冬のプール

@LIAR27

寒空

冬のプールは枯れ木や枯れ葉

黒ずんだプールサイドになっている

自然に貯まった水は街灯や月明かりを映している

決まって仕事が終わってからそのプールサイドを眺めながらiQOSを蒸す

吐いた息は白く空に薄くなって消える

犬の散歩をしている人が横を通ったり

小さな子供を乗せた母親が自転車で駆け抜けていく

薄汚れたプールは今年の夏はどれだけみんなが来るのかと打ち合わせをしているかのように見えた

宇宙から放つ星の光は点を打って何かを教えてくれてる気がした

点と点を結ぶと形になると言うのは古の先人の残した遺産でもある

僕は色んな歴史を経た地球の上で成り立っている

そんな世界が自分の活躍に門を開いて待ってくれている

そう感じぜざるを得ない


昔岸辺で友と語らったことを思い出した

「君はこの街から出ていくんだね」

そう呟く友人

「そうだね、捨てきれない夢があるから」

友の孤愁に合間って言葉が重たくなった

「君はいつだって急だよ、だが男たるもの何か成し遂げてこの世を去っていきたいよね」

微かに笑みを浮かべる横顔は決して喜んでるようには見えなかった

「別に一生離れたわけじゃない、またお互い成長して語る時があるから」

そう言ってみても会える確証はなかった

友は黙したまま草の根に寄り掛かる虫を見つめていた

銀波揺れゆく海の水面は2人の気持ちを照らしていく

月映える海の夜空は強き鼓動に呼応するように輝きを増していくようにみえる

次会う日はいつの日か

そんなことを考え2人は岸辺を後にした


列車が猜疑心と好奇心を両手に抱えた僕を

いとも簡単に運んでいく


何もなかった顔でどこ吹く風

こんなにも自分を連れ去るのがうまい列車なら

この捨てきれない夢やプライドを連れ去ってくれればあの町に身を置いて行けたのにと頼りなく考える

ドアの透明な部分に貼られている広告をじっと見つめる自分はその目の奥で懐かしい記憶を辿っていた

辿れば辿るほどに広告は滲んでいく

喉の奥が急に狭くなる

生まれ育った町が離れて小さくなっていく

昔なんとなく庭に植えたスイカのタネはどこかで咲いているのかなと思ったり

走馬灯のように頭を駆け巡る

他の誰からみてもセンチメンタルになった自分はカバンからポケットティッシュを取り出そうとするとそこには手紙が入っていた

「この手紙を読んでるころ、君は電車で泣いて鼻水垂らしてることだろう」

いつの間に入れたんだろうと思ったが続きを読む

「君はどこにいってもどこへでも行ける、世界を旅して巡り巡って成長してまた会おう

〇〇より」


離れていく街の方向を見つめるのをやめて背中を向けた

そうすると揺れた電車が身体を前によろめかせる

誰かが不器用な力強さでよろめき倒れるくらい僕の背中を押してくれてる気がした

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