【死 骸】

夏目 夏実

第1話

私は3年前から探偵事務所の助手をしています。

面白そうな職業だなと思うかもしれませんが、実際は予約の受付と雑務ばかりです。

そんな退屈な生活の中で、私の唯一の楽しみは、探偵に相談する程でもない少し変わった依頼の話を聞くことでした。

時には依頼人の許可を得て「面白依頼」として探偵事務所のHPに掲載するのが私の趣味でした。


しかし様々な事情で当社のサイトに掲載することが出来なくなった事件を、ここで皆様にお話させて下さい。




依頼人「あの、そちらってストーカーの相談とか乗って貰えますか?」

私「はい。被害の証拠を集める為のご依頼などは承っております」

依頼人「…じゃあ依頼したいんですけど……」



そう少し頼りない印象のか細い声で電話をして来たのは

井上 美加さん 23歳

一人暮らしをしている会社員の女性だ



井上「嫌がらせをされてるんですけど…でも、ストーカーかもはっきりしないんですけど…」

私「ストーカーと言っても色んなパターンがあるので、状況を詳しく聞いても良いですか?」



井上「はい。確か3週間くらい前からなんですけど、家の前に動物の死骸が置かれているんです」

私「死骸…ですか。それは不気味ですね」

井上「えぇ。気持ち悪いし、処理にも困るしすごく迷惑しています」


私「ちなみに何の動物ですか?」

井上「最初はカラス、次はすずめでした。それが毎週水曜日に家のドアの前に置かれているんです」


私「水曜日…今日も水曜日ですよね?今日は何も無かったんですか?」

井上「それが…今日のはよく分からなくて…なんか干からびた小魚みたいなものが置かれていました」

私「小魚?」

井上「はい。煮干しよりももっと小さいものですね」



私は一つの可能性を思い付いた



私「あの。もしかして猫じゃないですか?よくあるんですよ

猫が恩を感じた相手に食べ物を持って行く事」

井上「でもウチ3階だし、すずめや小魚はともかくカラスなんて運べますかね?」

私「じゃあカラスは別件でたまたま井上さんの家の前で死んでいて

すずめと小魚が猫のプレゼントだったとか?」


井上「…なんかハートフルな話にしたがってませんか?」

私「え⁉︎いや…そうじゃないんですけど、嫌がらせにしては統一感がないのと

どんどん置かれる動物の死骸が小さくなっているのが違和感で…人為的には思えないんですよね」


井上「確かにそうですね。普通こういう嫌がらせってエスカレートしていくものですよね。

尻すぼみになるのは違和感ですね」



私達は考え込み、お互い黙り込んだ



私「まぁ犯人を特定する場合、人間であっても動物であっても方法はカメラの設置と張り込みの2択です。

カメラの場合安価に済みますが、犯人が人間の場合カメラを避けられたり壊されたりする可能性があります。

動物の場合カメラの死角で映らなかったりして特定に至らない可能性があります。

張り込みの場合犯行の瞬間を捉えられる可能性が高く、犯人に気付かれる可能性も低いですが

数名で24時間体制になるので費用が高額になります」


井上「そうですか…正直今お金が無くて…」

私「犯人の特定を急ぐ様でしたら、後払いやカードでの支払いも可能ですが?」

井上「えっと…彼氏にお金を貸してるので、それが返ってくれば支払いは問題ないんですが

なかなか返してくれなくて…」


私「そういう事ですか…あの、それでしたらこの件を当社のHPに載せてみませんか?

その死骸が置かれる原因が分かればいいのなら

私達の知らない動物の習性とか、詳しい方がコメントで教えてくれたりするんですよ」

井上「そうなんですか?」

私「掲載を許可して頂ければ今後もご相談には無料で乗らせて頂きます」


井上「無料ですか…それならお願いします」

私「では、記事が仕上がりましたら、また連絡します」

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