第13話
今日は中華な気分なのでサカラハ国の移住区域にやって来た。
そして炒飯ぽいものを食べて今更ながら気付く。
「米だ!!!白米だ!!!」
炒飯ぽいものがあるということは米がある!
日本食がつくれるぞ!!!
急に騒ぎ出した俺を周囲が変な目で見てくるが、それどころじゃない。
なんで散々食べてきて気付かなかったんだ!
聞いたらコメという名で大昔サカラハ国に来た異世界人が広めたらしい。
よくぞやってくれた!過去の異世界人!むしろ日本人だろ!同志だろ!!ありがとう!ありがとう!!
よく作り方知っていたな!?農家の方か?
なんにしてもありがとう!
翌日の俺はルンルンで仕事をした。
昨日聞き回ったけど何故かコメはサカラハ国の移住区域の飲食店またはサカラハ国民のみ販売されているらしいが、サカラハ国から輸入されているコメを個人商店で卸して貰えればいいんだ。
どこかの商店と交渉して実現できれば俺も普段から米が食べられる!
「サハラさん、随分と機嫌がいいですね」
ノイシュくんに訊ねられて上機嫌で答える。
「サカラハ国のさ、コメって知ってる?」
「知っていますよ。清流の国と言われる水の美しいサカラハ国しか作っていない名産品の一つです」
「そ、そうなんだ……」
ドヤ顔して言ったのにノイシュくんの方が詳しかった。恥ずかしい。
「実はそのコメが俺のいた世界の食べ物とよく似ていてさ、なんでかサカラハの移住区域と国民しか入手できないらしいんだけどなんとか流通させたいんだよね」
「その心は?」
「米食べたい」
「正直ですね」
ノイシュくんは苦笑すると難しそうな顔をした。
「残念ながら本来、サカラハ国とは国交の無い他国なのでコメの入手は困難ですね」
「移住区域はあるのに?」
俺が首を傾げて訊ねるとノイシュくんが難しそうな顔を更に難しくした。
「本来はちょっとややこしい事態なんですけどね。大昔に移住してきた方々もいますし今現在移住する方々はバルロット様が陛下と掛け合い移住の許可を出してしまいましたから」
「移住しなきゃいけないほどサカラハ国には何かあるの?」
俺の問いにノイシュくんは困ったように眉を八の字にしてどう言えばいいか悩んでいるようだった。
それでも俺の疑問は尽きないので聞いてしまう。
「国交が無いって王様が決めたの?」
「いいえ……いえ、はい。そうですね。ただサカラハ国とは過去に色々と問題がありましたので……」
今度こそ口籠もりながら視線を書類に落とす。
そのまま沈黙が続く。
これはノイシュくんに聞くよりサカラハ国の人に聞いた方がいいかな。
その晩、サカラハ国の移住区域で飲んでサカラハ国の人に酔った振りをして話し掛けて相手を酔わせて酔わせて酔い潰してようやく聞けた。
「サカラハの王様がイグニクスの王様を裏切ったんですぉ」
なんでも魔王との戦いよりずっと昔に隣国のナタハリ国と戦争していた際に同盟を結んでいた筈のサカラハ国がナタハリ国と手を組んでこの国と争ったそうだ。
ナタハリ国とサカラハ国も隣国で国交がありサカラハ国の王女がナタハリ国に嫁入りしていたからこちらを裏切ったのだろうという話だった。
……嫁入りという名の実質は人質みたいなもんだったらしいけれど、今は魔王の抑止力でどことも争わないナタハリ国だが、当時は戦争をしては国土を広げていっていた国力のある国だったらしい。
随分と野心家な王だったんだな。
いやでも、同盟と娘である王女が人質にされているサカラハ国が板挟みになっているのも可哀想じゃないか?
そしてサカラハ国を見限ってこちらの国に来たサカラハ国の移住民は同盟を反故にしたことに義憤に駆られてこちらに、ナタハリ国からの移住民は当時のナタハリ国王の圧政から逃れるために移住した人々らしい。
しかし三百年以上前の話。
そろそろ黒船が来たっていい頃じゃ無いか?
江戸だって色々あったけど黒船が来て開国して文明開化したぞ。
バルロットさんが移住の許可を出していても国交復活にはまだ足りない。
ナタハリ国の移住区域も移住民もいる。
食べ物も酒も美味いことは知っている。
ナタハリ国とも国交を復活してほしい。
イグニクスは端の国だから陸地続きのお隣ふたつの国とややこしい関係なのもまずいのでは?
俺には過去のやり取りや遺恨も分からない。
米が日常的に食べたいだけだし。
でもお隣ふたつの国とは現状は争いはないものの国交すらないらしい。
サカラハ国とナタハリ国は国交があるがその時の亀裂から上手くいっていないらしい。
イグニクスは海を使い遠回りの他国とやり取りをするせいで新鮮なものは自国しかない。
でも。
「国交がないなら作ればいいんじゃ無い?」
俺は閃いた!という顔をしてとりあえずバルロットさんに相談することにした。
仕事の話のため飲みではなくてきちんと面談の申請をしてバルロットさんとの話し合いに挑むことにした。
俺は白米が食べたいばかりにバルロットさんに熱意の籠ったプレゼンをした。
「俺には過去の遺恨とかまったく分からないですけど、端の国で陸地に繋がる二つの国と国交が断たれたままだと今までは良くてもこれからはどうなるんですか?移民の受け入れということで両国から人や物資を手に入れても根本的な問題解決にはならないと思うんです」
「飲みの席ではなく面談を申し込んできたと思ったら珍しくこの国について語りますね」
バルロットさんも困った顔をする。
三百年以上前からの問題だ。そんなに簡単に解決できるとは思えない。
でも俺は米が食べたい。味噌汁と卵焼きで食べたい。漬物もあればいい。
サカラハ国の移住区域ではどうしても中華で出される。
普通に買わせてくれ。日本食をくれ。
「私としてもサカラハ国とナタハリ国との現状は良く無いと思っています。サカラハ国とナタハリ国はまだ一応の国交を保っているためどちらか一国だけにアプローチしても難しいでしょう。こちらとしても出来れば国交を復活させて陸路の道を使い海から遠回りせずとも内陸の他国との国交をしたい。ですが、この三百年以上膠着状態にあるので切っ掛けすらないんですよね」
切っ掛け。
この膠着状態の三ヶ国に投げ入れられる石。
バルロットさんや国王陛下が考えても思いつかない、出来ないことに俺が出来ることってあるんだろうか?
俺に出来ること……今こそ勇者の肩書きの出番じゃ無いか?
いや、それは力に頼るということだ。
リリィみたく圧倒的な力で人間社会を制するということ。
それじゃ意味がない。
それにリリィは平和な世を望んでいる。
例え、武力によった仮初の平和でも…。
…俺が勇者である意味は今回もないな。
でも、そうだな。国交が無いということは。
「この国でサカラハ国とナタハリ国の良さは分かるんですけど、サカラハ国とナタハリ国でイグニクスの国の良さは分からないんじゃないんですか?」
「つまりは?」
緊張するバルロットさんに向けて俺は渾身のドヤ顔をした。
「両国を交えて三ヶ国で仲直りパーティーでもしませんか?」
バルロットさんが知り合って初めてこれでもかと顔が崩れた。
でも元がいいので崩れても格好良かった。
この世は理不尽だ。
でも、みんなで美味しいもの食べて腹割って話せばなんとかなる筈だ。多分。
サカラハ国もナタハリ国もきっと、今のままでいいと思っている筈がない。
お隣同士で膠着状態で三百年以上。
俺がここに来た意味は有事の際にって国王陛下も仰っていた。今が有事の際だろ。
「三ヶ国の重要人物を集めて各国の料理と酒でもてなすんです」
「それで親しくなれるのは居酒屋くらいですよ」
バルロットさんがため息を吐いた。
「いいじゃないですか。王様って言ってもおじさん達ですもん。居酒屋ノリ通じますよ多分」
「それ、不敬になるので気をつけてくださいね」
バルロットさんに注意されるが王様がおじさんなのは否定しないんだな。
「バルロットさんはなんでサカラハ国とナタハリ国の移民を受け入れたんですか?」
バルロットさんは難しい顔をした。
「……このキクノクスは建国から流刑地として活用されてきました。森に囲まれ反対側は海と入るのにも出るにも苦労していたのを活用したんです。その頃からのサカラハ国民とナタハリ国民は犯罪者としてやってきたんですよ。国を追われて両国に敗れた敗戦国であるこの国に逃げ延びなきゃいけない、ね。ですが私は争いが終わり先祖の代からから少しづつ港を作り主要都市として組み直していったこの街を、過去は流刑地だった土地として終わらせるのは嫌だったんです。だってこのキクノクスは素晴らしい街になると幼少期に両親に戒めと連れてこられた時から思えていたのだから」
バルロットさんが真っ直ぐ前を見据える。
「そのために領主になったと言ってもいい」
キクノクスって昔は流刑地だったのか。
だから古い建物はやたらと頑丈で鍵も複雑なものが多いのか。歴史ある街なんだな。
住んで数ヶ月、まだまだこの街についてもこの国も他国も知らないことだらけだ。
バルロットさんは苦笑した。
「なので兄にはだいぶ我儘を言いました」
「お兄さんって?」
「国王陛下ですよ」
「へぇ…えっ!?」
「だから私はキクノクスの領主であると共に王弟でありノイシュの叔父であるんです」
この世界の住人、爆弾発言を平気で落としすぎる。
俺の飲み友達と勝手に思っていた人がめちゃくちゃ偉い立場だった件について。
バルロットさんはちょっと悪い顔をして笑った。
「我儘な弟から、兄にまた我儘を言ってみましょうか」
それから数週間後。
イグニクスの首都、イグニクスに数ヶ月振りに来た。
今日の役目は異世界人でも勇者でもなくてバルロットさんの数いる補佐の一人としてノイシュくんといる。
俺の飲み友達が実はめちゃくちゃ偉い立場で有能すぎる件について誰か話に乗ってくれ。
俺も半ば思い付きでやけくそで言ったのにまさか実現するなんて。
三ヶ国合わせてのパーティーは大規模で行われた。
各国の料理がテーブルに並び、俺はバルロットさんに許可を貰い大いに楽しんだ。
イグニクスもサカラハもナタハリも料理が美味い!もっと流通してくれ!
この国交復活の祝いの席でどんどん商談を進めてくれ。俺が買うから。切実に。
サカラハ国の王もナタハリ国の王も、どんな思惑があるかは分からないが傍目には然程悪い人には思えなかった。
同盟式は恙無く行われた。
最後に広場に面したバルコニーで三人の王で手を取り合い握手をすると、三ヶ国の国民が入り混じった広場からは歓声が聞こえてきた。
バルロットさんもノイシュくんも安堵した顔だった。
数百年の寂れた因習からようやく解き放たれたんだ。
それになにより。
「これで米が流通する!」
俺は小さくガッツポーズをして、この三ヶ国が新たに同盟を結んだ重大性なんてまったく知らなかった。
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