後宮の右筆妃【第三章開始】
つくも茄子
第一章
第1話 後宮1
何故、自分はこんな場所に居るんだろう。
今日も溜息が止まらない。幸せが逃げていっている気がする。きっとそれは気のせいではないだろう。
と言うのも――
「
柔らかい笑みを浮かべる高貴な女性。
彼女が原因の一つでもあった。
「何でもありません。淑妃様」
「まぁ!杏樹。私を『淑妃』などと呼ばないでちょうだい。今まで通り『姉上』で構わないわ。私達は姉妹なのですから、ね」
「ですが……私は淑妃様の侍女として参ったわけですから……その……立場が違うと言いますか……淑妃様とは主従関係で……」
淑妃の形の良い眉が徐々に下がり、物悲し気であった。そして周りの侍女達のギンギンの眼差しを肌で感じてしまい、慌てて言い直した。
「姉上!
私の返答を聞いた姉はニッコリと微笑んだ。
その微笑みに周りにいた侍女達がうっとりとしている。流石は美娘姉上。美しいだけでなく、人を引き付ける魅力もある。
「良かったわ。さぁ、菓子を召し上がれ。今日は杏樹の好きな物ばかりを用意させたのよ」
「あ……ありがとうございます」
私が菓子を頬張るのを姉はニコニコしながら見つめていた。
それにしても、本当にどうしてこうなったのか……。
話は数日前に遡る。
ある日の事だった。
父上からの呼び出しがあった。また何かやらかしてしまっただろうかと思いながら父の部屋へと行くと、そこには何故か母上もいた。二人とも真剣な表情をしており、思わずゴクリと喉を鳴らした。一体何を言われるのだろうと内心ビクビクしながら椅子に座ると、父上が口を開いた。
「実はな……お前の婚約が破談になった」
は?破談?えっ!?いつの間に!!と言うより、何故このタイミングで言うのだろう?もっと早く言って欲しかった。そうすれば心の準備が出来ていたのに。いやいや、そもそも破談に出来る話なの?家同士の縁組なのに。色々と聞きたいことはあったが、まずは確認しておきたかったことを口に出した。
「どういった内容での破談ですか?」
「それがだな……
……は?何それ。意味分かんないんだけど。
「申し訳ございません。父上、今一度おっしゃっていただけますでしょうか?」
「だからな……って、まさか聞いていなかったのか?」
だってそんな突拍子もない事を聞かされても、普通理解できないでしょう? 呆れている父とは反対に隣にいる母は「ふふっ」と笑みを浮かべた。
「もう!困った子ね、杏樹。貴方の婚約者だった
「……先週、我が家で宴を開いた事を覚えているだろう? その時、酔いつぶれた圭が部屋を間違えてしまってな。……その……間違えた部屋が陀姫の部屋だったんだ。朝食を運んだ使用人が圭が部屋にいないと騒いで屋敷の者達総出で捜索したら、陀姫の寝室で二人が素っ裸でいるところを発見された。圭は……随分と酒を飲んでいたせいか『まったく覚えていない』と言っていたんだが……状況的にも二人は関係を持ったと判断せざるを得なくてだな……。楊家側としても責任を取る姿勢でいるんだ。お前にはすまないのだがな」
母の補足分を補うように言う父は眉間に手を当てて溜息を吐いていた。
そして私はというと……言葉も出なかった。
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