レディの扱いは慎重に
桃についての見通しが立ち、次に思案すべきは残りの雷神たちについてだろう。
こちらはホノさんと議論をする必要があるので、美味しそうにあんみつを堪能している彼女に声を掛ける。
「ホノさん、残りの八色雷神について何ですが」
「…………」
「ホノさん?」
同じテーブル席に座っていて、声が届かないはずはない。しかし彼女は黙々とスプーンで
二度目に声を掛けたタイミングで、ようやく顔を上げて顔を赤らめながら返事をしてくれた。
「御免なさい、八雲くん……あまりに美味しいから夢中で」
……可愛いかよ。
普段お姉さん属性を前面に押し出しているホノさんの、あどけない一面を見せつけられた俺はギャップで胸を打ち抜かれる。
やはりホノさんは危険だ。むつみという心に決めた想い人がいなければ、俺は間違いなく陥落しているはずだ。
コホン、と小さく咳払いをしてホノさんが切り出す。
「残りの雷神について、だったかな」
「ええ、今の時点で説得済みと言えるのはホノさん、ツチちゃん、クロ、フッシー、ワカちゃんも――まあ問題ないでしょう」
ちなみにフッシーとは伏雷のこと。あれから何度か顔を合わせる内に、あだ名で呼んで欲しいとお願いされて呼ぶようになった。彼女は俺を『やっくん』と呼ぶ。小さい頃の呼称を思い返して少し恥ずかしくもあるが、悪い気分ではない。
「二か月も経っていないのに、もう五人も……八雲くんは本当に凄いね」
「いえ、俺一人じゃ到底ここまで来れませんでしたよ。特にホノさんにはどれほど助けられたか」
曲者だらけの八色雷神とのネゴシエーション、正直言って誰一人として楽な相手はいなかった。そんな中、始めから俺に協力的で色々と力を貸してくれたホノさんには、頭が上がらない。
「……おかしいな。助言と後方支援に尽力するサポート要員として、義理の姉かつ美人女子大生の私の名前も、挙がって然るべきだと思うんだが」
遊馬さんがスプーンを加えながら、ジト目で俺を見てくる。
「そりゃドヤ顔で渡した
らしくなく、いじけた様子の遊馬さん。
……まさか酔っぱらっているのか?
確かにサポート要員として彼女は手厚いフォローをしてくれている。
クロとの一戦で無残に散った卯槌は、早々に新しいものを用意してくれた。しかも組糸の縁が三つから五つに増えたパワーアップバージョンだ。
とはいえ。
「有能ムーブを全て掻き消す勢いで、アル中キャラとして自立歩行している感が……やたらと美人アピールしてくるのもちょっと……」
「私に対して当たりが強いのは今更だが――良いのかな? 君の息の根を止めかねない切り札が私のスマホには眠っている」
「ま、まさかワカちゃんとの動画――」
クロに負わされた噛み付き痕を治癒して貰っている、嬉し恥ずかしな例のアレか。くそ、消してくれと強めに懇願していたのに。
「他にもホノさんに対してデレデレになっているシーンは数えきれないくらい……」
「!?」
「ふふ、八雲くんってば可愛いから……つい」
ニヤリと意地悪く笑う遊馬さんと、ニコリと悪戯っぽく笑うホノさん。
属性違いの二人のお姉さんを前にして、俺は余りにも無力だった。
頭を冷やすべく、お冷を飲み干して仕切り直すことにする。
「――さて、少々横道に逸れましたが話を戻しましょう」
「キメ顔で言っても醜態は無かったことにはならないよ?」
しつこく追撃してくる遊馬さんの言葉は一旦無視しよう。
酔い潰れて前後不覚な状態であれば、スマホを奪い指紋認証で突破出来るはず。チャンスはいくらでもある。
「残りの雷神――サクはまあ、話を聞いてくれるので引き続きアプローチするとして。大雷さんに関しても……僅かではありますが突破口が見えた気がします」
「あら、本当に?」
「ええ……まだ手探りの段階ですが」
ホノさんが驚いて目を丸くしている。
無理もないだろう、俺だって目下の難関は大雷さんだと考えていた。
けれどもし、先ほど立てた推論が正しいならば。話の持っていき方次第で彼女の説得も可能だと考えている。
「逆に今まで一度も姿を見せていない
七番目の雷神、鳴雷。
これまで一度も話題に上らず、未だ顔も合わせていない、謎に包まれた雷神だ。
俺がそう告げると、ホノさんは一瞬言葉を選ぶ素振りを見せる。
「そうね……他の雷神たちと比べても、まともではあるんだけど……」
「けど?」
「……ある意味、八雲くんにとっては一番気を付けなくちゃいけない相手かもね」
一番気を付けなくちゃいけない……か。
クロとはまた違ったベクトルで危険なのだろうか。
「具体的には黒雷よりも女の子らしいから、あんまりデレデレしてるとむつみさんに怒られちゃうかもよ?」
「……心しておきます」
以前、クロに関して助言をされたにも関わらず、彼女の本当の顔を見抜けずに盛大に地雷を踏み抜いてしまったトラウマが蘇る。
だが同じ失敗を繰り返すつもりはない。次こそは上手く立ち回ってみせる。胸に秘めた想いを――むつみに伝えると決めたのだから。
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