第212話 幼馴染単純ズ
去年は三人で回った文化祭。
男三人でむさ苦しく回ったっけな。
今年は女の子が二人もいる華々しい文化祭初日となった。
五人でゾロゾロと移動しているからか、それとも
よくよく考えると俺だけ何者でもないな、なんて若干落ち込みそうになる。というか、去年の俺なら確実に落ち込んでいたな。
でも、高校野球好きってのは以外にも身近にいるみたい。夏の大会を見てくれた後輩達が、「守神先輩と岸原くんって仲良いんですか?」とか、「仲の良いふたりがドームで試合なんて激熱だったんですね」なんて声をかけてくれた。
流石は文化祭。場の雰囲気に流されて、みんなのコミュ力が上がる魔法がかかっているなぁと感心しちまうよね。
♢
「みなさん。お揃いでいらっしゃいませ」
グラウンドでは野球部とサッカー部が催しをしているということで、OB面して顔を覗かせる。いや、もちろんOBとかってのは思ってないけどね。
野球部マネージャーの芽衣が出迎えてくれて、彼女がチラッと芳樹の方を見ると、手を振っていた。
普通、兄妹がやって来たら気まずいものだと思うのだが、こいつらは仲が良いよな。ってか、芳樹にはシスコンの毛がある。芽衣と付き合う男子はこれの許可が必要なのかもしれない。恐ろしい。
ちなみに野球部の催し物はフリーバッティングだった。
「はい。私、かっ飛ばしたいです」
手を挙げてやりたい宣言するのは有希。
「どうぞ、どうぞ。一妖精様ご案内」
「一妖精とは?」
芽衣が独特の数え方をして有希を打席へとご案内していた。残った俺達は三塁側ベンチで待機となる。
有希が打席に立った時に正吾が野球部っぽい掛け声を出す。
「大平! 宇宙間にかっ飛ばせ!」
「右中間ね! なんで野球してるのに漢字間違えてるのですか!」
「やっべ! やらかしたっ!」
常人からすると、正吾が漢字を間違えていたことに気が付かないのに。流石は
「白川先輩。坂村さんとどうなんですか?」
「ん? 坂村くん?」
「またまたぁ。告白とかされてないんです?」
ベンチの女子陣は女子らしい会話に花を咲かせてやがる。
芳樹がコソッと、「坂村くんって、もしかして夏大でサードの子?」と聞いてくる。いや、そうなんだけど、お前、弱小校の選手名も覚えてるとかどんだけ記憶力あんだよ、ってツッコミそうになる。
「濃く吐く? いやいや、わたし、別に坂村くんを見たからって吐かないよ? 普通だよ」
芳樹のツッコミより、白川にツッコミそうになる。
なんでこの子は坂村にだけ恐ろしく鈍感になるんだよ。意味不明だわ。
その気持ちは幼馴染三人とも同じなのか、岸原兄妹と俺は全く同じ顔で白川を見て、「「「だめだこりゃ」」」と坂村に同情するしかなかった。
未だフラグが立つ気配のない坂村は一旦置いといて、俺は有希のバッティング風景を眺め、ふと去年を思い出してしまう。
「あー……去年の今頃は黒かったな……」
「なに? 大平さんのパンツは黒なの?」
こちらの呟きを拾う芳樹をジト目で見てしまう。
「いや、あんた……。そんな爽やかな感じで下ネタ言うなよ。一瞬わからんだろうが」
「僕も高校生だからね。思春期特有の性欲はあるよ」
「そうなの? え? そうなの?」
「きみは僕をなんだと思っているの?」
「性欲のない野球星人」
「酷くない?」
あははと爽やかに笑いながら質問を投げてくる。
「それで? なにが黒かったの?」
「ん、あー……」
とても言いにくいことなので、唸り声を出しながら頭をぼりぼりとかく。
「まぁ簡単に言うと、芳樹に嫉妬してたんだよ。片や甲子園のスター。片や普通の高校生。『中学まではお互い優秀な野球選手だった。というか、俺の方が優秀だろ。なんで、なんで』ってな。どうだ、真っ黒だろ」
「黒すぎ」
そう言いながらも笑ってくれる芳樹は有希の方を指差した。
「それを大平さんが諭してくれたんだね」
「それでまんまと絆されたってわけさ」
「相変わらず単純だね」
「正吾のことを言えた義理じゃねぇな」
「ほんとだよ」
互いに笑い合うと、ポツリと芳樹が語り出す。
「ほんと、単純だよ。日本にいられないからアメリカ行くなんてさ。またキミとバッテリー組めると思ってたんだけどな」
「……ごめん」
素直に謝ると、首を横に振られる。
「でもさ、アメリカで活躍するキミを見たい自分もいるんだよね」
ふふ、なんて小さく笑う。
「それに、久しぶりにバッテリーを組むのは、大学よりもメジャーリーグで組んだ方がドラマがあるくない?」
「いつまでかかるんだか」
「そう遠くない未来だよ。それに正吾くんもファーストでさ。幼馴染三人がメジャーリーグで大暴れ。僕達ならすぐに達成できる夢さ」
「やっぱ芳樹も単純だよな」
「僕達は幼馴染単純ズだね」
「エリートなのにネーミングセンスないな」
あははという笑い声と、カキーンという金属音が秋の空に響き渡った。
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