第18話 包青side
その知らせを聞いたのは皇帝陛下との執務中だった。
「お仕事中、申し訳ございません。緊急の用ができましたので急ぎ参りました」
現れたのは巽淑妃だった。
先ぶれもなしに現れたのだから驚く他ない。幾ら四夫人の地位にいるからといってこのような蛮行をとってただで済むはずがない。居合わせた者の中には真っ青になって今にも倒れそうな者までいた。周囲の右往左往にとうの本人は全く意を介さない。嫋やかな容貌からは想像できない豪胆さだ。
「陛下、今すぐに後宮中の侍衛に“ある人物”を探すようご命令ください」
しかも、皇帝相手に「人探しをしろ」ときた。
あ、宦官の何人かがぶっ倒れた。無理もねぇ。オレも倒れたい。
「冷静な淑妃らしからぬことだな。それで? 一体誰を探したらよいのだ?」
「私の一等大切な花が行方知れずとなりました」
花?
何のことだ?
陛下は何か知っている様子だ。淑妃との間で交わされている隠語だろうか。
「ほぉ……それは一大事だ。して?そなたがここまで取り乱すほどの大事件なのだ、よほど大事な花なのだろうな」
「はい。私にとってはかけがえのない宝物のような花でございです」
強い眼差しでそう告げた淑妃にオレは息を呑んだ。淑妃とはほとんど会ったことがなくどのような性格なのかは人伝にしか知らない。それでもこの淑妃は物腰柔らかく笑みを絶やさない女人だと記憶している。その淑妃のただならぬ様子に、他の部下達も何事かと顔を見合わせた。
「お願い申し上げます!今すぐあの子を見つけて下さいませ!」
淑妃は何かに耐えるように唇を噛むと深々と頭を下げ、皇帝に嘆願する。余程のことだと思うと同時にそれに当てはまる人物が一人しか思い浮かばなかった。
杏樹――
淑妃の様子からただ事でない事態に陥ったことは嫌でも理解できた。
犯人に近づき過ぎたせいだ。クソ!
「包青。後宮中の侍衛を集めよ。淑妃の妹御、巽杏樹を探せ。どんな手段を用いてでも必ず探し出すのだ」
陛下の言葉と共にオレはすぐに立ち上がり、近くにいた部下に命じた。すると部下達は皆一斉に動き始める。オレも部下達と共に駆け出した。
頼むから無事で居てくれ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます