の強さは、すべて『フリトト』を所持していることで得られる特殊効果オルタナティヴスキルなのです」


特殊効果オルタナティヴスキル……」とラースは繰り返す。


 常態技術パッシブスキルでも特殊技能アビリティでもない。表示もされず説明もない。本当にそんなスキルが存在しているのか?


 彼女の話の真偽はわからない。しかし実際に魔導術の威力は桁外れの威力から、普段の見慣れたエフェクトへと戻っている。


「いったい、何がどうなっているんだ? その……『フリトト』というヤツは、最初から俺が持っていたということか?」


「それは……順を追ってお話します」とバーナデットが頬を赤らめて視線をそらす。「まず、『フリトト』の力……つまり封印のオン・オフについてですが、これは『フリトトの祝福』を受けなければ操作できない仕様になっています」


「その『祝福』っていうのは、その……」


 ……やっぱりさっきの、アレのことなんだよね?


 という言葉が最後まで出てこなかった。


「……はい」

 バーナデットの声は消え入りそうなほど小さかった。

 うっかり聞き逃してしまいそうなほどだった。


 ラースは無意識に、さっき触れ合ったはずの口唇の感触を確かめるように指で触れてみる。


「その……なんだ? これは、つまり……いったい、なんだって……こんな仕様になっているんだ?」


 自分の口唇を触っていると、ついつい彼女のふくよかでハリのある口唇に視線を奪われてしまう。

 一向に思考が先へ進もうとしない。


 ラースは一度大きく頭を振り、両頬を軽く叩いた。

「ど、どうしたんですか?」とバーナデットが驚いて声を上げる。


「ああ、いや、ちょっと気持ちを切り替えようと思って」と苦笑するラース。


 聞きたいことがありすぎて混乱しているところへ、まったく何の説明もなく混乱の元である相手からキスされたのだ。自分の思考をどこに集中フォーカスさせればいいのかすらうまく整理できなくて当然だ。


 なぜバーナデットは『フリトトの祝福』というスキル――なのかどうかは分からないが――を持ち、それを自分に使用したのか?

 そして、今日までそのことについて何も教えてくれなかったのはなぜなのか?

 そもそも、どうやって俺は『????』と表記されている謎のアイテム――おそらくは『フリトト』と呼ばれるモノ――を手に入れていたのだろうか?


 どの順番で質問すれば良いのか判断がつかず、ラースはこれらの質問をとりとめもなくバーナデットへ伝えた。


 内容を整理する短い沈黙の後、バーナデットはラースへ確認するように問いかけた。

「……初めて出会ったとき……私がラースにハグをしたのを覚えていますか?」


「ああ。唐突だったからよく覚えているよ。考えてみればあれだって、いったいどんな理由で――」と、そこまで言って、はたと気づく。「まさか……あのときに渡されていたということなの?」


 バーナデットが恥ずかしそうに、こくんと頷いてみせる。


 ちょ、ちょっと待ってくれ、と思った。


「そ、それならそれで、どうして今まで教えてくれなかったの?」


 正直、あんまりじゃないかと思う。


 とつぜん強力になってしまった魔導術のせいで、<廃坑>ではえらいしんどい目にあった。それもこれも、パワーアップ状態のまま魔導術を使えば青騎士に追跡されるからだ。

 挙句の果てには青騎士たちに取り囲まれて、ほとんど教会送りゲームオーバーに状態まで追い込まれもした。


 あのときは謎の少年に助けられたから良かったものの、そんな幸運に恵まれでもしない限り、ラースは自分の所持しているレア装備品とこの世界アストラリアで生活する上で必要な通貨ドエルもほとんど失うことになっていたのだ。


「これまで『フリトト』の力について何もアドバイスができなかったのは、あなたが『アストラ・ブリンガー』を欲していないと判断されていたためです」


 バーナデットと初めて会った日を思い出す。


 ――もし私が『アストラ・ブリンガー』の入手方法を知っていたら、あなたはそれを望みますか?


 確かに訊かれた。

 そして、ついさっきまでその質問への返答をきちんとしていない。


 ……ちょっと待てよ……。


 ラースは少し戸惑いながら口を開いた。

「と、いうことは……もし、あのとき君の質問にイエスと答えていたら……つまり、その……<かささぎ亭>でいきなり……アレしちゃうわけだったのか?」


 ラースはヴィノの眼前でバーナデットとキスする光景を想像する。

 しかも不特定多数のプレイヤーで賑わう、真っ昼間のお店の中である。


 考えただけで脳内がこそばゆい。ラースは悶絶して身体中を掻き毟りたい衝動に駆られた。


「いいえ。おそらくラースの意思が本心――つまり揺るがない意思決定であると判断できるまでは受諾を留保することになったでしょう。あのときの私とラースとの直接的な対面時間は一時間にも満たないほどでしたから」

 バーナデットは困ったような笑顔で言った。


「な、なるほど。つまり性急に返事したとしても、信頼度が足りないってことか」


「そうですね」とバーナデットが話を続ける。「その身で体感したとおり、『フリトト』の力は強大です。その力を完全に譲渡するにはいくつかの条件をクリアしてもらう必要がありました。そのひとつが、一定期間の経過観察です」


「経過観察」とラースがオウム返しに呟く。


「はい。あなたが『力』に溺れてしまうかどうか……それを見極める必要がありました」


「……『力』に……溺れる、か」


 ラースは先刻戦った『青騎士』のことを思う。

 常軌を逸した妄執の虜となって襲いかかってくるその姿は、まさに『力』に溺れた者そのものであった。


「確かに。俺がその力を悪用しないとは言い切れない。君が渡した段階では」


「はい。私がラースに渡した時点では、貸与という状態でした」とバーナデットは続ける。「強大な力を得た場合、人間の中には見境なくその力を使い、この世界のバランスを破壊してしまう可能性もゼロではありません」


「確かにね」とラースは肩をすくめる。

 例えば、なにかの間違いで『フリトト』がさっきの『青騎士』に渡っていたら、間違いなくゲームのバランスなど考慮に入れることなく、この世界であらん限りの『力』を奮っていただろう。

 そう考えると、背筋が寒くなる話だ。


「なので『祝福』を与えるに足らない人物であった場合には、私が再び回収して、また別の対象者を探すことになっていたでしょう」


「……なんてこった」

 ラースは空を見上げて吐息をもらす。


「どうかしましたか?」


「いや」とラースは苦笑する。

 こちらがバーナデットを見守っているつもりでいたが、そうではない。むしろバーナデットが俺の素行を観察していたのだ。


 不思議そうに首を傾げるバーナデット。

 すべてを話してしまったからか、その瞳はどことなく不安げに揺れている。


 この表情も、彼女の言葉も、すべてプログラムによって動いているというのが、未だに信じられない。本当はスーパー・ウィザード級のハッカーで、自作したチート・スキルのせいで狙われている、と言われたほうがまだ信じやすいし、現実的だ。


 ……でも。


 この表情も、震える声も、演技であるとは思えないし、思いたくない。


「……ラース?」


「もうひとつ、肝心なことを聞いていいかな?」とラースは努めて明るく言った。


「は、はい。なんでしょうか」


「その……」とラースは照れ隠しに鼻の頭を軽く掻いてみせる。「どうしてバーナデットは……お、俺を選んだの?」


「えっ……それは、ですね……」


「……それは?」


「その……」とバーナデットが恥ずかしそうに視線を上げ下げする。「ひ、一言では言えません」


「そ、そうなの?」


「その決断に至るアルゴリズムを解析しようと試みましたが、何度試してもエラーが出ます。つ、つまり……判断基準についての明確な説明はできません」

 バーナデットが顔を真っ赤にしてまくし立てる。


「……そ、そうですか」

 あまりの勢いにラースも戸惑う。どうやら聞いてはいけないことだったようだ。


「……必要ですか?」


「え?」


「私がラースに『フリトト』を渡したいと思ったことに……理由が必要ですか?」


 身長差のせいで自然と上目遣いになるバーナデットの儚げな表情。

 両手を組み合わせて祈るように問いかけるその仕草。


 ……可愛い! 可愛いぞ! すべてが愛しいほどに可愛いぞ!


 ラースはそう叫びたい衝動をぐっとこらえて、生唾を飲み込む。


 ……これで人工知能? プログラム? だめだ、信じられる気がしない!


「り、理由が必要かどうかは分からないけど」とラースは続ける。「なんていうか、その必然性というか、なにか条件があって、それに合致したのかな……と。ようするに渡された者と、選ばれない者との差とでもいうのかな? なにか法則性があるのかと思って聞いてみただけなんだ」


「そうですか……そうですねえ」とバーナデットは指を口に当てて考える。「……明確な条件というものは提示されていません。さきほど私が口にした言葉を覚えていますか?」


「あのプロンプトがどうのってやつ?」


「そうです。条件と言われて思い浮かべられるのは、それくらいです」


 ――バーナデット、託せる者を探しなさい。それが君の生きる証となるように。『星々の担い手アストラ・ブリンガー』を欲する者こそ、君が共に歩むべき勇者である。


 バーナデットがもう一度、歌うように諳んじて見せる。

「欲する者……か」

 それを聞いた後にラースはそう呟いた。


 勢いに任せて、確かに「イエス」とは言ったが、はっきり言って『アストラ・ブリンガー』を熱望するほどの動機はない。だから、『欲する者』と言われても自分にはピンとこないのだろう。


「少なくとも、私にとっての『託せる者』は、貴方です。ラース・ウリエライト」

 そう言って照れくさそうに微笑むバーナデットに「そっか」と笑顔で返す。


「それにしても、『祝福』を受けると青騎士への攻撃が通じるというのは一体どういう仕掛けなんだろう?」


 手応えすらなかった通常攻撃と、どこが違うのだろう? これはそもそも、本来のゲームとして組み込まれていることなのだろうか?


「そのことについて私は詳しく理解できてはいないのですが……」とバーナデットが応える。「おそらく、『フリトト』の機能の中で攻撃プログラムと防御プログラムにおける、階層のズレをデコードしているのだと思います」


「戦闘中に君が言ったように……どんな対象であろうとも相手に通じる攻撃として翻訳しなおしているということか」


「そうですね。端的に言えば次元のズレを修正している……ということでしょう」


 ラースは不思議そうにバーナデットを見つめる。

 その視線に気づいたバーナデットは、少し恥ずかしそうに身動ぎする。


「なんですか……あんまりじっと見ないでください」


「あ、ごめん」とラースは自分が固まっていたことに気づく。「いや、なんかバーナデットさ、こういうプログラムとかの話にはずいぶん詳しいんだなって思って」


「さっきまでは何も知らなかったですよ」


「え?」


 バーナデットは可笑しそうに笑った。


焼き付けインプリントされているいくつかの知識が『フリトト』の開放と同時にアンロックされたようです。ですが、これもまた断片的な情報ですけど」


「……そうなんだ」

 自然に話しているけれど、その言葉は彼女がプログラムであるということの証明にも思えて、少し寂しく思う。


 ……そういえば<廃坑>で出会ったあの少年も同じようなことを言っていたな。


「ということは、バーナデットの『女神の加護・破邪封陣ディータ・アブソリュート・シェル』もこの世界とは次元の異なるコードで組まれているから、攻撃が通じないということになるのかな?」


「おそらくは、そういうことでしょう」


「なるほど、ね……」


 あの不自然な金属音は、無理やりゲームとしての帳尻を合わせたが故の歪みなのかもしれない。そのシステムのどこまでが自律思考型演算装置アイビスによって補正されているのか、あるいは全てがゲームの外側の出来事なのか、ラースには判別の仕様がなかった。


 ……それにしても。

 と、ラースは思わず吐息をつく。


 およその事情は飲み込めたにせよ、やっぱり今までこんな大事なことを黙っているなんて、改めてあんまりじゃないか、という気持ちになる。


 バーナデットにバレないように少し恨みがましい気持ちで睨んでもみるが、彼女が言うように、バーナデットというキャラクターそのものがプログラムで動いているというのなら、それはそれでしょうがないか、とも思えてしまう。


「……? どうされました?」

 屈託のない笑顔。


 自分がこれまで接してきたアストラリアンも、笑顔は作るし、よどみなく会話ができる。

 だが、とうぜん知らないことや、答えが出せないような質問をされた場合には、通り一辺倒の解答しか返ってこない。


 なにより、一般的なアストラリアンはプロフィール・ウィンドウにNPCであることが明示されている。だが彼女には、ない。


 ……それでも……信じるべきなんだろうな。


 なにより、一旦彼女がプログラム上の人格であることを受け入れてしまえば、これまで謎だとされてきた彼女の行動原則においても辻褄が合ってしまう。


 アストラリアンであるならば、そもそもプレイ時間を気にする必要がない。


 ……いや、だが、そもそもアストラリアンがクエストを経てレベルを上げていけるものなのか?


 考えだしたらキリがない。彼女の存在そのものが、未だ大きな謎に包まれているのだ。


「……あ」とラースはいきなり呆けた声を上げる。


「どうしました?」


 自分の視界の右上の隅にあるプレイ時間に赤い枠が表示され、点滅を開始する。

 一日の限界である六時間に迫っているという警告である。


「ごめん。まだ話し足りないんだけど、もうすぐログアウトの時間だ」


「そうですか。それでは仕方ありませんね」


「バーナデットは――」と言いかけて口をつむぐ。


 つい癖で、彼女はこの後どうするのかと訊いてしまうところだった。

 だが、バーナデットはそんなラースの意思を汲み取ったように笑顔で言った。


「私はこの世界の住人です。この世界で眠りますし、食事もします」


 ……生活、しているのか……。


 それは一体どういうことなんだろう。また聞きたいことが増えてしまった。


 ……だめだ、もう時間がない。


「バーナデット、また明日、ゆっくり話そう。なんていうか……今日は何を聞いても混乱する材料にしかならないしね。俺も一度頭を冷やしてくるよ」と苦笑する。


「ラース」とバーナデットが真面目な顔で言った。「本当に良いのですか? 私は貴方の平穏を台無しにしてしまいますよ。それに話はもっと長くなるかもしれない」


「構わないよ」とラースは即答する。「これから『アストラ・ブリンガー』を探す相棒になるんだ。その覚悟はできたつもりだよ。でも、俺は君のことがもっと知りたいし、知らないと前に進めない気がする。だから……明日も俺と話をしてくれるかな?」


「……はい」


 彼女の瞳がキラキラと輝いて見える。

 それはまるで目に溜まった涙のように揺れていた。

 アバターである仮初めの身体で涙を流すことは、それ専用の改造を施さないと普通はできない。


 彼女の瞳に宿った、光を潤ませるその輝きは、はたして本当の涙なのだろうか。

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