第169話 応援は誰がするかがめちゃくちゃ大事

「負けてしまいましたー」


 首に巻いたタオルで汗を拭きながら、俺達のいる体育館の2階、キャットウォークへと有希がやって来る。


「おつかれー」

「おつかれさん」


 俺と正吾が彼女へと労いの言葉をかけると、タオルで顔を覆いながら悔しそうな声を出す。


「琥珀さん凄すぎです。物凄い勢いでした。こう、気迫というか、鬼気迫るというか」

「球技大会なのに最後の夏をかけた負けられない戦いって感じだったな」


 あれから白川は覚醒した選手みたく、バンバンとシュートを決めまくっていた。


 有希もくらいついたが及ばず、A組が圧勝という結果に終わってしまった。


「せっかく晃くんが応援してくれたのに。私の夏が終わってしまいました」

「どっかのゴリラと同じ様なこと言ってるぞ」

「なっ!?」


 タオルから顔を離して正吾の方を見ると、正吾が親指を立てて有希へグッジョブポーズをしてみせる。


「仲間、だな」

「こんなゴリラと一緒なんて嫌です!」

「おいおい。妖精もゴリラも似た様なもんだろ」

「全然違います! あと、私のこと妖精とか言うなー!」


 うわーん。と明らかな泣き真似で有希が俺に抱きついてくる。


「ゴリラがいじめてきますー」

「よしよし。あとできつめに言っとくからなー」


 有希の頭を撫でると、汗で若干湿っているのがわかったが気にせずに撫で続ける。


「あ……」


 有希がなにかを思い出したかのように声を漏らす。


「す、すみません晃くん。私、汗だくで……」

「んー。全然気にならんなー」


 その証拠と言わんばかりに撫でるのをやめないでいる。


 むしろ我々の業界ではご褒美である。てか、なんで美少女って汗だくなのに良い匂いするの? 不思議過ぎるだろ。


「……もうお前ら見境ないのな」


 隣で正吾が呆れた声を漏らすと、有希へ質問を投げた。


「そういえば白川は?」

「琥珀さん? あれ?」


 有希は思い出したかのように俺から離れると、キョロキョロと辺りを見渡した。


「おかしいですね。『2階で彼ピが応援してくれてたね。お礼言いに行かないとねー。わたしもすぐ行くから』とおっしゃっていたのですが」

「今の白川の真似か?」


 正吾がどうでも良いところに食いついた。


「はい。似てたでしょ?」

「似てるというか、悪意があるというか」

「ええー。そうでした?」


 有希は納得いかない様子で俺を見てくる。


「『旦那、旦那。似てるよねー?』」

「おっふ。いきなり嫁からの旦那発言は萌えポイント高めで尊死してまう」

「大平が白川口調で言うと、ただの夫婦だな」

「似てないけど全然アリ」

「むぅ。似てますもん……」


 ちょっと拗ねてしまい、もうモノマネをやめた有希は本題に戻る。


「琥珀さん、もう来る頃かと思いますが、来ませんね」

「トイレか?」

「晃くん。琥珀さんも女の子なのですから、あまりそういう発言は控えてください」

「うぉ。大平って晃に怒るんだ」

「はーい」

「わかればよろしいです」


 なでなでと背伸びをして頭を撫でてくれる。


「なんでぃ。ただのイチャイチャの余興かよ」


 ゴリラのため息の後、なにか察したかのような表情で正吾は白川の話題から有希の話題へ変えた。


「そういえば大平はこの後どういう立ち位置になるんだ?」

「と言いますと?」

「いや、D組の助っ人と言ってもよ、A組の人間だろ? んで、A組は勝ったんだから次の試合があるわけで」

「もちろん、出ますよ」


 あっさりと言ってくるもんだから俺達はその場で転けそうになる。


「あっれー? さっき私の夏が終わったって言ってたじゃん」

「D組の助っ人としてはね。次からはA組としての夏が始まります」

「色々と言いたいことがあるが、まだ夏は始まってないからね。梅雨だからね、今」


 そんなツッコミの最中、「ゆきりーん!」と下からこちらに声をかけてくる白川の声が聞こえてくる。


「もうすぐ試合始まるよー! おいでー!」

「今行きますー!」


 すぐに有希が返事をすると、こちらを勝ち誇った目で見て来る。


「次の試合は有希×琥珀の最強のコンビネーションをお見せいたしましょう」

「あれか。敵キャラが仲間になって共に戦う激アツ展開」

「少年漫画お約束の展開かよ! うおお! あっちぃ!」

「ふっ。見ていてください。私達の実力を!」


 自信満々に戦場へと舞い降りた妖精女王ティターニア。相手は強豪、女バスだらけの3年C組。


 しかし、A組には有希と白川という最強タッグがいる。負けるはずがない。


「有希い! 白川あ! 頑張れえ!!」


 2人に簡単だが熱いエールを送り手を振る。


 有希は自信満々に手を振り返すが、白川は集中しているのかノーリアクションだった。


 結果──ボッロ負けである。


「あちゃー。晃の応援が仇となったかー」

「俺のせい!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る