第160話 千鳥足ではぐれる
みんなで買った被り物を頭に被ってテーマパーク内を歩く。
被っていない人の方が多く見られるが、この場所はそういう行動がなんとなく許されているので堂々と歩ける。
注意しないといけないのはこの場所を出た瞬間、魔法が解けたみたいに被り物をしているのが悪目立ちすることだ。
それを考えるとやはりここは夢の国と考えられるな。
元々は海外映画をモチーフにしたテーマパーク。入口からそうだったが、海外映画に出て来そうな街並みだ。なので映画好きにはたまらないテーマパークだった。
最近では趣向を変えて、万人受けするようにマネジメントされたらしく、子供向けのエリアも数年前に開発された。
そして様々な人気漫画やアニメ、ゲームとコラボをして入場者数を爆上げしていった。
なので、このテーマパークには様々な有名なキャラクターが存在し、ところどころでそれらのキャラクターを目にする。
そんな中でクルーが
「みなさんめっちゃ似合ってます! 楽しんで」
って手を振ってくれるので、
「マンマミーヤ」
と返すと配管工さんのポーズで返してくれた。
ほんと、クルーさんノリ良くて好きだわ。
パーク内を歩いていると、「きゃあああぁぁぁ」なんて絶叫マシンに乗っている人の楽しそうな絶叫の声が聞こえてくる。
「あれ! あれ乗りたいです!」
有希がテンション高めに、パーク内をグルグルしているマシンを指さした。
「初乗りがあれとか、ゆきりんわかってるー」
白川がパチンと指を鳴らして有希を持ち上げた。
「極限まで騒ぎましょう」
「いえー!」
女性陣がノリノリの中、俺と坂村の男性陣が若干顔を青くしていた。
「だ、大丈夫かよ坂村。顔が青いぞ」
「も、もも、守神こそ」
「あれあれー? 男の子達はビビってるのかなぁ?」
白川がバカにしたように、ぷふっと笑って煽ってくる。
「な、なにをおぉおぉおぉ?」
「圧倒的ビビりな声を出す守神くん」
「さ、坂村ぁ? でぇじょぶだよな?」
「押忍!」
「なんで柔道部系出した?」
「大外刈りでKOです!」
「とりあえずビビり過ぎてバグったのはわかった。やめとくか?」
「いかせてください。副大将」
「誰が副大将だよ」
坂村、多分絶叫マシン無理な人だろうな。でも、白川に良いところ見せようとして頑張るといったところか。
ふっ。しょうがない奴だ。
「じゃ3人で行ってきな。俺はここで待ってるからな」
おそらく俺の方がダメだと思うので大人しく待機を選ぶと、ガシッと有希に腕を掴まれる。
「逃しませんよ?」
「あれ? 連行されちゃう?」
「しちゃいます」
「有希に連行されるのなら本望」
「そのまま昇天なさらぬようにしてください」
そのまま俺はズルズルと絶叫マシンへと連行されました。
♢
あの絶叫マシンはここの目玉の一つでもあるジェットコースター。
ガタガタと揺れを最小限まで防ぎ、ジェットコースターには珍しく、自分でBGMを決められるジェットコースターは曲とスリルとがマッチして最高の時間をお届けしてくれる。
前向きのジェットコースターと、後ろ向きで進むジェットコースターの2種類ある。
俺達は珍しい後ろ向きの方を選んで列に並ぶ。
流石は人気アトラクションなだけあり、時間は結構待ったが、みんなでぺちゃくちゃ喋っているおかげで時間を忘れて待つことができる。
「おっ。次だな」
色々と雑談をしていると次は俺達の番となった。
「次のお客様はお荷物、お被り物、貴重品等をポケットから出して、前の棚に置いてください」
クルーの指示に従って、俺達は荷物を全て棚に預ける。
そして、1番後ろの席に着席する。白川と坂村は俺達より1つ前に着いた。
安全バーが降りてきて、がっちりと俺達の体をホールドしてくれる。
有希は髪の毛が少し気になるのか、髪の毛を軽くいじる。
「変になってないですか?」
「どう足掻いても綺麗な髪」
「そ。良かったです」
「あー1番後ろか。1番前よりマシかー」
怖くなってきたのでそんなことを呟くと、有希がクスリと笑った。
「何を言っているのですか。逆ですよ」
「え?」
彼女の声と共に発信の合図の警報が鳴り響くと、ガコンと後ろ向きに発進した。
「あ、これ、後ろ向き……!?」
「あはは! 焦ってますねー」
「あー。やば。なんか、いざ動くとまじで怖い」
後ろ向きだから進行方向が見えない。
徐々に逆バンジーみたいな感じで上がっているのはわかるが、いつ急降下するのか予想ができない。
「無理無理! 無理無理無理!」
「手でも繋ぎますか?」
「繋ぐ繋ぐ!」
ガシッと有希の手を繋いだ。
「これで怖くないですか?」
「怖くなくなった」
「ふふ。良かった」
そんな恋人らしいことをしていると前の席から
「見えないところでまたバカップルしてるー!」
なんて白川のツッコミが入った。その隣の坂村の様子は見えないが、おそらくしんでいるのだろう。アーメン。
とかいっている場合ではない。
後ろから物凄い風圧を感じた。
「きゃあああぁぁぁ!」
「なんで晃くんがそっちの悲鳴!? きゃあああああ!」
有希のツッコミも追いつかない程の絶叫マシンを俺達は楽しんだ。
♢
「んぉっほぉっふっ」
フラフラする。
千鳥足とはこのことなのか。
絶叫マシンから降りると、世界が歪んでいる。
酒を飲んだ後という感覚がこんな感じなのであれば、酒は飲んでも飲まれるなという言葉がちょっぴりだけ理解できたのかもしれん。
バフっと前の人にぶつかってしまう。
「すみまっ、せ」
「守神くん、大丈夫?」
「当たったのは
「大丈夫みたいだね」
『立ち止まらずにお進みくださーい! 立ちとまらずにお進みくださーい! ──大丈夫ですか!?』
出口が人で溢れており、クルーが必死にゲストへと声をかけている。
「気持ち悪いのはわかったから、とりあえず先に出よ」
「うぇ」
「吐かないでね」
「っす」
とりあえず出ることを優先して前の人に続いて白川と一緒に出る。
「うぇぇぇ」
適当なベンチに腰掛ける。
「大丈夫かいな」
「隣が有希なら大丈夫だったのに」
「悪かったわね。
ムスッと言われてしまい、白川はジェットコースターの出口を見た。
「遅いね。ゆきりんと坂村くん」
「……先に降りたとか?」
「まさか。前にいたら待っててくれるでしょ」
「そりゃそうだ」
それから数分経っても誰も現れなかった。
「もしかして……」
「はぐれた?」
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