ヘビィで八重奏な恋心

くだまき

序奏

 君の見せた表情の煌めきが、光となって俺に届く。

 泣いているようにも見えたし、笑っているようにも見えた。


 君の発した朧げな声が、音となって俺に届く。

 笑っているようにも聞こえたし、泣いているようにも聞こえた。


 表情と声。

 光と音。


 視覚と聴覚が捉えたのは、ほぼ同時でも。

 君が言葉に込めた意味を、想いを、俺はどれだけ理解していたのだろうか。


 『彼女』は――恋心を雷に例えた。

 

 雷は、光り輝いた後に雷鳴が轟く。距離が離れている程に時間差が大きくなる、光速と音速の違い。

 

 千変万化で移ろう表情が見せる輝きと、零れた言葉が発する音。

 時間差など無いに等しくても、込められた真意に気づかなければ、聞こえていないと同じで。

 

 さながらお互いの――心の距離だと。

 耳が痛かった。

 指摘され初めて気づいた、俺の罪。


 自分を騙し、偽り、欺いて。

 胸に秘めた想いから目を背けて逃げ回る臆病者は、古の雷神たちと対峙する。

 自虐的に表現すれば、俺への罰だったのかもしれない。


 「本当におめでたい頭だな……せいぜい悩むが良い。これは――貴様自身で辿り着かねばならぬ答えなのだから」


 彼女は言う。


 「一緒にいて思ったけどさー、八雲っちはもっと自分に自信を持った方が良いんじゃね?」


 彼女は言う。


 「……大切なことほど、言葉にしないと伝わらない」


 彼女は言う。


 「ウジウジ悩む卑屈な臆病者は絶対に――主人公やヒーローになんて、なれないんですよ」


 彼女は言う。


 「やだ、やだ、嫌だ。私と一緒にいる時に、他の女の子のこと楽しそうに話さないで。ねえ、ねえ、ねえ?」


 彼女は言う。


 「明るく元気に甘いものを食べれば、人生はだいたい上手くいくように出来てるよ、たぶん、絶対」


 彼女は言う。


 「――例え情けなくても、泥臭くても、大切な人のために一生懸命になれるのは――凄く格好いいと私は思うよ」


 彼女は言う。


 「私は――八雲が好き。神様と人間でも、お互いの想いが通じ合ってれば――関係ないって、信じてる」


 彼女は――言う。


 八人の雷神たち。

 八つの表情、八つの声。

 

 これは――八重奏オクテットの雷鳴に彩られた、奥手な臆病者たちの重くてヘビィな恋物語。

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