第24話 装備完了!

次にヒヨリの安全装備も必要だとミルが言う。


 ロバートさんにヒヨリは非戦闘員だと説明すると、身を守る結界魔道具を奥から持って来た。


「これはブレス型でコンパクトですが、性能は高い自信作です、結界魔術が使えない方でも魔力さえあれば、全魔法、全状態異常から身を守り、さらにオプションとして夜間宿泊時用に、簡易キャンプセット装備も可能です。戦闘中は言うに及ばず野営時も安全に過ごせます」


 ヒヨリは性能よりもブレスのデザインが気に入ったみたいで、腕にはめて「いいですねぇ、これ」と嬉しそうに眺めている。


 ただし、勿論ロバート作成ポンコツ武具だ、当然問題点があるはず。


「ロバートさん、それだけじゃないですよね?」


「ふふ、流石はトウノさん、鋭いですね。何を隠そうこの結界魔道具、一度作動させるとその後二十時間は魔力消費なしで、自由にいつでも出し入れが出来る小魔力エコ機能付きです」


「それは凄いですが、でもそれだけでもないですよね?」


 疑いの眼差しで、しかし確信を持って俺がさらに詰め寄ると、ロバートさんは目を泳がせた。


「……、あの、言わないと駄目ですか?」


「当然です。属性反転者のヒヨリが装備出来ている段階で訳ありに決まってますよね!」


「まぁ隠す程の事もないんですが、この結界魔道具、初期起動時に莫大な魔力が必要でして、MP換算で丁度300消費しないと動かないんですよ、ははは」


 すると魔法にうるさいミルが叫んだ。


「300だと! 上級どころか、神聖級魔法と同レベルの消費量ではないか! そんな物、誰が使うんだ!」


 当惑するミルのツッコミに、ロバートさんはわざとらしく困った顔をしつつ、何故か嬉しそうだ。


ねぇ、もしかして「ボケが受けた!」とか思ってない?


「僕も色々調整してみてやっとここまで抑えたんですよ。普通の結界魔法なら、消費魔力は十くらいですが、これはそれを遥かに上回るハイスペック結界です。だから当然の対価はかかります。結局、使える人はほとんどいなくて実用性はないんですけどね、でも凄いでしょ!」


 そこでヒヨリがブレスをじっと見つめて、「えい」と声を出した。


 すると神々しい光が溢れ出し、巨大な魔法陣が一気に展開すると、一瞬でヒヨリを中心に俺達まで包んで、周囲五メートル程に渡る眩い結界が生まれた。


「ええっ!」


 ロバートさんが目を見開いて、結界とヒヨリを交互に凝視する。


「だ、大丈夫ですか、ヒヨリさん! 消費魔力が激しすぎて、急性魔力欠乏症になっていませんか!」


「ええ、大丈夫みたいです。もう回復しました」


「回復? もう? はあ? どういう事ですか? 高位魔術師でさえその魔力の全てを一瞬で失い急性魔力枯渇により昏倒、又は最悪即死する、これはそんな激ヤバ極悪魔道具なんですよ!」


 おい、そんな危ないものだったのか!


昏倒か即死って、どこを目指して使用者は結界張るんだよ、静かに死んじゃうだろ!


 さらに驚愕するロバートさんを無視して、青い顔でミルが憑りつかれた様にブツブツ言い始めた。


「ば、馬鹿な、なんで300もの魔力が一瞬で回復するのだ、おかしいだろ……、私の半分近い魔力量だぞ、いくらヒヨリが魔力量2万を誇るとは言え早すぎる、絶対嘘だ……、嘘と言ってくれ……、ずるいぞ……」


 あっ、これヤバイ奴だ。


ミルが再び壊れそうなので、俺は慌てて大声で話題を逸らした。


「あっそうだ、ロバートさんオプションって言ってましたけど、キャンプセットってどんな内容なんですか?」


 俺の声に唖然としていたロバートさんが、ハッとして我に返った。


「あっ、そ、そうですね、キャンプセットは、大型テントを含む僕が厳選した必需品三十六アイテムが揃っています。決して不便は感じないはずです」


ロバートさんチョイスって段階で、不安がマシマシなんですけど!


「ただしですね、オプションを付けた場合、魔力消費も跳ね上がり、さらに魔力消費が200加算され、合計500の魔力が必要になります。これは国家レベルのS級魔導師でも、軽々と瞬殺出来るレベルですよ、ふふふ」


 いや、だからそう言う言い方はよせ。


この人、なんで使用者を殺す方向で作ってんだよぉ!


 するとヒヨリが力強く言った。


「ベッドを付けて下さい」


「へ?」


「ロバートさん、そのオプションにプラスして、ふかふかのダブルベッドも出せる様にして下さい」


「い、いや、ベッドってしかも何故ダブル? あ、あの魔力消費量のコントロールが、オプション単体に絞るという指定調整が出来ないんです。つまり初動で、結界分、キャンプセット分、ダブルベッド分、の全てが加算され、魔道具ブレスを動かすのに必要な魔力量が一気に700くらいにまで跳ね上がります。これは魔力が豊富なエルフ族でも黙って即死レベルです。絶対に面白、いや危険です!」


 今、面白って言ったよね、あんた真面目な顔で性格怖いわ。


「ぜひ付けて下さい。そうすればトウノさん達が討伐中でも、私はゴロゴロ出来るんですから」


 おい、お前が馬鹿だとは知っていたけど、何を言ってんだ。


 ダンジョンの中で俺やミルが命を賭け戦っている最中に、後方で結界を張ってベッドでくつろぎたいのか?


 どんなプレイなんだよ、他の冒険者さんが見たらドン引きするだろ!


 とは言え、ヒヨリのおかしな注文に対し、ロバートさんは「本当に大丈夫ですか? 危険ですよ!」と何度も聞き返しつつ、何故か瞬時に手際よく笑顔でオプション二つを付けてしまった。


どこに置いてたんだよ、ダブルベッド!


「えい」


 再びヒヨリがオプション変更で一旦リセットされた結界を張る。


確実に700というとんでもない量の魔力を消費しているのだが、見事に結界は張られ本当にダブルベッドまで普通に出て来た。


おかしいだろ、これ。


しかもそこで普通にくつろぐヒヨリの姿を見て、ロバートさんは「オチがない!」と違う方向で驚愕していた。あんた、本当は馬鹿だろ。


 俺はこいつらのボケを拾いきれない気分だが、一応ベッドでくつろぐヒヨリに声をかけた。


「おい、ヒヨリ魔力は大丈夫か? 頭痛くないか?」


「はい、流石にコンマ五秒くらいは時間がかかりましたが、無事回復出来ましたよ。これで私のダンジョンライフも充実ですね」


 ニコッと笑うその姿と対照的に、知らない間にミルが膝を抱えて座り、鬱々と落ち込んでいた。


あっ、壊れちゃった……。




 その後、全力で俺とヒヨリはミルを懸命に励まし復活(一応)させ、ついでロバートさんのお勧めで補助装備であるポージョンと、それを携帯するポージョンホルダー、さらに薬草用の小型ポシェットなどを準備してもらった。


「あの、変なエンチャントはかけてないですよね?」


 俺はいぶかしげな顔で不審感を露に直球で聞く。


もう、陽キャであり、そして初対面の人でもある遠慮は消え失せた。


ありがとう、あなたは俺が普通に話せる(ツッコめる)残念な陽キャ第一号です。


するとロバートさんは神妙な顔つきで、非常に残念そうに答えた。


「はい、組織の薬師からも『余計な事をしたら殺すからな、いいなすんなよ、ボケっ!』ときつく言われているので、ポージョン類や薬草はノーマルです。でも面白くないですよね。あの、もしよろしければ、一か月は不眠不休かつ食事も不要で、精神が削れるだけで元気に動ける様に魔改造しましょうか?」


「絶対にしないで下さい!」


もう言葉をオブラートに包まず、魔改造とか普通に言い出した。


ホント、この人の能力は高いんだが、創作意欲のベクトルが何処に着地したいのか見えないんですけど。


「でもトウノさん、ご安心下さい。僕はあなたの期待に応えます。このホルダーとポシェットは楽しいですよ」


「期待なんかしてません、またなんかやらかしてるんですか!」


「やらかしてなんかないですよ。僕を誰だと思っているんですか」


「危ない人です!」 


 ロバートさんは俺の罵倒に喜び、得意げに告げた。もうツッコミがご褒美になってる。


「いいですか、ホルダーとポシェットには所有者が大怪我をして意識を失い危険な場合、自動で適切な種類のポージョンや薬草を使用するオート回復機能を施しています」


「おおっ、すごく真っ当と言うか、むしろ凄い機能じゃないですか、見直しましたよ、ロバートさん! なんだ、やれば出来るんですね」


「ふふん、当り前です。―――ただし、ただしですが、普通に使う場合はホルダーやポシェットに『使いますね』ってひと声かけないと、オート回復機能の影響で取り外しが出来ないんです」


「却って使いにくいわ!」


 もう、この人何がしたいんだよぉ。


 そんなこんなで装備を整え終わり(?)、俺達は地下組織クロムウェルの支部であるペットショップを後にした。

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