14.みんなの強みを活かしましょう

 正直、このエッセイはそろそろ閉じようかな、と思っていました。

 当時はとにかく「こんな技法あるよね」「こんなトコ気をつけないと」などなど、多少なりとも「なるほど」とか「あるよね」みたいな内容だったかと思いますが、最近はとにかく好き勝手感というか、だいぶ脱線が増えたなと。

 元々「自分が小説書く上で気にしていること、思っていることを書いていく」ので、決して創作論を書いていたわけではないのですが、創作論な空気感になった以上、その路線から外れるのもどうかな、と思い、原点回帰します。

 もっとも、弱小作者ですので、観点としては「作家」ではなく「アラフォーの一読者の感覚」を前提としておりますのであしからず。



 皆さま、作品の差別化、できていますでしょうか。

 異世界転生したはいいが、どこかで見た作品になってませんか?

 俺TUEEEE!したら、出オチで終わり、話が展開しなくなっていませんか?

 悪徳令嬢出したはいいが、なんか呆気なく終わってないですか?


 あと最近の流行りってすぐ出てこないですが、「人気のジャンル」は分母が大きい分、似た作品も出やすいです。

 ですが、そこは別に悪くはないと思います。

 

 まず大前提ですが、完全なオリジナルなんてそうそうありません。

 世の大作、名作の数々だって、何かしらの影響は受けているし、オマージュもたくさんあります。人気作A+過去の名作=話題の新作、とか普通にあります。

 

 また、どんな人気作だってファンがいればアンチもいます。アンチの中にも好きだからこそアンチになった人と、作者が嫌い、絵師の作風が嫌い、ただの逆張りなど多岐にわたります。

 「こうした方がいい」という人と「このままの方がいい」とアドバイスする人、感性は人それぞれです。

 その中で、如何にマジョリティにウケるか。

 それが、今は異世界転生などのジャンルに過ぎないのです。


 ではジャンルを決めた際に、如何に自分の「色」を出すか、そこが重要です。


 異世界転生は、事故か何かで死んで異世界に転生。そこから才能に恵まれている主人公がその実力でまわりからちやほやされながら成功する話です。他にも現代の知識を中性欧州風の異世界で披露して~、とかもありますね。

 今、決めつけで話しましたが、異世界転生は少し苦手なジャンルなので、そこが滲み出てしまったかもしれません。


 そんな苦手なジャンルの中でも、好きな作品があります。

 例えば『幼女戦記』。

 エリートサラリーマンが事故死して、恵まれた魔法の才能を持って異世界に転生します。サラリーマン時代の処世術や知識を使って軍組織内で地位を高め、たくさんの部下を得ていきます。

 ここだけ書くと先のテンプレに収まりますが、なぜこの作品が好きなのか。

 まずは、この主人公の出世は本人が望んだものではないものであるということ。これは「戦乱の時代だから軍にいないとまともな暮らしができない」から軍に入り、「優秀な人材として出世して後方で安全でいい暮らしをする」ことを目的にしていたのに、「優秀な軍人だから前線でその実力を発揮してもらおう」となってしまったからです。

 主人公の残虐性も魅力です。

 前世では不要と断じた人間をクビにしていた主人公が、転生後は人を残酷なまでに利用していきます。そのくせ本人はちびっ子なので、そのギャップも魅力的です。

 戦闘でも、第二次世界大戦時の教訓や戦術論など、「おお、なるほど…」な部分も多数あります。


 この作品はわたしの苦手な異世界転生の「転生したら才能バリバリ」で「成功していく」サクセスストーリーですよ?

 なのにここまで好きなのは、順風満帆に進み過ぎず、強いけど適度にピンチになって、っていくのもありますが、大きなウェイトは「本人の意図と上官の理解が合致せずに望まぬ方向に話が進む」などの面白さがあるからだと思います。


 一言で言うなら、「異世界転生とは思ってない」からです。


 冷静に事実を並べれば異世界転生ですが、それ以上の魅力を持っているからこそ支持されているのではないかと思うのです。


 でも、皆さんの中にはこう思う人もいらっしゃるでしょう。

 そんな難しいもの書けない。

 巧妙な叙述トリックも、多様な人物が織り成す主義主張なんて書けない。

 世界経済なんてわからないので、お金のことも書けないし。

 格闘技なんてやったことないからネットで「ぽい」の拾ってくるしかない。

 軍事のことなんてわからないので、ネットで「ぽい」の拾ってくるしかない。

 物理なんてわからないので、それっぽい単語をネットで拾うしかない。


 結果、作者よりも少し詳しい人から「これおかしい」と言われ、手直しして、でも矛盾は埋まらなくて、書いた本人すらよくわからない作品になって……。


 専門外のことを調べて書くの、すごく大変です。

 わたしが今書いているウィルスが出てくる作品も、少し調べながら書いていますが、まぁツッコミどころありますよ。科学的にも、文章構成的にも、人物の心情的にも。


 じゃあ、どうすればいいのか。

 薄っぺらな話にしないためにはどうすればいいか。


 そんなとき考えるのが、自分の経験を織り交ぜてはどうか、です。


 自衛隊経験あればそれを書けばいいし、警察ならばその経験を作品に組み込んでいけばいい。そういう漫画、結構あります。

「いや、こちとら普通のサラリーマンだし」

「まだ学生だし」

 そういう方の方がメジャーでしょう。

 そんなあなたに伝えたい。


 あなたの普通は読者にとっての普通じゃない。


 お前はおかしいとか、そういう意味ではありません。

 

 ラブコメ作品って、大なり小なり自分や近しい人間の経験が織り交ぜられています。それがリアリティに繋がっています。

 同じように、自分の社会人経験で得たものを、作品に混ぜてはいかがでしょうか?


「いや、だから普通のサラリーマンだと…」

 そう言い返したい方、もうしばしご辛抱ください。


 総合商社の仕事って、ご存じですか?

 会社の「〇〇企画」って部署の仕事って、何してるかわかります?

 事業計画って、何のことか説明できます?

 工業製品の業界事情、BtoB企業の関係って、わかります?

 

 学生に限らず、社会人でも職種が違うから、経験がないから、なんとなくのイメージしかないことって多いと思います。

 ちょっと抽象的な例でしたが、もっと砕けた内容にしましょう。


 電柱って、どうやって建てるか知ってます?

 電柱を担いで運ぶって聞いたら、どう思います?

 あなたの近所にある光ケーブル、何回線収容されてるかご存じですか?


 業界人やその道に詳しい人以外、知らないことばかりです。

 例えば災害やバトルもので、住宅地で光ケーブルが切り落とされた、となったときに、これくらい被害が出たんですよ、と書くとき、通信を知っている人とそうでない人が書くのでは内容が変わります。

 たくさんのネットと電話が通じなくなった、くらいで終わるのか。

 一般回線426回線が通信断、ATM6基が使用不能に、と被害報告風に書くか。

 仕組み上、心線1本=1回線とは限らないのですが、1万回線が使えない、と書くと、ケーブルの収容心線数としては過大です。電柱間に張っているケーブル内の心線の本数は、種類によって決まっていますし、サービスによて1本に8回線、32回線と収容されているサービスもあります。

 ケータイ基地局に向かう回線が入っていればスマホにも影響が出るし、マンションに収容されている回線がたくさんあればケーブルの心線数に対して収容回線数が増えるしで、シチュエーションによって影響は様々です。ケータイの5G通信は4Gと比べてカバーできるエリアが狭いために、従来よりもモバイル通信の影響度は高くなるでしょうし。


 そこまで正確に書く必要があるのか、というご意見もあるでしょう。

 すみません、あくまでわたしの好みです。


 結構読んでいて好きなのが、専門分野の「これはこういう理屈で動いているので」とかの説明から突破口を見つけるとか、業界の「こういう事情があるので」の説明からこの推理はミスリードで実は…、とか。そういうの、「へぇ~」って感心できて、好きなんです。


 学生だって、自分の今の学校事情とか、親世代とだいぶ変わっているので、わたしみたいなアラフォーとか上の世代が見たら「え?こんなことになってるの?」って、思わず食いつくかもしれません。

 それは、今学生で、且つ物書きをしているあなたにしか書けないものかもしれません。


 〇〇業界だけが知っているネタがあると、関心を得られる。

 「へぇ~」があると、一気に興味が増します。

 作中の説得力が増します。

 「それっぽさ」が増します。


 

 例え創作物であっても、全てが作り物ではなくリアリティが混じっている。

 それが、作品に厚みを出してくれる一つの要素ではないのかな、と思っております。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る