第12話

俺が休みの日時を学習したのか、帰る途中にまたふらりとリリィがやって来たので今度の休みには海で遊ばないかと誘ってみたら瞳を輝かせた。

「行くのだわ!」

即決で宣言したリリィは今から遊ぶことに楽しみだと言わんばかりだ。

「俺、人魚が見てみたいんだよな」

「なら人間の領域ギリギリまで呼んでおくのだわ!」

「……人魚も魔王の管轄なのか?」

「私様が命じれば大体の生物は従うのだわ!」

ドヤってするリリィにそういえば世界を制する魔王なんだよなぁと実際のリリィと肩書きとのギャップで苦笑する。

「じゃあ、今度の休みに港で十時に待ち合わせでいいかな?ノイシュくんも来るよ。さて、そろそろ夜も冷えるからさっさと帰って夏とはいえ暖かくして寝ろよ」

「分かったのだわ!お弁当にはタコさんウィンナー入れておくのだわ!リツも約束は忘れないようにするのだわ!」

「分かった分かった」

そう言ってリリィは楽し気に帰って行った。


さて、休み当日。

港から少し歩いて水泳許可の出ている砂浜までやってきた。

リリィは執事さん同伴できたが、俺とノイシュくんはめちゃくちゃラフな格好なのに一人だけきっちり燕尾服を着た執事がいて正直浮いている。

でも、この街じゃあもう有名人になったリリィの執事として顔も知られているから特に気にされていない。

暑くはないんだろうか?

リリィはリリィで新しい水着とやらのお披露目ポーズをしていた。

「それじゃあ海に入る前にしっかり準備運動するぞー」

俺が前に立ち準備運動をするのに倣ってノイシュくんとリリィがしっかりストレッチした。

「よし!遊ぼう!!」

今日のために浮き輪もビーチボールも用意済みだ!!

「まずは人魚ですかね?」

「そうだな。リリィ、人魚達ってもう来てる?」

「十時にリツ達と待ち合わせしているからその頃に来て欲しいとたのんであるのだわ。もういると思うのだわ」

「じゃあ、待たせるのも悪いし早く行こうか」

なんて言って泳いでみたらここでも無駄勇者パワーで俺とリリィがめちゃくちゃ早く泳いでしまって途中でノイシュくんを待つことになった。

勇者能力、普段使わないからたまに出てくるとびっくりする。

ノイシュくんを待って三人でのんびり泳いでいくと人魚はいた。

元いた世界で絵本なんかで見たままの人魚だった。

「ご希望の人魚よ!どう!」

リリィが得意気に紹介してくる。

「初めまして、サハラです。この度は俺の我儘でこんなとこまで来てもらってすみません」

ぺこりと頭を下げるとやたらとセクシーな人魚が、ふふふと笑った。

「お気になさらないで、人間の方。可愛い魔王様のお願いだもの。このくらいいつでも駆け付けるわ」

あ、やっぱリリィって人魚から見ても可愛い妹分ポジションなのか?

色々と気になっていたことを質問したり尾びれを見せてもらったりとしてノイシュくんとわぁわぁ言いながら人魚との触れ合いを楽しんでリリィが飽きたと言い出したので、その場で別れて砂浜まで泳いで戻った。

人魚、なんかセクシーフェロモンお姉様って感じの子が多かったな。

人魚接待なのかな。気を使わせたかな。

なんて考えながら泳いで砂浜に戻ると執事さんがリリィにタオルを渡してそのまま俺やノイシュくんにもタオルを渡してくれた。

「ありがとうございます」

「いえいえ。お気になさらないでください」

濡れた体を粗方拭うと今度はリリィが腹が減ったと言ったので弁当を食べることにした。

リリィご希望のタコさんウィンナーをもりもり食べている姿を見ると、作って来た甲斐があるもんだ。

俺は自分の分も食べつつ交換してノイシュくんと執事さんが作って来た分の弁当も食べた。

二人とも料理が上手いな。

「デザートがないのだわ!」

弁当を食べ終わって一息ついたところにリリィが衝撃の事実に気が付いた!みたいなことを言い出し、ちょうど氷菓屋が屋台を引っ張って通り掛かったので俺は自分とノイシュくん、リリィと執事さんの分を買ってそれぞれに渡した。

「私までよろしいんですか?」

執事さんに聞かれたが、これで執事さんの分だけ買わなかったら俺が仲間外れにしたようになるじゃないか。

というか。

「執事さん、ずっとお名前を伺い損ねていたんですけどなんてお名前なんですか?」

そうだ。リリィが来るようになってから何度も挨拶し会話を重ねておきながら本当に今更ながら執事さんの名前を知らなかったんだ。

不躾な俺の質問にも執事さんは嫌な顔ひとつせず普段通りの顔で答えてくれた。

「私は柏木雪、こちらですとユキ・カシワギですね。あなたと同じ、地球生まれの日本人で現在は魔族としてリリィ様の執事をしています」

なんて事のないように言われて氷菓が喉に詰まって咽せた。

「えっ!?まじですか!?」

ノイシュくんも驚いたのか目を大きく見開いている。リリィは当然のように俺の分からも少し氷菓をつついて食べている。

「まじです」

にこりと微笑まれても事実が衝撃的過ぎる。

ていうか人間って魔族になれるんだ……。いや、そこは今はどうでもいい。俺の他に異世界人がいたのか。

「…この国は異世界人についても寛容ですし、なによりあなたは勇者ですから。ですが、私が放り出された国はなかなか過酷でそれを見かねたリリィ様に助けていただいたんです」

カシワギさんはリリィを慈しむようにみていた。

「異世界人っていうか、俺達が元いた世界の人間って他にもいるんですか?」

俺の質問にも平然と答える。

「はい。ですから元いた世界のようなものが流通しているんです。先人達のおかげですね」

なるほど…。ラーメンみたいなものとかあったのは他に先に来ていた異世界人のおかげってわけか。

みたいな、であって完全なラーメンじゃないのは俺がチーズを作った時みたくうろ覚え知識からなんだろうか。

ていうか、カシワギさんの他の異世界人と会ってみたい。

話を聞いてみたい。

他にも仲間がいると知った俺は興奮気味だったがカシワギさんは淡々と続ける。

「この世界の地球や他の惑星から流れ込んだものの中には時空の捩れで未来や過去から来たものもあります。私も、サハラ様よりずっと未来の地球からこの世界の過去に飛ばされて来たんです」

「へぇ……」

……えっ!?今さらりと重要な事いわれなかったか!?

「カシワギさんって一体……」

「単なる執事ですよ」

にこりとまた微笑まれたがこれは踏み込まれることを拒絶した笑みだった。

俺は突然の情報過多に頭がぐるぐるしながらリリィのせいでだいぶ少なくなった氷菓を食べた。

そんなリリィは今度はノイシュくんの氷菓を狙って差し出された氷菓をぱくぱく食べている。

「氷菓、美味しいか?」

「美味しいのだわ!」

瞳をキラキラさせて海を見ながら氷菓を頬張りながら海を見る魔王。

なんか、重大なことをたくさん聞かされたけど今はこの平和でいいかな。


「もうひと泳ぎして勝負を決めるのだわ!」

若いって元気だなぁ。

ちらりとノイシュくんとカシワギさんを見てものんびり日陰で休んでいる。

これは俺とリリィの一騎打ちだな。

よっこらせっと砂浜から立ち上がり、みんなのゴミを集めてゴミをゴミ箱に捨ててリリィの元へ歩いて行った。


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