才か労か ——二人のお好み焼き職人——

DITinoue(上楽竜文)

第1話 広島焼きちゃう、お好み焼き

 東京の渋谷にあるKILテレビのあるスタジオ。ゴールデンタイムに放送される、有名グルメ番組「ニコモグ食堂!」の収録が二月の寒い日に行われていた。

「三、二、一」

 撮影が開始された。毒舌美食家、稲吉香蓮いなよしかれんはその様子をじっと見守る。

「せーのっ、日本一のーニコモグー食堂!!」

 出演者全員で掛け声を言い、撮影開始。

「はい、というわけで今日も始まりました、ニコモグ食堂。今日のゲストは今週上映される映画、『春風に告げたい恋のこと』の主演の……」

 モデルにいたこともあるほどの美女でお茶目なアナウンサー、早田はやたひなが早口で言う。

 そこから、稲吉が苦手な長い出演者のトークが始まった。


「今日最初のコーナーは『広島と大阪のお好み焼き、ズバリどっちが旨いんや?』です」

 イェーとホテルレストランのような円卓にいる出演者から歓声が上がる。

「この企画は大阪と広島のお好み焼き職人がそれぞれお好み焼きを作り、ズバリどちらのお好み焼きが旨いのか? という長年の疑問を解決させる、というものです。まずは、対決してくださる料理人に登場していただきましょう」

 と、セットの幕をくぐって、ハゲにバンダナを巻いた泥棒髭の男性が出てきた。続いて、黒いツーブロックの髭のないやせ型の男性。


「大阪代表、米田英政よねだひでまささんと広島代表、吉川熱男きっかわあつおさんです! お二人、今日はよろしくお願いします!」


「お願いしまーっす!」

「よろしくお願いします」

 米田と呼ばれたハゲは威勢のいい大きな声、一方、吉川と言うツーブロックは小さく、幼さが残るが自信のある声を出した。

 それにしても。並んでみると、小柄で太った米田と痩せ形で長身の吉川。声も髪型も正反対だ。だが、どちらも目がギラギラと燃えているのが、稲吉には分かった。

 ――これは期待できそう。


「まず、米田さんは『難波の力持ち』の二代目の店主。今四十七歳です。天性の才能で自然体で、誰でも旨いと言えるオーソドックスなお好み焼きを作られています」

 この人の父親は多分、店をとても有名にした米田英秀よねだえいしゅうだったはずだ。一度行ったが、旨すぎて毒舌が出なかったっけ。

「吉川さんは十四年も複数の店舗を回って修行を積み、祭りでの屋台の名手として地元テレビに出演。現在五十歳。型にとらわれないお好み焼きを持ち味にされています」

 十四年。しかも、米田の方が若い。かなりの苦労人なのだろう。

「それでは、ルールを説明します。お二人には四十五分以内で一つのお好み焼きを作っていただきます。順番はくじ引きで決めます。制限時間を過ぎると失格となります。そして、調理中は三つの地元PRをしていただきます。勝敗は出演者のみなさんの審査で決定します。調理時間、見た目、栄養、旨さ、PR、そして採点者が何かグッときたものなどの特別ポイントの合計で勝敗を決定します。それでは、意気込みを聞いてみましょう」

「意気込みですか?」

「おーんそうやなぁ、まぁ」


「「俺の方が旨いお好み焼きを作ってひなちゃんを落とす!」」


 え? ひなちゃんって? 早田アナウンサー? 落とすってことは? 付き合うってこと? でも、早田アナウンサーは絶対ダメでしょ。

「ですね、まぁ。ん? 被った?」

「おぉん? あんたもか! やるか? 俺、女は強いで」

「女やったらわしも強いけぇし! 絶対潰すけぇなっ!」

 敬語だった吉川さんが本気になり出した……。

 チラッと司会の円卓を見ると、早田アナウンサーは何も聞いていないかのように澄ました顔でいる。

「おぉ? これはおもろいことになったんと違うか? お好み焼きと広島焼きどっちが旨いかのついでにどっちがひなちゃんと付き合うとかおもろすぎるやろ!」

 と、無神経な発言をしたのは大阪出身のピン芸人、和田ザムライだった。

「あ? 広島焼きじゃない、お好み焼き! こがいなのじゃけぇ不倫騒動ばっかりあるんじゃ!」

 と、吉川は顔を真っ赤にし、白目をむいて檄を飛ばした。

 あっちの人は広島焼きって言われたらキレるんだよな。


「というか、そもそも広島と大阪はどう違うんですか?」

 そう言ったのは金髪の稲吉が嫌いな部類のアイドルの子、ケイガだ。

「大阪のお好み焼きはキャベツなどを混ぜて肉を付け、焼くのですが、広島焼きは生地を混ぜず、生地で具を挟んで焼くのが大きな違いです」

 と。急に早田アナウンサーが感情がまるで無い早口解説を飛ばした。

「お好み焼きな」

 と、吉川さんはさっきよりも優しく、早田さんに言った。

「あ、申し訳ありません」

「ま、ええよ」

 和田さんの時とはまるで態度が違う。すごいニコニコしてる。


「それでは、先攻後攻を決めるくじを引いてもらいます」

 早田アナウンサーが持ってきたのは割りばし。

「ひなちゃん、俺と付き合わへん? 毎日旨いもん食えんで」

「いや、広島はもみじ饅頭永遠に食べれるでぇ」

「引いてください」

 二人の誘惑を意にも介さず、彼女はビシッという。

「よっしゃぁっ!! 先行や!」

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