第15話 話合い当日
あれから数日が過ぎ、私は王宮へと出向いていた
今は待機室に一人で待っている状態なのだが、いつもに増して私の表情は緊張で強ばっている。
私にとってミレーユは憎い存在でも怖い人間でもあり、それはあの日から変わっていない。
そんな王女を相手にするのだから、緊張してしまうのも仕方のないことだ。
そしてロジェに復讐をするという目的も加わった。
おかげで昨日の夜は一睡も出来なかった。
「ふわぁっ……、眠い」
私の気の抜けた声が室内に響き渡る。
「緊張しているのではないかと思っていたが、その様子なら心配はなさそうだな」
突然扉の方から聞き慣れた声が響いてきたので、そちらに視線を向けた。
するとエルネストの姿が視界に入ってきて、私は驚いて席から立ち上がった。
「……っ!? お見苦しいものをお見せてしまい申し訳ありません。今日はどうぞ、よろしくおねがいします」
私は恥ずかしくなり、顔を真っ赤に染めながら慌てて頭を下げた。
「見苦しくなんてないよ。可愛らしい君の欠伸をしている姿を見れて私も満足している。少し早めに来て正解だったようだな」
「……もうっ、からかわないでくださいっ!」
エルネストは楽しそうに笑っていた。
私は恥ずかしそうに、むっとした顔で返した。
「昨日は眠れなかったのか?」
「はい、一睡も」
「それなら眠くて当然か。また欠伸をしたくなったら、その時は遠慮せずしてくれて構わないよ。君の欠伸を見ていると和むからな」
「……エルネスト様っ!」
エルネストは冗談交じりにまだそんなことを言って来る。
私はその態度に完全に振り回されていた。
(もうやだ。なんでよりにもよってエルネスト様に欠伸してる所、見せちゃったんだろう……)
「悪い、これ以上言うのはやめておこう。君に嫌われたくはないからな」
その言葉を聞いて私はひとまず安心した。
「今日のことだが。今分かっていることを先に伝えておく」
「はい……」
先程の和やかな空気は、エルネストの真剣な顔を見た瞬間張り詰めたものに変わっていく。
「話し合いは姉上の部屋で行う」
「え?」
「これは姉上本人が望んだことだ。それから、君を同席させることを事前に伝えていた所為か、姉上は君の婚約者を呼んだようだ。これについては想定済みだし、君の計画を始めるのには絶好の機会だと思ってる」
「今日はよろしくお願いします」
「ああ。きっと上手く行くはずだ」
不安が無いと言えば嘘になる。
だけど私にはエルネストという最強の協力者が付いている。
エルネストのいつもと変わりない態度を見ていたら、安心して余計な力が解けていくような気がした。
「君の計画を始めるために、いくつかお願いしたことがある」
「は、はいっ。私は何をしたらいいんでしょうか?」
「私は君に好意を向けているような仕草を取るから、それに合わせて欲しい。それと私の言うことには従うこと、かな」
「……なんか、申し訳ありません」
エルネストの言葉を聞いて、私はとんでもないお願いをしてしまったことに気付いた。
いくら計画だからといっても、エルネストは好きでも無い私にそういった態度を取ることに抵抗はないのだろうか。
私は自分の気持ちだけで決断してしまった。
あの時ちゃんとエルネストの意思も聞くべきだったと、今更ながら後悔した。
「どうして謝るんだ?」
「だって……、設定とはいえエルネスト様が私に好意を向けているなんて。私とんでもないお願いをしていたんですね」
「そんなことはないよ。元々君には興味を抱いていたし、この場合好意を持っていたと言ってもいいかもしれないな。だから大した問題にはならないよ」
「そ、そうですよね。私達は友人ですし」
「ああ、その通りだ。君と友人になってからは、毎日楽しくなったと感じているくらいだからな。これから一ヶ月間、君のことを独占出来ると思うと、こちらとしても嬉しい限りだよ」
「独占って……。一ヶ月?」
エルネストはサラリとそんなことを言っていたが、私は一人で困惑していた。
そして一ヶ月という言葉に首を傾げた。
「君が辛い思いを強いられたのは約一ヶ月程と聞いたからな。だから同じだけの期間を取ろうと思っていたが、他に希望はあるか?」
「いえ、それで大丈夫です。だけどエルネスト様の方こそ、私のために一ヶ月も付き合わせてしまって大丈夫なんでしょうか。周りから変な目で見られてしまうかも」
「私の事なら問題ないよ。最近は君と良く一緒にいたし、周りもそこまで気にすることは無いはずだ。だからそんなことは気にしなくていい。折角だし楽しもう」
楽観的な考えのエルネストに少し救われた気がした。
今回の事は全て私のために行われることで、エルネストにとっては得になることは一つも無いはずだ。
私の復讐に無理矢理付き合わせてしまっているのではないかと心配していたので、今の話を聞けて少しだけ安心した。
(本当にエルネスト様は優しいな……)
「心の準備が出来たら行こうか。フェリシア」
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