第6話 私の選んだ道

 私は屋敷に戻ると父に会いに執務室へと向かった。

 そして今日起きた出来事を一つずつ説明していく。

 父は私の話を困惑した様子で聞いていたが、全てを伝え終わるとどこか安堵した表情に変わっていた。


「そうか。そんなことがあったんだな」

「はい……」


 ロジェは本当に狙われているのは私だと言っていたが、正直まだ信じられずにいた。

 ミレーユとは直接的な面識はなかったし、ただの噂だけで因縁を付けられるなんてあるのだろうか。

 目立つ行動なんてしてないし、ただ普通に学園に通っていただけなのに……。


「ロジェ殿が言われていることが本当だとしたら……、考えたくも無いな。シア、辛いのなら学園を暫く休んでも構わないんだぞ」


 父は心配そうな顔で提案してくれた。

 私はその気遣いに嬉しく思いながらも首を横に振った。


「私のことなら大丈夫です。ロジェが私のために耐えていてくれているのに、私だけ逃げるなんて出来ません」

「しかし相手はあの悪名高い王女だ。噂で色々聞いていたが、思った以上だった。私としてはそんな危険な場所に娘を向かわせたくはない。領土にいる妻だって、お前に何かあれば悲しむはずだ」


 私はきっぱりと言い切るが、父は簡単には認めてはくれなかった。

 ちなみに母は出産が近いため、領土の方でゆったりとした生活を送っている。

 私の両親は昔からとても仲がいい。

 いつまでも仲がいい二人に憧れていて、私もいつか愛する人と幸せな家庭を持ちたいと思っていた。

 もうすぐその夢が叶いそうだっていうのに、そんな矢先にあの事件が起こってしまった。

 悲劇としか言いようが無い。


「お父様は心配しすぎです。王子殿下も力になるって言ってくれたし、きっと大丈夫。本当に辛くなった時はちゃんと言うので、今はこのまま学園に通わせてください。お願いしますっ」


 私ははっきりとした口調で再び答えた。

 揺るぎない態度をとる私の姿を見て、父は渋々折れてくれた。

 少しでもミレーユに何か酷い事をされたら、その時はすぐに伝えるようにと念を押された。


 そんなことで私はこのまま学園に通うこととなった。



 ***



 私は自室に戻りベッドに勢いよく倒れ込んだ。

 ふかふかのベッドに体を預けると、全身が沈み込み脱力感がして気持ちが良い。

 強張って固まっていた筋肉が緩んでいくように、スッと力が抜けていく。


(はぁ……、今日はなんだか疲れちゃった)


 今日は色々な出来事があり、気疲れしてしまったようだ。

 だけど以前に比べたら良い方に前進しているし、気持ちの面では幾分か楽だった。

 それに久しぶりにロジェの温もりに包まれて、幸せだった時間を思い出す。


 僅かな時間だったけど、こんな時だからこそ小さな幸せの有りがたみを感じてしまう。


(これは私達の試練なのかも。ここを抜ければ、きっと良いことが沢山待ってるはず。そう、だよね……)


 私は絶対にへこたれない。

 ロジェを諦めることが一番辛いから。

 それに今日は沢山勇気を貰ったので、きっと明日からは頑張れるはずだ。


 気が抜けていくと一気に睡魔に襲われる。

 私は重くなった瞼をゆっくりと閉じていった。

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