詩の気持ち
詩は幼稚園、小学校とたくさんのお友達が出来て
楽しい日々を過ごしていた。
結構おちゃらけキャラだが、真面目で考え方が固い事もある。
そんな詩がある日バレンタインデーのチョコレートをもらって帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり。どっか遊びに行くの? あれっ! 詩、それってもしかしてバレンタインデーのチョコレートなん」
「うん」「誰がくれたの?」「優」 「川村さん家の優ちゃんやね」「うん」
「かわいい女の子やん」 「うん」「詩、なんか反応が薄いな」「うん」
「もしかして恥ずかしいの?」「うん」
「そうかごめんね。もうやめとくわね」「うん」
詩がその子の事を好きなのかは知らない。まあ自分で考えるやろ。
そうこうしているうちにホワイトデーがやってくる。
「詩、ホワイトデーが近くなってきたから、お返しを考えんとあかんやん」
「うん」
「考えてるの?」
「うん、ママ、ちなみにやけど何を上げたらいいと思う?」
「そうかそうか、詩も悩んでるねんな。ママも一緒に考えようか」
「うん、お願い」
最終的にハンカチとビスケットになった。
学校から帰ってきた詩はうれしそうに喜んでくれたよと報告してくれた。
よかったな詩。 もしかして恋しているのかもしれんな。
そんなある日の朝、詩が学校に行きたくないと言い出した。
「詩、どないしたん?」「ちょっと嫌なことがあって行きたくないねん」
「今日だけか? それともずっと行きたくない感じか?」「わからん」
「お兄ちゃん今日休むの?」
「ちょっと調子悪いみたいやね」
「ふーん」
「さあ花は行ってらっしゃい」「はーい、行ってきまーす」
「詩、何があったのか話しできるんかな? 理由があるのやったらママに教えてほしいねん。じっとしとく事でもとに戻れることもあるしそうでないこともある。それは誰かの助けが必要なのかそうでないのかをママは知りたいねん」
「・・・」 「詩、お前はまだ子供や。だから自分で解決できないことってたくさんある。お前が心も体もちゃんと大きくなれるように父さんもママも居てるんやで。だからなんでも話してほしい。と、思ってるよ。詩、話せそうならいつでもいいから教えてな」
「うん、ママありがとう」「どういたしまして」
「じゃあ今日は休みやね」「うん」「理由はおならが止まらんにしとこうか」
「ママ、ママがおならしたの父さんに言ってもいい?」
「詩! お前はなんて子だよ! ママの弱みに付け込んで脅すやなんて」笑
「だからな、おならが止まらんからって理由はアカンと思うよ」
「詩、冗談やん。わかってほしいなぁ、この母心を」
「わからん、そんなん絶対にわからんわ」笑
「じゃあお腹が痛いにしとくわ」「うん」
おじいちゃんは今年退職して何をしようか考え中らしい。
リビングで何かの本を読んでたりふらりと出かけたり、割と気ままに過ごしている。
今日お昼ご飯の時に詩がいるのを見て、「あれっ。詩、学校はどないしたんや?」
「うん、今日はちょっと行きたくなかってん。だからお腹が痛いということにしてもらってん」
「そうなんや。なんかあったのか? 大丈夫か?」
「うん」
「そうか。でも男はお腹が弱いのが多いからな。詩のとうさんもそうやし、わしもそうや」
「詩のとうさんはミカンがアカンのやからな。和歌山の出身やのにな」笑
「わしも若い頃はたまにもらしとったわ」
「おじいちゃんほんまなん」
「そうや。一回は散歩中にもようしてな、ちょうど土手の上やったから河原に降りて事なきを得た」
「おじいちゃん、それは事なきを得たことになるの」
「そうや、パンツの中が物で一杯になったらあかんのや」
「もうおじいちゃんやめて。今お昼ご飯やねんからな」
「ああーごめん。ついつい話してしもうたわ、ごめん」
「おじいちゃんもごはんにする?」
「おお、そうするわ。すまんな」
「リクエストは何かある?」
「ない」
「じゃあ詩と同じのうどんでええね」
「うん。ありがとう」
「なあなあ、おじいちゃん。退職してからそんなに日が経ってないけど
なんかやりたいことできたん?」
「そうやな。やめる前はあれしてこれしてって色々考えてたけどいざ毎日が休みになってしまうともうめんどくさいから明日でもええかってなってしまうねん」
「会社の方はもう行かんでもええの?」
「うん、えらいさんになる話もあったけど今まで一生懸命働いてきたし、もうええかなと思って」
「うん」 「また体動かしたくなったらアルバイトでもしようかなと思うねん」
「うん」 「おじいちゃん旅行好きやったやんな」
「そうやな、でもまだお母さんが働いてるからな。一人で行ってもおもろないしな」
「おじいちゃん、今度僕をどこかに連れて行ってくれたらええねん」
「えっ、詩をか?」 「そうやで」「そうか、詩はわしと旅行に行ってくれるんか」
「うん」「一回くらいは行ってもええんと違うやろか、ママはどない思う?」
「ママは賛成するよ、誰と行くかで同じところに行っても印象が変わるからな」
「ええ経験になるんとちがうやろか」「コハルの許可が出たら九分九厘は大丈夫やな」
「じゃあ詩、どこか行きたいところがあったら言ってくれや。」「うん、考えるわ」
「よし、約束やで」「うん、約束した」
次の日も詩は学校に行きたくないと言った。
シンには夜に報告したけれど
「まあ様子見でもええんとちがうか。詩は割と意見ははっきり言う方やからその意見が通らんかった可能性があるな」
「シンどういうことやろか?」
「詩に話を聞いてないからあれやけどな。話が通じへん人がいてるわけや。
以前コハルが話してた小学生の頃に筆記用具を隠された話があったやん。
やめろと言ってもやめてくれへんというそういうことやな。
コハルみたいにはっきりとケツを蹴るとかしてやればええけどな。
例えば俺の時にもあったけどたちが悪いのが相手が女の子の場合やねん。
殴るわけにもいかんし口で勝たれへんしどうしようもなくなることがある」
「ああ、そうか」「コハルこれは可能性の話やからな。話を聞かんとわからへん」
「うん。先生に聞いてみてもええのやろか」 「そらかまへん。聞いてみてもええと思う」
「時間だけが過ぎてにっちもさっちもいかんようになるよりは動く方がええと思う」
「そうやな。シン、今週いっぱい様子見て詩が話してくれたらええし、そうじゃなかったら先生に聞いてみるわ」
「うん、頼むわ。俺もちらっと聞いてみるから」
「うん、お願い」
その日の夕食の後。
「詩。ちょっとええかな?」
「うん」
「何かわかると思うけど」
「うん」
「なんかあったんか?」
「・・・」
「詩、言いづらかったら手紙でもええ。父さんや、ママは少しだけ気にしてる体(てい)ですごく気になってる。笑 詩は大丈夫やと思っているけど、大丈夫やなかったら教えてほしいと思ってる」
「うん」
「こういうのはな小さいうちに潰すことや。父さんは体が小さかったから、こんなことは言いたくないけれど舐められたり、からかわれたりというのがよくあった。性格がおとなしいと言うのもある。今父さんがすごく優しいのは辛い思いをいっぱいしてきたからや。もちろん楽しいこともいっぱいあったで。
どれくらいなのかは比べられへんけど、少しでも詩の力にはなれると思う。
自分の力で何とか出来へんかったら遠慮なく頼るがよい。ぬはははははは」
「父さん・・・」
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
リビングに戻るとお父さん、お母さん、コハルが話をしていた。
「シン、詩どんな感じやった?」
「うん、まだ話は出来そうにないみたいや。でも手紙でもええでと言っといた」
「そうか。心配は心配やけど今のところはどうしようもないな」「そうやな」
「詩は大丈夫なんかね、今の子供は難しいみたいやから」
「なんともいわれへんねん、何があったのかわからんから。でも来週も学校に行きたくないと言われたら先生に聞いてみることにする。
そもそも先生から何も言ってこないのが不思議で仕方がないねん」
「そうやな。俺らの子供の時も教師の事なかれ主義というのが言われてたけどそれは今の時代でも同じなんやろか」
「先生によると思うけどな。学級崩壊もあるし先生が舐められるようになってしまってるからな」
「子供も怖い先生の時にはおとなしいのに、怖くない先生の時には騒いだりしてる。子供が先生を見分けてると言うか区別してるねんな」
「子供が先生を差別してるねん」
「なんでやろな。先生ってそんな舐められるような存在やなかったのにな。でもお父さん、僕が一つ思うのは本気で怒ることが無くなったんと違うかなと。怒るんやなくて叱るんやけど、本気で叱ってないからあかんのとちがうのかなと。 生徒がビビるくらいの本気さで怒るなり叱ったら生徒も舐めたりしないと思うんです」
「確かにシンさんの言う通りかもしれんね。今の先生はどちらかというとお友達感覚やからね。叱るというのは叱る側も叱られる側もいい気持ではないからね。そこを分かってあえて叱ってくれるのとそうでないのとは雲泥の差があるやろうな」
「先生の性格にもよるでしょうしね。研修で怒ったり叱ったりする練習をした方が良いと思います」
「怒ったり叱ったりするにもある程度の慣れが必要で、それが出来へん人が手を上げたりしてしまうのと違うのかなと思ったりもしますね」
「ああ、なるほど」「先生は人を育てるという役目があるのに叱ることから目を背けてるのかもしれないね」
「シンもおじいちゃんも何やら難しい話をするねんな」
「コハルなんでこんな話してるか分かるか」
「事なかれ主義に関係してる? もしかして」
「その通りや。生徒同士がもめてても見て見ぬふりをする教師がおるんや。生徒も成長出来へんし同じトラブルの繰り返しや。いじめとかを見て見ぬ振りされるとたとえ誰かが死んだとしても知らぬふりをする。結局生活のため、職業としての教師やから問題解決能力なんかそもそもない人間もいる。最近あったわな。
いじめられた生徒が自殺してしまって担任も知らなかったと言っていたのにほんまは見て見ぬふりをしていたって。 おまけにそのいじめに加担していたっていう話もあるやん。
さらにひどいのはその上の教頭なり校長が責任は私らにはありませんと言い切っているところがもう何とも病んでるなという風に思えてしまう。
実際にそんなのが教師になってえらくなってしまうのが摩訶不思議な所や。多分上の人間にはゴマすりしてるんやろな。生徒をほったらかしにしてな」
「詩の担任が何を考えてるのかわからんけど少なくとも詩が学校に来ていないということはわかっているはずや。明日くらいに担任から電話なかったら外れの先生やと思う」
翌朝詩は、学校に行ってみると起きてきた。
「詩、大丈夫なん?」「うん、とりあえず行ってみて様子見る。でも今ちょっとお腹は痛いねん」
「そうなんや。でも無理したらあかんよ、授業の途中でもええから、しんどかったら帰っておいで」「うん。ママありがとう」「うん」
詩はご飯を食べると集団登校の列に加わり学校へと向かった。
お昼前に学校から電話があり「詩君、ちょっと体調が悪いみたいなので帰らせますね」担任の先生からだった。
まさかこの先生、単なる体調不良としか思ってないのか?
「先生、詩は本当に体調不良だけやと思ってますか?」
「はい? なにかありますか」
「何かありますかやないですよ。詩は学校で嫌なことがあって体調不良になってるみたいなんですが」
「そのようなお話は聞いておりませんが」
「そうですか、わかりました。よろしくお願いします」
先生が把握できてない。そんなことがあるのか。誰かが先生にこんなことあったよとか、親に言っているのではないのか。
わからない。「ただいまー」詩が帰って来た。
「詩おかえり。しんどい?」
「そうでもない」
「学校はどんな感じなん?」
「うん、まあまあ」
「そうか。詩、後でママとギターの練習しようや」
「うん」
「詩、おかえり」
おじいちゃんがリビングにやってきた。
「ただいま」
「詩調子悪いのか?」
「うん、ちょっとね」
「そうか。あんまり無理するなよ」
「おじいちゃんありがとう」
その日の夕方詩の友達がやってきた。
「おばちゃん、詩どんな感じ?」
「大吉君気にかけてくれてありがとう」
「学校で何かあったんかな?」
「いやがらせやねん」
「いやがらせ?」
「うん、空美っていう女子がな、詩にしつこうにいやがらせするねん」
「どんな嫌がらせをするの」
「詩って割ときれい好きやし整理整頓する方やから、ごみが落ちてたり掃除道具を片付けてなかったりするとすぐに片付けるねん」
「空美がなわざと詩の近くにごみを落としたり掃除が終わって片付けた掃除道具をまた引っ張り出してきて詩の机の近くに置いたりするねん」
「俺も何回かしょうもないことするなって言ったんやけどなかなかやめよらへんねん、詩も切れたんやけどやめよらへんねん」
「そんなことがあるんや。先生は知らんの?」
「先生知ってるよ」
「詩も何回目かの後にこんなことがあったって先生に言いに行ったから」
「先生知ってるのに何も言わへんの」
「言うねんけどやさしいねん、ほんですぐにどこか行くから、居らんようになったらまたやりよるねん。それにコバンザメのウニとかメイも一緒になってやりよるからどうしようもない」
「大吉君教えてくれてありがとう。詩呼ぶからちょっと声掛けたげてくれる?」
「うんええよ」「ありがとう。詩ぁー、大吉君来てるよー」「はーい」
詩と大吉君は何やら話をしその後、詩がリビングに帰って来た。
「ママ、大吉から聞いたん?」
「うん聞いた」
「しょうもない話やろ」
「詩、これは全然しょうもない話と違う、詩が学校に行かれへんのやから」
「うん」
「ママ学校に行ってもええか?」
「うん」
「多分そのほうが早く解決すると思うよ」
「うん」
「詩、これは嫌がらせする本人が事の重大さを分かってないねん。ちなみにこれもいじめや。しょうもない事でもな、繰り返し繰り返しされることで心にダメージを受けてしまうねん」
「・・・」
「詩、その子の事考えるとすごく嫌な気持ちになるやろ。会いたくないって思うやろ。それってもう危険やねん」
「そうなんや」
「ママの前ではいつもの詩やけど、その子が近くにいるとものすごく嫌やと思うねん」
「だから体がな、お腹が痛いとかそういう形で反応してるねん」
「そうなんや」
「詩、大人の世界にもこんなことはある。どうやって解決するのかと言えばまず相談や。詩がものすごく気が強くて乱暴な子供やったら相手の事考えずにしばいてるかもしれへん。でも詩はそんな事出来へんねん。
優しくて思いやりがあるからや。相手の子はそこに付け込んでる。ママはな、そんな事して喜んでるような子供ははっきり言って頭がおかしいと思うからな」
「・・・」
「人に嫌な思いさせて喜んでるって異常やと思う。詩も知ってると思うけどおばあちゃんの妹がそうや。あの人はお姉ちゃんであるおばあちゃんに小さな頃から嫌がらせばっかりしてたんやで。今も変わってない。だからな、自分の息子夫婦に絶縁されてるねん。息子の嫁に嫌がらせするからや。それでもわかってないねん。優子おばさん知ってるやろ」
「うん」
「詩にお年玉くれるやん」
「うん」
「それがもう大変やったんやから。それが今絶縁というか会わなくなったことでものすごく表情も優しくなったし気分的に楽になったって言ってるからな。その時まず相談したのが旦那さんや。いろいろと考えてくれたらしい。だから詩も相談するねん。困ってることがあったら相談するねん。それでどうやって解決するのかを考えるねん。それも勉強やで。だから父さんが帰って来たら話しよう」
「うん」
「言いにくいかもしれんけどもしあれやったら言いたいことを紙に書いといたら良いかもしれん。そのほうがな、頭も整理しやすくなるから」
「うん」
夕方お父さんが帰ってくる前に詩がリビングに降りてきた。
「詩、父さん帰ってきたか?」「うん」
「ご飯食べた後に話しようか」「うん」
シンが帰ってきた。 「ただいまー」「おかえりー、シンお疲れ様」
「うん、ただいま」チュッ。
手を洗った後リビングに入ってきたシンは、「おお詩。ご飯が出来る前に居てるのは珍しいな」笑
「そんなことないよ」「そうか、どうや調子は?」「まあまあやで」
「そうか、今日はな父さん展示会やったんや。京都の販売店さんの小さな展示会や。お客さんまあまあ来てたけどウチの商品はほんまに売れへんねん。笑 未だかつて展示会で売れたことが無い」
「そうなんや」「うん。だから来年からはもう出さんでもええかなと思ってる」
「ふーん」 「さあぼちぼちご飯やな」「シンさんおかえり」
「お父さん、お母さんただいま」
「シンさん今日はちょっと早いな」「はい、京都で展示会でしてん」
「そうなんや。売れた?」「全然ですわ」
「しかしシンさんの会社の話を時々聞くけど、よくやっていけるもんなんやなと思うな」
「お父さん僕も正直そない思います。売り上げも公表してない代わりに赤字や赤字や言いながら社長は億の家買ってるし訳が分かりません」
「営業としてのシンさんからするとどれくらいの売り上げやと思う?」
「そうですね、機械の売り上げと消耗品の売り上げを足すと合計でも一億ちょい位かなと思います」
「うん。その売り上げで家を買い工場を建ててとなると利益率がすごいんやろうなと思うな」
「そうなんでしょうね、この間仕入れを見てみたら市販品以外は全部倍から四倍以上の利益を乗せてましたね。」
「それはすごいね。シンさんの年収って今どれくらいなの」
「コハル、去年でどれくらいやった?」
「源泉徴収票で見ると四百万円くらいだったような気がするよ」
「それだとまあ、平均年収くらいですかね」
「うーん。それは結構安いんと違うかな」「そうなんですか?」
「うん。会社の規模とか売り上げや利益で変わってくるけど経営者は会社を維持するためにまず必要な人の維持を考えなあかんのやわ。人が辞めてしまうとその人にかけた経費もその人で稼いでいる売り上げも会社の業務も全部パーになるからなぁ。まあいらん人もおるんやけどな。シンさんは必要とされていると思う。思うけどその収入はなぁ」
「お父さんそんなに安いんですかね」
「無茶苦茶安いわけやないけどうちの会社でそんな給料だったら誰も残らんのと違うかな。シンさんの会社は人数が少なすぎて心配ではあるけれど将来的に転職とかは考えてるの?」
「今のところ考えてないんです」「人間関係はどう?」
「社長はまだいいとしても奥さんが厄介やと感じてます」
「それはどういう?」
「多分気に入らんのやと思います。たまになんでそんなことを言うねんということがありますから」
「例えばどんな事?」
「そうですね、以前新潟から明け方に帰って来た時、そのまま出社したんです。
その時朝4時くらいに着きましたわって話してるにもかかわらず、今日はどこを回る予定やって聞かれました。
なので帰って家で寝ますわって言ったらむくれましたね。笑 あとは値引きですか。社長が結構値引きするので真似して値引きしたら怒られたり。値引きすると伝えて、請求の時に値引きを忘れて請求して文句言われてそんなの聞いてないって言われたり。ちゃんと見積もりに書いてるでしょ。何月何日に会社のハンコ押して提出してますやん。これって偽造ですか? クレームがあってお客さんとこんな風に改善しますって合意までしていることをやれそれはお金がかかるだの、場所が狭くなるだの言いだして結局社長に叱られて引っ込むとか、なんか嫌がらせなのかと思うくらいの事がちょいちょいありますね」
「シンさんもなかなかつらい思いをしているんやね。そんなところに無理に勤める必要はないんやけどね」
「シンも色々と頑張ってるんやなって思ったよ。シンありがとうね」
「コハル、お前が喜んでくれたらうれしいよ」
「詩、大人になっても色々しょうもないことがあるんやで。父さんが何で耐えられてるかというと、私ら家族のためやし、後は相手の気持ちもわかるからやと思う」
「多分社長の奥さんはやきもちやいてるんやと思うな」
「おっ、コハルよくわかってるやん」
「そらそうやで、今までちゃんと話聞いてきたからやで」
「そうか、ありがとう」「俺と違ってちゃんと聞いてくれてるんやな」笑
「シン!俺と違ってってどういうことやねん!?ってちゃんと聞いてくれてるって知ってるよ」
「そうなんや」「うん、シンがどない言っててもちゃんと聞いてくれてる」
「うん」 「もうアンタらはほんまに仲がええな」笑
「お母さんとおじいちゃんもそうやんか」
「まあね。お互いに信じ合いすぎておかしくなれへんのかな」
「なるわけないやん」
「お母さん、会社ではなんや信用されていないかのようなことを言われたりされたりするけど、コハルがちゃんと僕を信じてくれてるってわかっているから何があっても大丈夫なんやと思いますよ」
「詩、ちゃんと聞いてるか。父さんもママも、詩の事信じてるからね。だから頼りたいときは頼ってほしいねん」「うん」
「父さんはママに話を聞いてもらうことでうっ憤が晴れてるんや。それにこうしたらどうやとかああしたらどうやとかもちゃんと考えてくれるんやで」
「そうなんや」
「だから詩も困ったことがあってもちゃんと解決できるよ」「うん」
「そしたら話しようか」「うん」
詩は学校で起こった出来事を順序良く理路整然と話してくれた。
「詩、よく我慢したな。逃げるが勝ちという言葉もあるからな。逃げることが恥ずかしいわけやないねんで。詩は学校に行かないということをちゃんと判断できたんやから上出来やと思うよ。でも出来たら理由を言ってくれてたらもっとすんなり休めって言えたかもしれん」「うん」
「あとはママが学校に行って先生と話する。ええか?」「うん」
「俺らが詩を苦しめる原因の子に直接話することは出来へんねん。歯がゆい事ではあるけれど出来るだけ先生に対処してもらうしかないんや。頼りない先生でもママがちゃんと動けるように話してくれると思うから安心してな」
「うん、ママお願いします」
「詩、任せといて」
「学校でもいろいろあるんやね。詩よく頑張ったね。おばあちゃん詩の事抱きしめたいわ」
「それはいいわ」
「なんでや?」
「もう恥ずかしいから」
「じゃあおじいちゃんが抱きしめたろか?」
「いらん」
「詩はやっぱり父さんやろ」
「それもいらん」
「なんや遠慮して。見てみい、花なんか何にも言わんでも父さんに抱き着いてきてるやん」
「それは花はまだ子供やからや」
「詩かて子供やないか!」
「もうええねんって」
「じゃあママが抱っこしたげるわ」「うん」
「えっ!」みんなが驚いた。言ったコハルも驚いている。
コハルは言った。
「詩、おいで」
「うん」
詩はコハルに抱き着いた。
コハルは詩の背中を撫でながら「詩はよく頑張ってるよ。いい子やで」って
声をかけていた。
その光景は家族のだんらんの中でも特別温かく感じた。
実は涙がこぼれそうになったのは内緒や。
「詩の事抱っこするの何年かぶりやわ。大きくなって。ママうれしいで。だからギューやで」
「ママ苦しいわ」
「詩また抱っこしてほしかったら言うんやで」
「うん、ありがとう。安心した」
「ママ、花も抱っこして」
「花ちゃんおいで。花もいい子いい子。詩も花もママの大事な宝物やで」
「ママーッ」ギューッ。
「さあてママ。次は俺やな」
「シン冗談は顔だけにして」
「ママ!なかなかひどいこと言うやないか」
部屋の片隅に行って泣いている真似をしてみた。 みんな笑っていた。
花が「父さん私が抱っこしたげる」と言って抱きついてくれた。
食事のあと詩は自分の部屋に帰って行った。
花はまだ夫婦の寝室で一緒に寝ている。
花が寝た後コハルと抱き合った。「コハル。冗談は顔だけの旦那さんや」
「シン、冗談や」「わかってる。でも詩がちゃんと話してくれてよかったわ」
「ほんまやね」「詩がママに抱っこしてもらうやなんて結構不安やったんかな」
「そうなんかな」
「やっぱりコハルにはかなわんなと思ったわ。でも俺がコハルを抱っこするときはちょっと違うからな」
「そうやな。シンの場合は特別なサービスも着いてるからな」笑
「コハルさん、それはまさか?」
「シン、今更いややわ。あんなことやこんな事やで」
「そうやな。俺もコハルに特別なサービスせなあかんからな」
「そうやで、お互いにサービスし合わんとあかんのやから」
「そうやな、ほんでまた詩の話に戻るけど」
「うん、仲のいい大吉君と広吉君が結構頑張ってやめろって言ってくれてるんやね」
「そうやな。ちゃんと友達してるやん。しかしその空美っていう子はどんな子なんやろうな」
「ほんまやな。言って素直に聞いてくれたらええけど先生が何回か言って、止めへんのやからちょっとこじれるかもしれんな」
「あとはそのコバンザメと言われる女の子等や。この子等が喜ぶと調子に乗るのやろ」
「そうなんやろな。その三人にきちんと話せな収まらへんやろな。どうするそれでもあかんかったら」
「その時は相手の家に乗り込んだらええ」
「シンそれはちょっとあかんのと違うやろか」
「みんな舐められてるんやったらそれなりの恐怖を味あわしたらんとあかん。過激なことをするわけやない。相手の親も自分の子供が何をしてるのか知らんのかもしれんやん。だからまずコハルが先生に話する。先生が空美とその親に話する。
それで改善せえへんのやったら仕方がないと思うけどな。俺は詩の事が第一やから悠長なことは言ってられへんねん」
「まあそやけどな。シンとりあえずいったん私に任せといてな」
「うん、コハルすまんけど頼むわな」「うん」チュッ。
その後も少しシンと話して、教頭先生か校長先生にも立ち会ってもらうことにした。
詩が早引けした翌日の朝、学校に電話を入れた。
「おはようございます。鴨居と申します。五年五組の鴨居詩の母です。いつもお世話になっております。担任の西村先生をお願いします」
「はい、少々お待ちください」 「はい、お待たせしました。西村です」
「先生、鴨居詩の母です。いつもお世話になります。詩の登校拒否の件で連絡を差し上げました。何かお聞きになっていると思うのですが」
「あっ、ああー。はい。ちょっとしたトラブルがあったみたいで昨日詩君も学校に来たので終息に向かっていると認識しております」
「先生。トラブルとしてはちょっとした事という認識かもしれませんが現実に詩は学校に行けなくなっておりました。このことからもちょっとした事というご判断はおかしいように思います。なので一度、申し訳ないのですが私がそちらに出向きますのでお話しさせていただけるとありがたいのですが。またその際に教頭先生又は校長先生の御立ち合いもお願いしたいと思っております」
「鴨居さんそれはちょっと大げさではないでしょうか」
「全然大げさではないですよ。主人とも相談しまして今回は私がお話しさせていただきますが、進展がなければ主人が話すると申しております。今後の事もありますので一度面談をお願いしたのです。できれば今日、または明日中に。西村先生が思っておられるようなちょっとしたことでは済まないと私どもは考えておりますので午前中にお返事いただけますでしょうか」
「今聞いて今日明日の予定に組み込むことは難しいのですが」
「西村先生の学校では生徒よりも大事なことがおありになるということでしょうか? それは教頭先生や校長先生のご認識として受け止めてもよいと言うことでしょうか」
「い、いえ。決してそのようなことはございません。申し訳ございません。すぐに相談してお返事いたします」
「そうですか。よろしくお願いします」
電話を置いた後おじいちゃんと話をした。
「腹立つわ!ちょっとしたトラブルやて。しかも終息に向かっているやて。頭おかしいのとちがうやろか」
「コハル、そないにカッカするな。ちゃんと話して分かってもらえたらそれでええのやから。いくつくらいの先生や?」
「確か三十五、六くらいやったと思うねん」
「そうか。まだまだ経験が浅いのやろうな。それとそんな話はなんぼでも転がっているやろうに自分の事として考えたことがないのやろな。その事で生徒の将来にどれだけの影響が出るのかすら考えたこともないのやろか。教頭先生と校長先生の立ち合いをコハルが言うたことで初めて事の重大さに気が付いたみたいやな。気が付いたかどうかはわからんけどな」
「そうやねん。もうほんま頼りないわ」
電話が鳴った。「はい、鴨居でございます。はい。そうですか、今日の放課後に16:30ですね。はい。お伺いします。はい。よろしくお願いします、はい、失礼します」
「おじいちゃん、西村先生やった。今日の放課後に話することになったわ。校長先生が立ち会ってくれるみたいや」
「そうかよかったな。でも校長先生が常識人とは限らんからな。まあ慎重に話をせんとあかんやろな」「そうやな」
「たまになもう何もかもわかってますみたいな感じで、しかも申し訳ございませんでしたと低姿勢やけど何もわかっていないということもあるから、最終的に文章に残す形に持って行かなあかんで」
「おじいちゃんありがとう」「後で言うた言うてへんの話になったら最悪やからな」
「うん」「ボイスレコーダーも持って行くわ」
「なんやったら暇やし付いて行ってもええけどな」
「ほんまに! 正直ちょっと不安な気持ちもあるねん。おじいちゃんお願いできるかな」
「ええで暇やから。ほんで詩のために何か役に立てるんやったらこの身が砕け散ろうともや」
「おじいちゃんそこまではない」
「そうか。笑 じゃあ一緒に行こう」「うん、お願いします」
「コハル、俺ちょっと本屋に行ってくるわ」
「うん。私も後で買い物に行くから」
「そうか。じゃあプッチンプリン買うといてくれや」
「おじいちゃんもシンに影響されてるな」
「そうやな。シンさんに勧められて食べてみたらうまかったんや」
「よかったな。おいしいもん、教えてもらって」
「そうやな。とりあえず行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
「詩、ママもちょっとスーパーに行ってくるからお留守番しといてや」
「わかったー」
スーパーから帰ってくると玄関におばちゃんと小さな子供が立っている。
「あの、どちら様ですか?」
「あっ。すみません。ちょっと各ご家庭をまわっているものです」
「奥に行ってなさい」
「うん」
「あのね、勝手に敷地に入って何してるの?」
「あの、帰りますから」
「どちらさんって、私聞きましたよ」
「・・・」
「こんな日中に小さな子供さん連れて何やってるんですか? どちらさんですか?」
「ウホバです」
「ウホバって宗教の?」
「そうです」
「なんで子どもに勝手に話してるんですか? 勧誘?」
「・・・」
「どこから来たん?」
「・・・」
「ちゃんと答えないと警察呼ばなあかんのやで」
「・・・」
「二度と来ないでくれる? 何を信じようが自由やけど小さな子供引き連れて、小学生の子供にアプローチするようなのはアカンと思うから」
「はい、すみません」
その日の夕方おじいちゃんと二人で学校に向かった。子供たちはすでに家にいる。
お母さんに少しだけ早く帰って来てもらってお留守番をお願いした。
面談は校長室で行われる。
「お忙しい所お時間を割いていただき誠にありがとうございます。鴨居詩の母でございます。こちらは私の父でして今日は付き添いをお願いしました」
「初めまして。校長の山根と申します。この度はご子息の件、対応が後手に回ってしまい誠に申し訳ございませんでした。担任の西村から話を聞き非常に驚いた次第です。もっと早くに動くべきだと叱責を致したところです。今一度お話をお伺いしたうえで対応したいと考えておりますのでよろしくお願いします」
「校長先生自らそうおっしゃっていただけると誠に心強く感じます。よろしくお願いします」
「まず西村先生から発生日や事のあらましを説明させていただいてその後質疑応答とさせていただき、こちらが取るべき対応についてお話させていただきたく思っております。またその対応についても不足との事でしたら遠慮なくご意見していただくことでより良い方向へと進めてまいりたいと思っております。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」「じゃあ西村先生お願いします」
「はい。鴨居さんこの度は私の不徳の致すところで誠に申し訳ございませんでした。校長からも叱責をいただき目が覚めた気持ちです。そして対応が遅れたことについては誠に申し訳ございませんでした。お詫び申し上げます」
「西村先生もお気づきになられたとのことで良かったと思います。誰の子供さんであれ心配する気持ちは親としては変わりないと思っています。学校に子供を預けている以上保護者としての他人の子供さんへのかかわりは出来るだけ最小限にするべきかとは思いますが、いざことが起こった場合の先生の対応については今回は納得できませんでした。ただこうやって話し合いの場を設けていただいたことで前向きに考えることができると確信いたしましたので非常にありがたく思っております」
「ありがとうございます。では説明させていただきます」
話の内容としては大吉君から聞いたことと大きくは違いはなかった。
しかし西村先生の生徒に対する叱り方について腑に落ちない点があり質問した。
「西村先生は空美ちゃんとその他二人が詩に対して始めた嫌がらせについていつから把握しておられたのでしょうか」
「はい、約二週間ほど前からでした。詩君のクラスメートの川村優ちゃんという女の子が居てます。その子が最初に教えてくれました。詩君が嫌がらせをされているって。 その話を聞いたときに空美ちゃんにすぐに話をしました。事実確認を行いもうそんなことをしてはいけないと伝えました。その時に本人はわかりましたと言っていたのです。しかし実際は嫌がらせを続けていたようです」
「それをあかんと伝えた後、まだ嫌がらせが続いているとわかったのはいつくらいでしょうか」
「はっきりとは覚えていないのですが二、三日後ではないかと」
「そうですか。その間注意してみている訳でもなく収まったとご判断されていたのでしょうか?」
「申し訳ございません。その通りです。一度注意したことでもうしないであろうと判断していました」
「先生これは皆の前で叱ったのですか?それとも個別に?」
「個別です。皆のいないところで叱りました」
「叱られたという事は他の子供たちは知っているのですか?」
「おそらく知らないと思います」
「何故そういう叱り方をしようとご判断されたのでしょうか?」
「皆の前で叱るとつるし上げみたいになってしまうという配慮と、そこまで恥ではないですが、恥をかかせたくなかったんです」
「西村先生、その配慮の結果、詩は学校に行きたくないと言い出しました。被害を受けた詩への配慮は無いように思われますが」
「鴨居さん、そのようにおっしゃられますとまさにその通りでございます。詩君への配慮が全くなかったと言っても過言ではありません。申し訳ございません」
「西村先生。私は基本的に悪いことをした子供に対してはその場で叱る。その時に叱るという事が非常に大事だと考えています。皆の前でとか、恥とかいうのは大人への配慮であって少なくとも子供に対してする配慮ではないと考えます。それは子供は忘れるからです。出来事に対して時間をおいてしまうと出来事と叱られたことについての繋がりが薄れてしまいます。子供は自分がした悪いことを悪いことだと認識できないことも多々あるのです。 小さな火がだんだん大きくなって火事になり自分では対処しようがなくなるように、小さな出来事がだんだん大きくなって取り返しがつかないことになる事も世の中にはたくさんあります。今回の件はまだ取り返しがつくと私は思っています。それは早い段階で私が気が付いたからです。詩も学校には行きたいと思っています。そして私と主人が力を合わせて解決するからと詩に約束しています。詩は私達を信頼してくれています。だからこうやってお話に伺ったわけです。よそ様のお子さんを疑う訳ではありません。でも子供はわかるまで何度も繰り返し注意するというのがセオリーなのではないでしょうか。先生ももう十年以上教師をやってこられたわけですから、一度の注意で住む子供もいればそうでない子供もいるとわかっていると思います。それをフォローすることなく放置したことで詩は学校に行きたくないという事を言い出したのです。西村先生の判断ミスが取り返しのつかないことになると、そこまで全く思っていなかったという事ですよね。」
「お母さん、重ね重ね申し訳ございません。校長として西村先生の判断に明らかな間違いがあったと認めざるを得ません。幸いまだ初期の段階ですのでお母さんのおっしゃる通り取り返しがつくと思っています。今日この後にでも相手さんと連絡を取りまして早急に事態の収拾を図りたいと思います」
「そうですか。そうしていただけるとありがたいです。先生のことを信用していないわけでは無いのですが、対応が後手に回ったことは間違いない事ですし残念なことでもあります。子供は繊細です。些細なことでも傷ついてしまいます。その逆もあるのです。神経が図太いというか他人が傷ついても何も思わない。むしろ喜びを感じたり楽しく感じてしまう子供もいます。でもそんな子供でも大きくなるにつれ相手を傷つけることの怖さを少しづつ学んでいくと思います。学習できるのはやはり周りが言うからです。相手の反応を見て自分がどう思うのかというのもあります。その手助けをするのが親であり先生であると思うのです」
「鴨居さん、おっしゃる通りです。私は本当に思い至らず詩君に申し訳ないことをしてしまいました。今後は本当にこのようなことが無いようどの生徒に対しても注意を怠らないようにしたいと思っています。本当に申し訳ございませんでした」
「西村先生、子どもは本当に大人をよく見ています。自分ではっきりとやめてと言えない子。たくさんいると思います。そんな子供が頼りにするのはやはり大人である先生なのです。この先生は自分を守ってくれるのかそうでないのか。詩が四年生の時の担任の先生の事はあまり好きではなかったと言っておりました。 でも先生は悪いことをしたらきちんと叱ってくれる。それをするたびに叱ってくれる。だから僕は好きではないけれども頼りにしていたと言っておりました。他の生徒さんも同じような評価をしておりました。今回の西村先生の事も色々と聞いております。なので今回の件は詩だけではなく西村先生が成長する機会であってほしいと思う訳です。先生とあまり年が違わない私が言うのも何なのですが先生がこれからも先生を続ける以上、このようなことはまた起こりうると思います。そのたびに生徒を助けてあげてほしいと思うのです」
「はい。心がけます」
「最後にもう一つですが先ほど川村優ちゃんが教えてくれたとおっしゃっていましたが出来るだけお名前は出さないほうがよろしいかと思います。私はもちろん大丈夫ですが人によっては誰にどのように伝えるのか伝わるのかわかりません。ひょっとしたら想像は出来ませんが新たな火種になる可能性もあるのです。そのあたりも今後はご配慮いただけたらと思います。もちろん先生だけが知っていればいいこともそうでないこともあると思います。機会があれば私は知らないという事にして川村優ちゃんに先生が助かったと伝えてあげてもいいのではないでしょうか。と私は思っています」
「鴨居さん、本当に色々とご教示いただきましてありがとうございます。今まで教師を続けてきましたがどこかで手を抜いているわけでは無かったにせよ至らない点がたくさんあった事に気付かされました。今回の詩君のことをきっかけに私も変わろうと思います。ありがとうございます」
「先生、子どもには本気で叱ってあげてください。何も大声を上げるとか暴力をふるうとかではないんです。しっかりと相手の目を見て本当に本気で言い聞かせてあげてください。子供は本当によく見ていますので。よろしくお願いします」
「お母さん、本当に色々とありがとうございます。私も事態の把握が遅れたことを反省しております。今後少なくとも当校の先生に対してはどんな些細なトラブルでも報告を上げるように申し渡します。そしてそれを教師全員で共有したいと思います。子供たちに楽しい小学校生活を送ってほしいですから。私たちはほんの少しの力しかありませんがそれを使うことで悪いことをした生徒も悪いことをされた生徒も、同じように相手を思いやる気持ちを持ってもらえたらと思います。今回の件、本当に申し訳ございません。そして全力で詩君とその相手の生徒さんをサポートしていきたいと思います。重ね重ね本当にありがとうございました」
「校長先生にそうおっしゃっていただけたら私も安心して主人に報告ができます。詩にももう西村先生は本物の先生になったからねと伝えることができます。この度このような機会を設けていただいて本当に感謝しています。今後ともよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「さあ、おじいちゃん、帰りましょうか」「ああ、帰ろか、すみませんどうもお邪魔いたしました。詩の事よろしくお願いします」
「はい、お任せください」「では失礼します」「失礼します」
学校を出るとちょうど夕日が沈むところだった。あたり一面オレンジ色に染まっていた。子供の頃よく見ていた風景だ。「おじいちゃん、付き添いありがとう」
「コハル、お前なんだかすごく大人になったな。あれだけ理路整然とはっきりものが言えるのはお父さんすごいと思ったよ。おかげでわしの出番がなかったけど」
「私も今から考えたらよくあんなことが言えたなと思うねん。これは多分おじいちゃんとシンのおかげかもしれん」
「そうやな。わしのおかげやろうな」
「じじい!なに言うてるねん。おじいちゃんとシンのおかげって言うたやろ!」笑
「ああそうか。シンさんも入ってるんやな。でもどちらかと言えばわしのおかげやろ」
「どちらかと言えばシンや!もうええように解釈して。でもおじいちゃん、感謝してますよ」「そうか、ほなええわ」笑
夕暮れの道を満足そうな顔をしているおじいちゃんと二人で歩いた。
「西村先生。今回の件は本当に勉強になる。すぐに相手さんの家に電話入れて今日にでも面談させてもらわんといけないですよ」
「はい、校長先生早速電話します」
「しかし鴨居さんの奥さんは本当にきちんとしたクレームを入れてくれたと思う。息子さんの事やから頭に来てても不思議ではなかったのに冷静にお話してくれたことで
我々も真摯に対応に当たらんと行けないと気付かされた。いろんな親御さんがいる中で素晴らしい人に出会えたと思う。子供さんだけではなくて我々も前向きにさせてくれたんやから」
「その通りですね校長先生」
「うん。西村先生にもええ勉強になったと思う。これを教訓にしないといけません。西村先生、良い先生になってくださいよ」
「はい、頑張ります」
おじいちゃんと家に帰るとお母さんが夕ご飯の支度をしていた。
「ママおかえり」「ただいま」「おかえり、どうやった?」
「うん、いい方向に行くと思う。西村先生も頼りない先生から信頼できる先生に生まれ変わると思うよ」
「そうなんや、よかったね」
「おかげでわしの出番がなかったんや。でもわしのおかげで事態が収拾したようなもんやな」「おじいちゃんまだ言うてるわ」笑
詩が二階から降りてきた。
「ママ、おじいちゃんおかえり」「ただいま、父さん帰ってくるの?」
「うん、聞こえる」「そうか、父さん帰ってきたら話しよう」「うん」
今日はシンがドアを開ける前に玄関で待つことにする。
「ただいまー」「シンおかえり」 チュッ。 「コハル、行って来たか?」
「うん、ええ方向に行くと思う。おじいちゃんにもついてきてもらってん」
「そうか、それは心強いな」
「でもな、ふたを開けたら私だけがしゃべってたんやで」
「そうか、頑張ったんか?」「そうでもないけど詩のためや思ったら自然に話できてたわ」
「そうか、後でゆっくり聞こか、とにかくお疲れさま」
「うん」 手を洗いリビングに入った。「ただいまー、みんな勢ぞろいやなぁ」
「父さんお帰りー」花が抱き着いてきた。
「花はいつまで抱き着いてくれるんやろな」
「父さんずっとやで。ずっとずっとやで」
「そうか、それがほんまやったらうれしいなぁ」
「シン、デレデレになってるやん」「そらうれしいやん」「花はいい子いい子や」
「詩、元気か?」「元気やで」
「ママから話聞いたか?」「まだ」「そうか、ほな一緒に聞こか」「うん」「花は着陸やで」「うん」
おばあちゃんとコハルで晩御飯の用意をしてくれた。
詩と花もそれぞれ出来るお手伝いをする。
「はい、父さんのごはん」「花ありがとう」「はい、これはおじいちゃん」
「花ありがとう」「父さんのお水と、おじいちゃんのお水やで。置いとくで」
「詩ありがとう」 「さあさあ皆で座って食べましょうか」「はーい」
「ではいただきます」「いただきまーす」
「お父さん、今日はコハルの付き添いありがとうございました」
「いやいや、ほんまに着いて行っただけやったわ。でもコハルえらいなと思ったわ。
あんだけきちんと論理的に話ができるやなんてほんま見直したわ。
わしの事たまにじじいって言うけどそんなん許せるくらいちゃんと話してたわ」
「おじいちゃんさっきと言うてる事違うやんか」
「そらコハル、わしの照れ隠しや。今日はほんまにコハルはすごいって思ったからな。ほんまにわしの子供なんか位に思ったで。校長先生ももう何の反論もなくただただコハルの話に聞き入っているようなそんな感じやったからな。コハルほんまに立派になった。わしうれしい」
「コハルお父さんえらい褒めちぎってくれてるやん。ええ仕事してきたんやな」
「お母さんまでそんなこと言うたら恥ずかしいやん」
「コハルお父さんはそれなりの会社でそれなりの地位にあった人やで。その人がほめてるんやからこれはすごい事やと思うよ」
「シンももうやめてよ。話を聞いてから評価してほしいわ」
「コハル、ほんでどんな感じやった」
「結果的にはやで、学校側というか担任のミスを認めてくれた上で校長先生も含めて早急に対応するという事を約束してもらってん。多分私が帰った後すぐにその空美っていう子の親に連絡とってるはずやわ」
「そうなんや。親の前でその子のやったことを話して親からもだめなことやとしっかりと教えてもらうと思う。これが親がおかしかったらどうしようもないけどな。でもたぶん大丈夫やと思う」
「そうか。今日詩は学校行ったんか?」「うん、またお昼で帰って来たけど」
「ちなみに今は嫌がらせはあるのか?」
「今は収まってる、僕の周りに大吉とか広吉が居てくれるから」
「そうか。詩ええ友達持ったな」「うん」
「大吉や広吉が困ったら詩も助けてあげなあかんで」
「うん」「ちなみにその空美っていう子は大吉と広吉が居らへんかったら、やっぱりテンゴウするんやろか?」
「わからん。でもちょいちょい様子はうかがっているみたいや」
「そうか。早くて今日、先生に注意されることでわかってくれたらええけどな。後はそのコバンザメの二人にも注意はしてくれるんやろ」
「うん、そこもちゃんと話してきたから大丈夫やと思う」
「コハルお疲れさまや。俺はコハルほど言えへんと思うわ。頼りになる嫁さんや。ありがとう」
「シンのおかげやで。シンが色々と教えてくれてるから」
「いやいや。今日のはコハルの考え方とか言い方とかがすべてうまく回ったという事やろ。詩のためにな」
「まあそうやな。詩のためやったからな」
「相手をやりこめたろうとか、そんなん思ってたんやなくて冷静にいい方向にもっていこうと話した結果、結果はまだ出てへんけどお互いに前向きに進む方向を出せたんやから上出来やで。コハルがフラットな気持ちで話したからやと思う」
「シンに褒められたわ。うれしいな」
「あんたらはほんまにええ夫婦やね、ねぇお父さん」
「そうやな。ほほえましいな」「もうおじいちゃんもおばあちゃんもやめてや」
「また新しい孫が生まれるかもしれんな」「・・・」
「お父さん言い過ぎや」「あっ。すまん。すみません」
「さあ食べようや」「うん」 夕食が終わった後三人で寝室に戻った。
花が寝た後シンに抱き着いた。
「なぁシン。おじいちゃんが新しい孫が生まれるかもって言ってたな」
「言ってたな」「シンはどう思う」
「コハルもなかなか難しいことを言いよるな。出来たらできたでええと思うけど」
「でもシン私らの子供は外でしか出来へんのやで」笑
「そうやな。外に行かんと出来へんから前回は車やったし今度は何や? 電車か?飛行機か?」「シン、電車も飛行機も無理やろ」「そうやな」
「でも俺は今のところは考えて無いねん」
「そうなんや。私も考えてない。おじいちゃんが言うたからちょっとだけ考えてみたけどな」
「うん。これから高校大学と出してあげんとあかんのやからお金がかかるで」
「考えてても考えてなくても出来たら全力で育てるけれど自然の成り行きかなと思ってる」「そうやな。そういうことでシン。愛してくれる?」
「うん。コハル今日はお疲れさまでした」 チュッ
「ううん。シン。好き好き」「俺も好きやで」
それから二日後に詩が西村先生から手紙を預かってきた。
その手紙を預かるときに詩に対して空美とコバンザメのウニとメイの三人が謝ってくれたとの事。
西村先生は空美とウニとメイにこんこんと言い聞かせたらしい。
「同じ相手に相手が嫌がることを何度もしてはいけない。自分が同じことをされたらどう思うのか。考えなさい。しかも一人に対して三人でなんて。きっと悲しいはずだから」
詩の顔が晴れやかになっている。詩。良かったよ。ママ、ホッとしたよ。頑張った甲斐があったわ。
手紙はシンと二人で読むことにする。
詩から大体の話を聞いたところによると私とおじいちゃんが学校に行った日にすぐに空美の親御さんに連絡を取り話に行ったそうだ。
校長先生も一緒に行ったとの事。
相手の親御さんも娘である空美のイケズさには気が付いていたようで最初から平謝りだったらしい。
あくまでも子供同士の問題としてお話しているのでお父さんお母さんから相手のお父さんお母さんへのこの件での接触は控えてくださいと伝えたそうだ。
その方がこちらもありがたい。
西村先生からもご両親からも今回の件で叱られた空美はあからさまにイケズをすることは無くなったようだ。
結局はそのことで結構嫌われていたようで、その事にも気が付いたようだと言っていた。
手紙には自分の至らなさと一歩間違えれば詩が不登校児になってしまいかねなかったこと。
本当に崖っぷちを歩いている状況に自分自身気が付いていなかった事が書かれていた。
教師としての役割を放棄してしまうようなそんな状態を気付かせていただいてありがとうございました。
そして今回のこの件を機会にいじめやいたずらなどの事柄について研究しますと書かれていた。
良かった。いい方向に行った。私は満足している。シンは私を何度もほめてくれた。
褒められすぎてデレデレになってしまった私をシンは優しく抱きしめてくれた。
「これからも力を合わせて頑張ろう。俺らが愛し合って詩も花もその輪の中に居てそれで家族が幸せであることが何よりも素晴らしい事やなって思う。コハル本当にありがとう。これからもよろしくやで」
「シン、私もありがとうや。今を予想していた訳やないけど、こんなにも幸せな気持ちで居られるなんて思いもしなかった。シンと一緒に居られて私は幸せやで。シン愛してるよ。本当に愛してるから」「ありがとう」
チュッ。「さあ寝よか」「シン、ちょっと待って、どういうことやの?」「何が?」
「今盛り上げて来てたんと違うの?」「えっ」
「チューまでしてさあこれからというときに、さあ寝ようってどういうこと?」
「あっ、ごめん。疲れてるかなと思って」
「シン、余計な気を使ったらあかん。私はシンをいつでも迎え入れる用意がある」
「なんやどっかの大統領が言う言葉みたいやな」「シン! もう早くおいで!」
「はいっ!」鴨居家の夜は更けていくのであった。
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