第43話

「ノイシュくん、俺、ケツが割れそう」

「元から割れてますよ、サハラさん」

ガタゴトと相乗り馬車を乗り継いで合間の村や街で食べ歩いたりしつつようやく国境に最も近い村までやってきた。

ここまで来たら相乗り馬車は国境を越えられないため歩いてサカラハ国へ向かうしかなかった。

整備された道を歩いて国境の門へ向かって行く途中、のんびりと喋りながらサカラハ国がどんな場所かノイシュくんにも訊ねてみたけれど、今まで国交もほとんどなくキクノクスに移住してきた人の話ぐらいしか知らないらしく、俺が飲み屋でサカラハ国から移住した人たちから聞いた内容とたいして変わらなかった。

「サカラハ国にはコメがあるからこっちの世界でどんな料理にされているか楽しみだなぁ」

「何度も言いますが異変調査ですからね!また二日酔いで一日を無駄にしたりしないでくださいよ!」

あの時の件は余程ご立腹だったらしい。

「ごめんって…。次から気をつけるからさ」

「そう言って気を付けられたことがないです」

ぴしゃりと言い切られれば面目もない。

俺は話題を変えるために天気の話をすることにした。

そう。万国共通の困った時は天気の話!

「ええーっと、雨、降りそうだね」

「そうですね。さっさと関所を越えましょう。そうすれば近くに村があるはずです。今晩はそこで一泊しますよ」

「はーい」

「伸ばさない!」

ことあるごとに怒られて、どっちが年上かわかったもんじゃないな。

俺がやれやれと首を振っていると既にどんどん先へ進んでいたノイシュくんに「早くしてください」とまた怒られた。

ノイシュくんを超える日が俺にあるのか…?


雨に降られないように走りながら関所に向かって行くとわりとすぐに着き、何事もなく身分証を見せるとあっさり通してもらえた。

「良き旅を」

なんて門番に言われて他国へ来るのにあっさりしたもんだ。

空港でのあの面倒さを思い出してこちらの緩さに危機感を覚える。

こうして、俺達は長くいたイグニクスから国境を超えてサカラハ国へ一歩踏み入れた。


決めていた通り関所近くの村の宿に着いた途端土砂降りの雨になった。

今は宿屋に併設されている食堂で晩飯を食べている。

「でもさ、異変調査異変調査って言うけど、俺が来た事自体が異変じゃない?」

「そう…ですよね」

ノイシュくんは少し考え込んだ。

「そもそも異世界からほいほい人が来ること自体おかしくない?いや、俺は前回来た人が俺の世界の文明広めててくれてありがたいし食生活とかで困らないからいいんだけど。カシワギさんの話だと俺の世界の未来からこちらの過去へ飛ばされることもあるみたいだし。おかしいことたくさんありすぎない?」

ノイシュくんの眉間に皺が寄る。

「ねぇ、この世界に異世界人が来るようになってどれくらいなのかな?」

「それは少なくとも各国が個として成り立ち始めた時からその叡智を授けたと記録されています」

「へえ、そんな古くから。でも、何か転機があったんだろう?それまで起こらなかった事象が急に起きたんだから。それに、俺やアルベルトさんみたいな勇者が他国で匿われているかもしれないし。そうしたら今の時代に勇者大集合になるだろ?おかしいことだらけだって」

「……そうですね。サハラさん。昔のことを調べるためにこの世界で一番大きな図書館のある国を目指していいでしょうか?何か取っ掛かりが見つかるかもしれません」

「目的地もなかったしいいんじゃない?昔の文献でも読み漁れば何か分かるかもしれないな」

そこまで話して食べかけのシチューを一口含んだ。

「ノイシュくん。このシチューめちゃくちゃ美味い」

「こちらのリゾットも美味しいですよ」

「やっぱりサンダルソンから仕入れているのかな?」

「ここら辺だと多分そうじゃないですかね?」

なんて軽く話し合いながら、目的地となる国までどういうルートで行くか仔細を話し合った。

外は相変わらず土砂降りだ。

「雨に降られなくてよかったねぇ」

「そうですね」

これからの旅路に暗雲を示すものじゃなきゃいいけれど、と考えて残りのシチューをかき込んだ。

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