第129話 魔物病
ゲートの封鎖騒動から6か月。
あれ以来、政府による異世界調査は順調に進んだ。関東と東海を中心として、すでに1000人近い失踪者を救出している。
調査当初こそ難航したものの、魔物が隔離されたことにより探索範囲は格段に向上。餌を失った鬼たちは、排除するまでもなく死滅していった。
政府の発表によると、魔物の
「小春、食後のコーヒー飲むか?」
「あ、じゃあわたしホットで」
「まだ熱いのを飲むのか。真夏だってのに物好きだな」
「わかってないなぁ。朝は熱いのがいいんですよ」
そんな一方、俺たちは誰ひとり欠けることなく一緒に暮らしていた。畑で作物を育てたり、出来上がった防壁を強化してみたりと、ジエンたちとの交流を含め、平穏ながらも充実した日々が続く。
無職の俺たちはもとより、高校を卒業した明香里たちもニートの仲間入り。彼女らは親元を離れてアパート生活を満喫している。
(いや。べつにニートってわけでもないか)
定職には就いていないけれど、月に一度は異世界に出向き、魔物を狩ることで収入を得ている。まあ半分以上は趣味の領域だが……これだって立派な仕事、むしろ唯一無二の専門職だと自称したいところだ。
リビングでパソコンに食い入る小春。俺はコーヒーを両手に彼女の元へと向かう。
「ねえねえ秋くん。また生存者が見つかったって」
「へぇ。今度は何人戻ってきたんだ?」
「えっと、今回は60人かな。今は関東の駐屯地で保護されてますね」
湯気の立つカップに口を添えつつ、小春がモニターをスクロールする。彼女が見ているのは政府の公式サイトか。画面に目を向けると、異世界関連の情報がズラリと並んでいる。
「っと。新たなゲートは解放――してないみたいだな」
「もう開きそうにないですね。たぶん第3ゲートと同じ仕様かと」
あの封鎖事件以降、政府は21か所の駅に辿り着いた。そのほとんどは無人駅だったが、少なからず生存者の発見に至っている。
当然、鬼のツノを使ってゲートの解放を……そう試みたものの、ツノに反応する車両は1つもなかった。それどころか、以前解放した第3ゲートすら封鎖されたままだ。
俺と江崎も現地に
「やっぱり鬼を殲滅させることが条件か。しかも直接手を下さないとダメっぽい」
「ですね。鬼はほとんど餓死したみたいだし、これ以上ゲートは開かないでしょう」
てなわけで、現状、異世界に行けるルートといえば、関東の第1と東海にある第2ゲートだけ。生存者を見つけた場合、わざわざゲートまで護送する必要があった。
いくら魔物と
『あと何人くらい生き延びているのか』
『今後ゲートは開かないままなのか』
政府はもちろんのこと、世間の関心はこの2つに集まっている。
「まあ、開かないならそれでいいさ。そんなことより気になるのは……」
小春の背後からマウスに手を伸ばし、お目当ての情報を探す。画面を下にスクロールしていくと――。
「うわっ。またちょっと増えてますね」
「たったの2か月でこれだからな。俺たちも他人事じゃ済まなそうだ」
表示したのは『魔物病』についての項目だ。画面には現在の発症者数と主な症状が
極度の
「でも秋くん。わたしたちは大丈夫じゃない? 毎日肉を食べてるもん」
「まあそうなんだけどな」
ちなみにこの病気には治療法、というか対処策がある。魔物の肉を摂取すれば症状は解消するし、定期的に食べれば病気を発症することもない。それこそ一口でも食べれば劇的に回復するレベルだ。
俺たちは大量の在庫があるから問題ない。他のやつらにしても、発症者には政府が肉を支給している。摂取すべき量や頻度が変わらない限り、そこまで恐れることはないのだろうけど――。
「なんですか。なにか気になることでも?」
「いや、病気自体は問題ないよ。少なくとも、俺らとジエンたちは大丈夫だ」
「ですよね。肉ならいくらでもありますし」
「ああ、問題はそれだよ」
俺が気にしているのは、ゲート封鎖との因果関係だ。
現状2つのゲートが開いているけども、本来、異世界へは二度と行けなかったはず。魔物肉は入手不可能となり、帰還者は重症化……最悪の場合は死に至ったかもしれない。
『ゲートを封鎖したのは、帰還者を排除するためだった』
半年前の騒動でも頭をよぎったことだが……。最初の発症者が出て以降、その考えが日に日に増している。
「なるほど。そういうことですか」
「もしかすると、ニホ族すら排除対象なのかもな」
「それって、彼らがモドキ肉を食べたからですか?」
「ああ。こじ付けかもしれんけど、縄文時代のミッションも怪しく思えてきたよ」
まずは『大猿を倒せ』と『森の主を倒せ』の2つ。どちらも強敵だったし、モドキ能力で強化しなければ倒せなかった。肉を食うことは必須条件、結果的に数々のモドキを摂取している。
(まあ最初の世界でも食ってるけど……。それすら仕組まれていた可能性もあるか)
さらには『ツノ族を撃退せよ』っていう帰還条件。
あの当時はニホ族を守るためだと思い込んでいたが……。『保護しろ』だなんて項目はどこにもなかった。かなり強引な解釈だけれど、ニホ族と交流を深め、彼らにモドキ肉を食わせるためだったのかもしれない。
「それは少々飛躍し過ぎな気も……」
「まあアレだ。気になるってだけで、さほど心配はしてないよ。食っちまったもんは仕方ないし、定期的に食べてれば平気だろ」
魔物病のことはともかく、ミッションについては全て妄想に過ぎない。なまじ平和なだけに、ついついそんなことを考えてしまうのだろう。
「変なフラグを立てるな」とツッコミを受けつつ、そのあとも2人で雑談を続けた。
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