4、
「それで、結局乗れなかったと」
「‥‥‥申し訳ありません」
「ご、ごめんなさい。やっぱり私の二台に」
「遅れるだろ。いいよ。別に」
午前四時半。いつもは車が多く行き交っている国道だが、数台しか車が通らず、通りかかるのは運送のトラックか、工事用車両がほとんどで、その度に轟音を鳴らして、自転車を追い越していく。空には月が浮かび、星も出ているのだが、晴天とは呼べない程に雲が多かった。
真っ暗な中、街灯と自転車の灯りだけで前に進む。時々通りかかるコンビニの灯りはとても明るい。
本来なら自転車は道路の隅の方を走るのが正しいのだが、走る車はほとんどが大型トラック。危険だし、歩行者がほぼいないこともあって、歩道を走る宏太が漕ぐ自転車の後を舞香がついていく。まぁ、既に法律破りのことをしているので、今更だ。
「本当に大丈夫でしょうか?」
自転車に乗れなかったカーヤは結局宏太が運転する自転車の荷台に乗っている。法律上二人乗りは禁止なのだが、駅まで来て、自転車に乗れないのを説明して、自分がいけない事を告げるカーヤの悔しそうな姿を見ていたら、とてもじゃないがそのままお別れとは言えなかった。
「わ、私が乗せていきます!」
そう言った舞香だが、小柄な彼女が標準体型ぐらいあるカーヤと二人乗りをするなんて、現実的じゃない。よって、宏太がカーヤを運ぶことになった。
「ああ、思ったより重くない」
それは率直な感想だった。
「あれだけ食っていて、よく太らないよなお前」
今はほとんど見かけないが、前まではもらった施しを全て平らげていた。
それを見ていたら太っても仕方ないように見えるのだが。
「そうですね。毎日運動はしているのですが、お母様の料理はとても美味しいので、食べ過ぎてしまいますし」
それにあまりにもカーヤが美味しそうに食べるのを見て、柚月の母親が美味しそうなものを見つけてくる度に買ってくるので、多少の運動でリカバリー出来るほどのカロリー摂取量ではないはずだが。
最近のお気に入りはピスタチオだった。
「いや、まぁ、どこに栄養が入っているのはなんとなくわかるのだが」
横乗りで乗っているとはいえ、大きく揺れたり、カーブを曲がったりする時はバランスを保つ為に、宏太の背中に体を預けることになる。その度にまぁ押し付けることになるのだ。
もちろん、カーヤはできるだけ負荷をかけないと思い、精一杯やっているので無意識なのだが。
「うう、やっぱり橘さんスタイル良いよね」
道幅が広がったこともあり、横に並んだ舞香がカーヤの体を見てそう言った。
「ありがとうございます」
カーヤもいずれ柚月に返さないといけない体なので、スタイルが良いと言われるのは素直に嬉しいことだった。
どこか不服そうな顔を浮かべる舞香。
「お前ら、喧嘩始めたら収拾つかなさそうだな」
舞香が孤立している理由を宏太はなんとなく察しているし、カーヤの性格もなんとなくわかっているつもりだ。
「どういう意味ですか?」
「善意で人を傷つけるってことだよ」
「良かれと思って、言った言葉が相手を傷つけるってことですか?」
「まぁ、そんなところだ」
「‥‥‥なるほど!絹延さん」
「ん?」
「スタイル良くてごめんなさい」
「!!!!!」
呆れ返る宏太。
「知らない!」
そう叫んで、追い抜かしていく舞香。
「どうしてでしょうか?まるで怒っているような」
「‥‥‥‥‥」
この件が終わったら、絶対、この二人とは距離を置こうと、そう決意した宏太だった。
この二人の喧嘩に巻き込まれるのだけはごめんだ。
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