第2話

「……嘘、だよね?」

 

 『誰だよ』という僕の言葉を受け、転校生はショックを受けたような表情を浮かべ、口を開く。


「嘘じゃないよ。そもそも君は自己紹介をしていないじゃないか。名前だってわからないよ」

 

 僕はハーレム願望を持ったごく一般的な男の子である。

 転校生の美少女からいきなり話しかけられた……普通であれば大喜び案件なのだが、ちょっと過去を捏造して『久しぶり』とか言っちゃう地雷っぽそうな女の子はちょっと勘弁したい。


「……」

 

 机と椅子を倒し、地面へと体を倒していた転校生はゆっくりと体を起こし、僕のことをジッと見つめる。


「……嘘は、駄目なんだよ?」


「────ッ」

 

 僕の前に立つ転校生。

 彼女から殺気を感じた僕は警戒心を上げ、身構える。


「おい!勝手なことをするなッ!痴情のもつれをクラスに持ち込むなッ!」

 

 僕と転校生。

 そのどちらかが動き出すよりも前に池田先生が声を張り上げる。


「まずは自己紹介からだ。クラスの全員が困惑している。二人だけの空間を作るな」


「池田先生。誤解です。僕だって置いていかれてます」

 

 なんで僕はいきなり知らない女子から幼馴染判定を受け、殺意を向けられなくてはならないのか。


「ふざけるな!そこら辺の話はHR後にしろッ!まずは転校生の自己紹介からだ!」


「……後で、お話だから」


「あぁ、うん。良いよ」

 

 色々と不穏な子ではあるが、彼女は美少女である。

 快くその提案を受け入れようじゃないか……美少女だし。

 でも、バイオレンスなことになるのだけは辞めてほしい。切実に。


「私の名前は天鳳雲母。趣味は特になし……そして!碧衣ととってもとっても仲の良い幼馴染ッ!これからよろしくお願いします」

 

 教室の前へと戻り、元気よく自己紹介をする転校生、天鳳さん。

 彼女の自己紹介を聞き、名前を頭の中で咀嚼し……一言。


「知らんがな」

 

 やっぱり知らなかった。

 名前に一切の覚えはない。


「良し!転校生の自己紹介は終わり!そして、今日は特に連絡もないので、これで朝のHRは終わり!さっさと二人のち上のもつれを解消してくれ。あっ。頼むから流血沙汰にはなるなよ?それは普通に問題となって私も怒られるから」


「ありがとうございます。池田先生」

 

 天鳳さんは笑顔を池田先生へと向け……そして、僕の方には無表情を向けてこっちへと近づいてくる。


「……痴情のもつれにはしないで欲しいなぁ。覚えないし」

 

 天鳳さんが盛大に倒した机と椅子を直し、座り直していた僕はこっちへと向かってくる天鳳さんを見ながら、池田先生の言葉に対しての不満を漏らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る