8:4日目・半分になったグループ

 伊沢凛子も学校に来なかった。




 学校から集団下校の指示が出た。

 事態が好転しない場合、休校の可能性もあるらしい。


「……おい」


 金堂貴志は住田公治に声をかける。


「金堂か。また何か企んでるのか?」

「は?」


 事件について何か関係があるんじゃないか……そう問い詰めようとした金堂は、先に公治から質問をぶつけられて面食らう。


「つい先日俺に暴力を振るった連中が、次々に身を隠してる。また何かする気なのか?」

「おまっ……! 何言ってんだ!?」


 ざわっ、と教室に動揺が走る。皆、密かに金堂と公治に注目していたのだ。

 想定と正反対の展開に、二の句が継げなくなる金堂。

 胡乱な目を向けた公治は、抜け抜けと言い放つ。

 盗人ぬすっと猛々しいにも程がある所業だが、それを指摘できる者は、今この場にいない。


「お前らは侮辱に名誉棄損、暴行に強盗、器物損壊となんでもありの犯罪者集団だからな。疑われても仕方ないだろ」

「はぁ!? 犯罪者はお前だろうが、この下着ドロが!」


 金堂は公治の胸倉を掴み上げる。


 が、


っ!?」


 金堂の腕はあっという間に捩じ上げられ、あっさりと引き剥がされてしまった。


「驚いたな。数を頼りに人を襲うしか出来ない人間だと思っていたが、一人でも向かってくるとは…… 暴力は良いことじゃないが、少し見直したよ。我を忘れただけじゃなければ、だが」


 公治に片手であしらわれ、よろよろと後ずさる金堂。

 池口や鬼塚と並んで180越え、高身長ボーイズの一角である金堂が、10センチ近くも背の低い公治を前にされている。


 そうだ、このダサ坊、体力はバケモノだった。

 イモの上にゴリラだ。ゴリライモだ。ガリ勉野郎のクセに。


 美花の話じゃ、毎日毎日早朝と寝る前には執拗にトレーニングしていたらしい。庭にはバーベルみたいなダンベルが有り、家を追い出される時にアパートに持ち込めないことを残念がっていたとか……


 サッカー部のエース蓮也、ゾク上がりのバイク乗り龍一、テニス部のキャプテン凛子…… 運動神経や体力に自信がある仲間たちは、今ここにはいない。

 美花と日奈は、隠れるように身を縮こまらせたまま、何か言おうと口を開いては閉じることを繰り返している。


「何度も言うが、俺は下着泥棒なんかしちゃいない…… 疑うのは勝手だが、証拠も無しに決めつけられるのは迷惑だ。それこそ名誉棄損で立派な犯罪だぞ」


 ちょっと前なら、クラス中の生徒が公治の正論など無視して、感情的な罵声を口々に投げつけていただろう。


 だが、今日は誰も何も言わなかった。


 不気味なほど静かになった教室にチャイムが鳴ると、生徒たちは席について教師を待つしかなかった。




 平穏な一日だった。

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