第26話

 若干……というか、かなり不穏な空気になりつつある僕と神桜さん。

 だが、別に僕は厄介事に首を突っ込もうと言うわけではないのである。


「別に僕は神桜さんに興味がない」


「……は、はぁ?」

 

「神桜さんの過去に何があったか。なんでそんな風に偽りの笑みを浮かべているのか……そのバックボーンに僕は興味がない」


「ば、バッサリと言うんだね……随分と」


「だけど、その笑みを見ているとこちら側が不快になる。別に僕は神桜さんの在り方を否定するわけじゃないし、僕以外の人間の前でまで作り笑いを浮かべるなとは言わない。でも、僕は作り笑いは嫌いなんだ」

 

 誰かの本心からでない作り物の笑顔……僕はそれを何故か見分けることが出来、それを見ると不快感を覚えるような体質なのだ。

 神桜さんの純度100%の偽りの笑顔は僕を非常に不快にさせる。


「けど、君を見ているのが僕だけでのときはその偽りの笑顔を浮かべないで」

 

 見ている対象が僕だけの時はその作り物の笑顔を見える必要はないだろう……どうせ僕には作り物であるとバレているのだし。


「僕の前だけは素顔を晒して」


「……なんでそんなことを恥ずかしげもなく言えるのかなぁ」

 

 僕の言葉を聞いた神桜さんは偽りの笑顔ではなく、呆れの混ざった苦笑を浮かべながら


「人には、さ……触れてほしくないこともあるんだよ?」

 

 神桜さんはいつも浮かんでいる明るい笑顔ではなく、ゾッとするほど冷たい視線を携えた真顔で僕の方へと視線を送ってくる。


「君の作り物の笑顔は僕の触れて欲しいないことに抵触するな」


「ちょっとそれはひどくない……?私のは結構深刻なんだけど……」


「はぁ……別に深刻さとかそんなものは興味ない。ただ、今の君の表情が見れただけでも満足」


「なんだかなぁ……ちょっと色々と文句を言いたいのだけど」


「そんなもの受け付けてないよ?」


「理不尽や」


「知らん。それが僕だ……これでようやく気持ち悪い君とはおさらばだし、気持ちよくペアとしてダンジョンに潜れるね」


「……そんなにはっきりと気持ち悪いって言われるのはまぁまぁ不本意なんだけど」

 

 僕は一切笑みを浮かべることがなくなり、表情筋が完全に死んだ神桜さんと共に対して苦労することのないダンジョン15階層をぶらついたのだった。

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