シンのギター8

翌朝シンは買ったばかりのギターの弦を緩めてサドルを取り外した。


「シン早速やな」


「そうやな。店員さん結構大変って言ってたけどそうでもないような気がする」


「シン、私見ててもええかな」


「うん、ええで」


「ありがとう」


「元々のこのサドルはプラスチックやな」


「そうなんや。ええ値段するのにな」


それからシンは細長い新しいサドルにギターから取り外したサドルを合わせて

鉛筆で線を描いた。


ちなみに新しいサドルは牛の骨だ。


「この線に合わせてやすりで削っていくねん。弦の高さも大体2mmくらいになる予定や。まずはバイスに挟んで固定してそれから削ります」


「シン、その固定する道具がバイスって言うの?」


「そうや。別名万力や。強い力で材料を固定するねん。締め過ぎたら材料が割れるから加減せなあかんのやで」


「シン、その紙は何ではさむの?」


「これはこのサドルにバイスの口金の傷が入らんようにするためや」


「そうなんや。色んな技があるんやな」


シンは割と短時間で大方を削り終えた。


「なんやろう、この匂いは? 骨の匂いか? 結構鼻につくな」


「私も初めて嗅いだわ。でもシン、なんかむちゃくちゃ削るの早いな」


「いつも鉄を削ってるんやからこんな軟らかい材料削るのあっという間やで」


「そうなんや、軟らかいんや」


それからシンは精密やすりを使って細かいところの形を整えて

最後に目の細かいサンドペーパーで仕上げた。


「早っ。職人さんに頼んだら一週間くらいはかかるのに」


「ようわからんけどそんな注文がたくさんあったら時間がかかるやろ。

俺はこの一本だけやからな」


「そうなんかな。でも早いわ。付けるん楽しみやな」


「そうやな。ナットも高さ低くしたろ。どんな感じになるんやろうな」


シンは組立始めた。


弦を張りチューニングする。


「弦の高さは狙い通りや。結構適当に線引いたけどぴったりでよかったわ」


「適当な割には弦の高さはいい感じやん」


「そうやろ。これはな野生の勘やな」


「シン、それは野生の勘や無くて職人の勘と違うやろか」


「ああ、そうやな。野生や無くて職人やな」笑


「シン、私が音を確かめるわ」


「うん」


6弦から弾いていくと1弦が妙に響きすぎる。


「シン、一弦がちょっとおかしいみたいや」


「そうやな。これは多分サドルが少し動いてるんかもしれんな」


「どういうこと?」


「目ではわからん隙間があってそれも震えてるということや」


「そうなんや」


シンはまた弦を緩めてサドルを取り外し付けたり外したりを繰り返した。


そして一弦側のサドルの溝に小さく切った紙を挟み込んだ。


「多分これでええと思う」


シンが組み立てた後、弾いてみた。


ジャジャンジャンジャン。ポン、ポロロロン。ポロン。


ピーン。ピーン。


「シン。すごいな。きれいに減衰してるわ」


「まあ機械の調整みたいなもんかな。耳の聞こえは悪いけど違和感があったらわかるからな」


「シンすごーい。シン、本当にすごいな。何でも作れそうやな」


「そうやな。コハルと家庭を作ってうまい事、かわいい子供も作ったしな」


「シン、それやない。物やモノ」


「そうか。笑 でも曲を作るよりもこっちの方が合ってるような気がするなぁ」


「いやいやシン。曲もサドルも子作りもイケてるで!」


「そうかぁ。そない言うてくれたらうれしいけど」


「また色んなもの作って行ったらええねん」


「そうやな。でも子供は今から出来たら大変やろうけど出来たら出来たで頑張ろうや。それに曲のアイデアも色々たまって来てるしな」


「うん。目指せ山下達郎、竹内まりやや!」


「コハルなんやそれ」


「やばっ。つい言うてしもうた」


「俺が山下達郎でコハルが竹内まりやか。ええかもしれんな」


「そうやろうそうやろう。いつか二人でヒット曲作れたらええね」


「そうやな。でもコハル、一人で調子に乗ったらあかん。二人同時に調子に乗らんとあかんのや」


「うん」


「でもまた曲を作りたいな。ある程度たまったらアルバムにしてyoutubeにでも出し

てみるか」


「ええな。そうしよう」


「じゃあコハルも何曲かつくらなあかんで」


「シン。私にはその辺りのセンスがないような気がするねん」


「大丈夫や。俺が竹内まりやに育てたるわ」


「ほんまに!?」


「ほんまや。ちゃんと付いて来なあかんで」


「あいよお前さん!」


「おうっ!粋だねコハルちゃんよぉ! そういえばコハル、そこのクローゼットにこないだ俺のジャージ放り込んでたけど出してくれへん」


「何するの? もう着いひんって言ってなかった」


「まあそうやねんけどちょっと出してほしいねん」


「うん」


ガラッ。


「ジャージはどこやったかな? んっ。あれっ? なんやこれ」


コハルは手に取って眺めている。


「シン。これ知ってる?」


「気が付いたか我妻よ」


「嘘っ。いつの間に」


「ないしょや。まあ開けてみたら」笑


「うん」


コハルはゆっくりとラッピングをほどいて行った。


「うわぁ。シン。これこれ。パッと目に入った時に小さな白い蝶々がトップにあってな、一瞬シンの作った白い蝶が思い浮かんでん」


「そうやったんか」


「うん。このネックレス付けてシンとステージに立って白い蝶を二人で歌ってるシーンが思い浮かんでん」


コハルが抱き付いてきた。


「シン、ありがとう。私、なにも言ってないのに」


チュッ。


「お前の事はだいたいわかるよ」


「だいたいなんや」笑


「だいたいやな」笑


「シン、ありがとう。大切にします」


「うん。俺もお前を大切にしてるよ」


「うん。ありがとう」


チュッ。


「さあジャージや」笑


「ジャージはもうええねん」笑



よほど気に入ったのかシンは毎日ギターを触るようになった。


私もシンにもらったペンダントをいつも身に着けるようになった。


 蝶々本体がプラチナで作られて羽の縁にゴールドがあしらわれている。


パッと見は白い蝶に見える。


「シン、私を触るよりもギターを触る方が多いのと違うやろか?」


「そんなことあらしまへんで。コハルの事もちゃんとかわいがっているよ。

ギターは俺のこと好きかどうかわからんし一方通行やけどコハルからは

愛情もらっているからな」


「そんな風に見てるんや。ふーん」


「なんやふーんって?」


「私がシンに愛情見せなくなったらどうなるんやろか」


「多分俺は干からびていくんと違うやろか」


「干からびるの?」


「そうや。コハルからの愛情が途切れていることに気が付かんと

コハルのこと愛し続けてそして干からびていくんや」


「それでどうなるの」


「死んじゃうねん。コハルを信じたまま死んじゃうねん。愛されていないことに気が付かんと死んで行くのだろうなぁ」


「シン、それは絶対にないけれど切ない話やな」


「そうやな、俺が元気なのはコハルが愛情を注いでくれるからなんやで」


「そうやでシン。わかってるやん」


「よぉーくわかっております。でも俺の愛情を感じてくれてるんやろか?この女性は」


「そうやねぇ。うっすらと感じているのかもしれんなぁ」


「なんやうっすらとって。何や足りへんのかいな」


「うん。もうちょっと激しくてもええの違うやろか」


「コハル、そっちか。そっちはその時に言ってもらわんと。もっともっとって」


「シン恥ずかしいわ」


「そうか」


その晩。


「コハル愛してるよ」


「シン、気持ちいいよ。もっとして」


「ああ、うん」


「シン、もっともっと」


「うん」


「もっとやで」


「うんってもうこれ以上は無理や」


「そない思った」笑


「そうか、許してくれるか」


「シン。許すも許さんもないよ」


「そうか」


「シンが居ったらそれでええねんから」


「そうか。うれしいやん。でもとりあえず最後まで行かなあかん」


「そうやで。だからがんばって」


「うん」


それから二人で天国に行って帰って来た。


「コハル寝よか」


「うん。寝よか」


「寝よう。おやすみ」


「お休み。シン、ギューってして」


「うん」


「コハル、大好きやで」


「私も」

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