第5話 異世界の仕事探し!
神殿への行列に並んでる間、オレは宿にあった地図を広げた。
大陸の名はフロートランド。大陸を横断するモサモサ大森林から北はワーロ・ハーク地方、南はアルカトラ地方と呼ばれ、それぞれに地方の名を冠する神殿と王国があるようだ。
その他にも町や村が点々とあるようだが、みんなこの門前街か南の城下町を目指すのだろう。どこも規模が小さいようだ。
「アヤトー、やっとはいれるぞ!」
地図を頭に叩き込むと、いつの間にか行列の先頭になっていた。神殿に足を踏み入れる。
「もりのなかみたい!」
神殿の中は屋内とは思えないほどに緑が多い。池もある。石畳で敷かれた動線を除けば、まるでどこかの植物園に入ったかのようだ。
「おいでになるのは、初めてですね」
「わっ!」
突然声を掛けられた。驚いたのはそこではない。その人が大きな一つ目だったからだ。十字にひし形を重ねた模様のある帽子をかぶっている。どうやら案内してくれるようだ。
「おねーさん、よくわかったな!?」
「ふふっ、ハーピーちゃんもびっくりひたでしょう? 初見の方は決まって見渡しますからね」
「ほほー」
「オレの故郷じゃ見なかったもので。驚いてしまって申し訳ないです」
「いえいえ。わたくしは
メルさんの案内でたどり着いた先には、小さな個室の前だ。ここに神様がいるのかな。
「ドアを3回ノックしてください」
またそれか。面接を思い出してイヤになるな。とりあえず言われた通りにしてみると、なんの返事もない。
メルさんの顔をうかがうと、顔をタテに振った。
「座ったら、目をつむって声だけを聞き、返事をしてください。あなたの望む神との出会いがありますよう……」
望む神ってなんだろう。オレは女神様に会えればいいのだが。
「失礼します」
「ちわわーっ!」
部屋の中にはイスがひとつあるだけ。あとは真っ白い空間だ。青々とした神殿の中とは思えない。
「女神様にあったところみたいだ」
イスに座り、目をつむる。ここで神様が語りかけてくれるというコトか。
『……えーん』
なにか聞こえてきた。きっと神様だ。
『イズミサン、初めましてなのねん! ボクの名前は――』
「チェンジで」
『びん「チェンジで!」
『えのっぴドゥー!』
謎の断末魔を叫んだあと、声は聞こえなくなった。
「おおごえ、びっくりした!」
「ごめんなハル。あの神様は縁起が悪そうで……」
望む神様って言うくらいなら、いっぱいいてもおかしくないし。
『……えますか。クサビ・アヤト、聞こえますか……』
今度は間違いない。女神様の声だ!
『私は今、あなたの耳元に直接語りかけています……。ふっ♡」
「あぅんッ♡」
急に耳に息を吹きかけられてヘンな声を出してしまった。直接が過ぎる。脱力感を振り払い目を開けると、女神様が立っていた。ニヤニヤしてる。
「……こういうのって、直接心に語りかけるモンじゃないんすか?」
「今の時代、茶目っ気も必要かなあと」
「目つむる意味ないじゃん!」
「かみさま、ちわわーっ!」
「ハーピーちゃん、アヤトさん、こんにちは。服の中に隠れたゴブリンさんも、こんにちは」
「ブブッ!? バレてるゴブか!」
「こんにちは。神様っていっぱいいるんですね」
「ニンゲンはここで様々な神と出会い、契約し、スキルを拝領できるのです」
それが仕事につながるのか。つまりここはダー◯神殿みたいなモンだな。
「オレの
「悪い神様だっていますよ。いうて私たち神も信者が増えるとパワーアップしますからね。意外とWIN-WINの関係なんですよ」
「案外俗っぽいんですねえ。ちなみに女神様の信者の数は?」
「あなただけです」
「そうなんだ。オレだけの神様なんですね。なんだかうれしいな」
「ふふっ。では期待していますよ。私だけの信者さん」
女神様の姿がだんだん薄くなっていく。これからどうするか訊かなきゃ。
「あー、待って! 質問! この先どうすればいいですか?」
「雲でヒントを出したりしてるのにー。欲しがりさんですねえ」
また姿が濃くなって、持っている杖を振るった。杖の先には上空から見たこの街の景色が映し出された。緑の屋根の建物にどんどんアップしていく。
「まずは自分の生活基盤を形成したほうがよいのでは?」
「ぐーのねも、でないな!」
「ハル……。それで、ここは?」
「冒険者ギルドですよ。神と契約したニンゲンが真っ先に向かう場所ですね。行きかたは――」
そんなこんなで冒険者ギルドへ来たのであった。西部劇の酒場みたいなスイングドアを開け中に入ると、呑んでいる冒険者はまばらで意外にも静かだった。受付嬢らしき人が寄ってくる。
「冒険者ギルドへようこそ、クサビ・アヤト」
「ちわわーっ!」
「よ、よくご存知で」
「ハーピーを連れた無一文の冒険者はよく目立つので。この広い街でも有名人ですよ。ところで――」
受付嬢らしき人の目つきが鋭くなった。胸がドキッとする。
「無礼を承知で尋ねますが、ダダッピロ大草原にて出没したサラマンダーを討伐したとか」
一斉にイスが動く音がした。少ない客の目線は、全てオレに向けられている。
「それは誰にも……」
「知り合いの星詠みから情報をいただきまして」
そう聞いてパッと思い浮かぶのは、神殿の中を案内してくれた一つ目のメルさんだった。
となると、だ。ゴブリンを匿っているのもバレているかもしれない。……いろいろと覚悟を決めるべきか。
「アヤト、サラマンダー、たおしたぞ!」
「それが事実だとすれば、とても心強い。私共も戦力を整えたい時期に、渡りに船というもの。近く、我々は
「……なにやら穏やかではないですね」
「危険は伴います。しかし貴殿にも是非、参加していただきたい。ゴブリン
ゴブリンハント。字面からもうイヤな予感がする。
「成功した暁には、この街に定住でき、ギルドへの登録が認められます。殊勲を立てれば、いずれ王国市内に住めるかも……。どうでしょう、悪くない条件だと思いますが」
「あー、質問をば。ゴブリンはそんなに悪さをしているヤツなんですか?」
「言葉が通じず、凶暴かつ狡猾な生物とは共生できません。昔話の勇者と魔王のように、所詮いがみ合う運命です」
オレにしがみついているゴブリンは、そんなコトないと思うんだがなあ。性格の個体差なのか。
「うーん。いや――」
迷っていたそのときだった。ハルが大声を上げた。
「やる!」
「えっ、ハル?」
「ありがたいです。しかし貴殿の実力を信用させてください。ルーク!」
「ふんっ。こんな弱そうなヤツがおれの相手が務まるかな?」
「えっ? えっ?」
「まあ仕方ない。早くオモテに出ろ!」
「ええええ!?」
オレの意志を示す前に、トントン拍子で物事が進んでしまった。もうゴブリンに情が湧いてるんだよ、なまじ言葉が理解できるばかりに!
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