第25話
今日は食堂で定食を食いたい気分だったから久々に職場の食堂に行った昼食時のことだった。
ノイシュくんはまだ仕事をしている。
もう昼だぞと何回言っても「あとこれだけやったら行きます」と粘られた。
俺はノイシュくんとバルロットさんが過労死しないか心配だ。休む時は休め。
あと、上が休まないと下も休めないからなー。
一度バルロットさんに本気で休んでもらうか。
日本にいた時は仕事を休むなんて難しかったけどなー。
異世界来てからなんか吹っ切れて休む時は休むって当たり前のことが出来るようになってきた。
そんなことを考えながら食べていると、前の席に誰かが座る気配を感じたので顔を上げると物凄く可愛い子が居た。
「相席よろしいですか?」
「どうぞどうぞ!」
大歓迎です!というのは心で叫んでおいた。
「あの……サハラさんでいらっしゃいますか?」
「はい。リツ・サハラです」
「やっぱり!ファンなんです!お会い出来て光栄です!あの…もしよろしければ握手してください!」
可愛い子がめちゃくちゃぐいぐい来ながら握手を求めてきたので喜んで応じた。
「あっ、自己紹介もせずに申し訳ありません。ミカ・タユラと申します。ミカとお呼びください。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるミカさん。
それからミカさんはいかに俺に憧れているか、警備兵に所属しているミカさんから見て俺がやってきた功績を讃えてくれた。
こんな美人な警備兵なら守られるより守りたいってのは差別かセクハラか。
でも、正直こんな真正面から美人に手放しで絶賛されたのは初めてで気恥ずかしさが勝る。
「いやぁ、そんなたいしたことはしてませんよ」
「そんなことないですよ!サハラさんは、憧れです!」
興奮気味にそう言われて照れてしまう。
「ありがとうございます、ミカさん。そう言っていただけて嬉しいです」
「あっ、こちらの方が二十六歳で歳下ですし、タメ口でお願いします」
「いいんですか?」
「ぜひ!」
ミカさんのぐいぐい来る姿勢にちょっと仰け反りながらも悪い気はしない。
リーシャ先生の時はダメだったけど、とうとう青い春が来たのでは!?
婚活の成果…あまり結果が出ていないと思っていたけれど、今出たのでは!?
その後もぐいぐい来るミカさんに少し圧倒されながらも会話をし楽しい昼食になり、休日にデートの約束まで申し込まれてルンルンで職場に戻った。
「おかえりなさい…随分とご機嫌ですね。そんなに今日の食堂の定食が美味しかったんですか?」
俺の締まりの無い顔を見てノイシュくんが訊ねるが俺は首を横に振る。
「ミカ・タユラさんっていう可愛い子とお知り合いになっちゃったんだよー!婚活の成果が出ていた!」
ドヤ顔で昼食時の事を思い出しながらノイシュくんに話すと、首を傾げられた。
午後も浮かれ気分で仕事をしたら小さなミスを次々やらかしてしまってノイシュくんに注意をされた。
「サハラさん…散々婚活に失敗しても諦めない、その姿勢はとても素晴らしいものだと思います」
「馬鹿にしてるの?」
「でも、それを仕事において持ち込まないでください。…………そもそもミカ・タユラなんて女性警備兵はいないはず……あっ!もしかして、サハラさん!!……いない!!」
ノイシュくんのお小言から逃げ出した俺はこの時のノイシュくんの言葉を素直に聞いておけば良かったと後悔する。
そして訪れたデートの日。
ミカさんはボーイッシュな格好で可愛い顔をしていながらもギャップ萌えってやつか逆にいい。
「お待たせしてすみません!」
「いいや、俺も今来たところだから」
やってみたかったカップルっぽい会話!!
その日はおじさん一人じゃ行きにくい流行りのカフェとやらに行ってみたり、ミカさんご贔屓の武具店で色々見たりした。
公園で買ったクレープを食べながら、ほぼ俺に会話を求められて今までの戦い方とかなんやら聞かれたけど、ミカさん警備兵だもんなぁ。仕事熱心だなぁ。
でも俺はなんとなくすぱーっとやってぐっと押したくらいの語彙力がなくて参考にならくてごめん。筋トレもしてなくて中年太り気にしててごめん。何の役にも立ててない……。
それでもミカさんは俺のことを一生懸命に褒めてくれて話せば頷いて聞いてくれて目を輝かせて、とても嬉しかった。
クレープを食べ終わる頃には夕陽が見えてきていた。
「日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうか」
「そうですね…また、お会いしていただけますか?」
モテ期きたーーー!!!とうとう!青い春が!!ノイシュくん!これが俺の実力だよ!!
「もちろんだよ!喜んで!」
にこにこの満面の笑みで答えていたら足を踏み外して段差からすっ転んだ。恥ずかしい!
「ごめんごめん。…痛っ」
どうやら足首を捻ったらしい。
「大丈夫ですか!?」
ミカさんに心配させてしまった。
「いや、ちょっと捻っただけだし家まですぐそこだから…」
「大変じゃないですか!お送りしますよ!」
そんなに心配しなくても…と思いつつちょっと嬉しいと思っていたら抱えられてミカさんの胸板に頭を預ける形になった。
姫抱きだ。
「あの…ミカさん……」
逞しいですね、ではなくて薄々胸がないとはセクハラで言えないし思っちゃいけないと思っていたけれどもしかしてこの感触は…。
「自分も男なので、これくらい大丈夫ですよ!お送りしますのでご自宅を教えてください」
可愛いと思っていたミカさんの顔が格好良かった。
そして考えて欲しい。
三十二歳のおじさんが、二十六歳の美人の女の子にしか見えない男に姫抱きにされる姿を。
「いっそころしてくれ……」
思わず顔を覆い隠してミカさんの胸板を感じると、警備兵なだけあって逞しいですねー。脱いだら凄いんでしょうねー。と、現実逃避しだしてしまった。
こうして俺は街中の人目を集めながらミカさんに送られた。
いっそころしてくれ。
翌日、図書館に行った帰りに公園に寄り一部始終を見ていたというノイシュくんに言われた。
「虚無ってああいう顔なんだなぁと思いました」
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