第44話
目的地も決まったところでサカラハ国の村や街の道中を資金節約で乗合馬車を控えて歩いている時、ふと気になったことをノイシュくんに聞いてみた。
「なあ、この世界の言葉って万国共通?」
「いいえ。この大陸は小さいので字も言語も共通ですが、大陸から離れると言語が違います。全世界の言葉がわかるわけではありませんが、大国のものなら勉強しましたし僕は不自由しないと思います。…サハラさんは謎勇者パワーで知らなくても分かるんでしょうか?」
俺は首を横に振った。
「そもそもまだイグニクスとサカラハ国しか知らないからまだ分からん」
ノイシュくんはそれもそうですね、と頷いて歩みを再開させた。
しかし不味いな。
今までなんとなくの幸運と勇者パワーで乗り切ってきたけど言語が通じないとなるとこれからの旅はノイシュくん頼りになってしまう。
俺は言語学習に自信がない。
船便のチェックの仕事をしている時はすべての便の言葉が分かったけれど、あれがこの大陸のみのものなら意味はない。
いいや!信じろ!俺の都合のいい勇者パワーを!今までだってなんとかなったじゃないか!
「そうだよな。なんとかなってんだよな、何故か」
心の中で呟いたつもりが声に出てていたらしい。
ノイシュくんに「どういう意味ですか?」と聞き返された。
「いや、この世界が俺に優しすぎるって話。魔王は友好的だしレベルも最高値、特に習っていないのに武術は出来るし魔法は使える。言葉にも文字にも不自由しない、チート過ぎてこれもおかしい事だよなって思ってさ」
「ちーと?」
「なんかすごいってこと」
ノイシュくんは首を傾げた。
「サハラさんが勇者だからじゃないですか?」
今度は俺が首を傾げた。
「そう思ったんだけど、同じ異世界人で勇者のアルベルトさんが自身に封印した自分の世界の魔王に意識と体を乗っ取られるんだぜ?俺も同じ立場なら人に助けられる側かもしれないし…。俺ってどこまで出来るのかなぁって」
実際、なんでも今のところ上手くいき過ぎている。
反動で恐ろしいことが起こると言われたら頷きたくなる程に。
アルベルトさんを見るに勇者でも万能ではない。
じゃあ、俺の弱点ってなんだろう?
「ノイシュくん。俺の弱点ってなんだと思う?」
「美味しいものとお酒に弱いところじゃないですか?」
「……一理ある、けど、そうじゃなくて勇者として俺はなんでも出来る気はするけど出来ないこともある気がするんだ。俺の弱点、俺が生きていく上で大切にしていきたい。だから知りたいんだよな」
「難しいですね」
ノイシュくんが腕組みする。
「とりあえず、出来ないことより出来ることから探していくか。他国へ行って言語が通じるか。これが今一番重要なことだ」
俺は考え込むノイシュくんを置いて前へ進む。
「あっ、待ってくださいよ。サハラさん!」
出来ること、出来ないこと、しっかり見極めて言動にも気をつけて、ここは気心知れたイグニクスじゃない。
もう他国なんだ。
リュックの中身の勇者シリーズが重みに感じる。
でも、それに負けないようにこの世界を俺なりに知る必要がある。
「カレーめっちゃ美味い」
「本当ですね!これがサカラハ国の本場のカレーですか…」
立ち寄った街でカレーの名店があると聞き、ノイシュくんに駄々を捏ねて並んで順番待ちをしてようやく食べてみると、噂に違わぬ美味さだった。
「いや、カレーはそもそも俺の世界の食べ物なんだけど…名前もカレーだし、これも俺の世界の人…異世界人が昔に広めたんだろうなぁ」
「そうなんですね。異世界人凄いですね」
「本当にねぇ」
本当に、ここまで俺の世界の衣食住も含めて文化が根付いていて異世界感は車もないど田舎の生活みたいなもんだ。
いや、アルベルトさんの世界の他にも色んな世界のものが入り混じってこの世界が成り立っているのかもしれない。
各国が成り立つ頃に叡智を授けたとノイシュくんも言っていたし、もしかしたら過去に様々な世界の人物がこの世界に呼ばれてこっちへ来て故郷を懐かしんで自分の国のものを広めたのかもしれない。
「なあ、大図書館がある国まで遠いの?」
「ここから何国か経て船に乗って別の大陸まで行きます」
結構な大冒険だった!
「思ったより遠いね」
「この世界でも一、二を争う大国ですから。この端の国からでは遠いものですよ」
「そうなんだ」
「……サハラさんが何を悩んで考えているか分かりませんが、過去の書物を調べれば多少は何かが分かると思いますよ」
ノイシュくんに慰められてデザートまで勧められた。
「そうだね。とりあえずデザートに何食べる?」
食べ終わってまた歩いて旅は続く。
「そういえば大図書館がある国ってなんて名前?」
「フロランタンです」
あ、これ俺の世界の住人関わってる絶対。
しかもスイーツ好き。
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