第133話 友達に彼女を紹介すると大体こんな感じになる

 とりあえずお姫様抱っこはやめて、初めましての挨拶を交わす有希と芳樹。芳樹もどちらかというと生徒会長っぽいタイプなので、丁寧な挨拶が繰り広げられる。


 家の真ん前でやっているもんだから、井戸端会議っぽさが否めない。


 互いにペコったあと、芳樹が自己紹介後にこちらへと視線を配る。


「まさか、晃くんがこんなに綺麗な彼女さんを連れて遊びに来てくれるなんて夢にも思わなかったよ」


 中学の頃を知っている芳樹からすれば、俺に彼女ができるなんて思いもしなかったのだろう。


 それはそれで失礼な言い方だが、実際女っ気はなかったので、そう言われても仕方ない。


「芳樹。大平は晃の彼女であって彼女ではないぞ」

「正吾くんのくせになぞなぞかい? 良いよ。その難問解いてあげよう」


 サラッと正吾をディスりながら芳樹が出された問題に、名探偵よろしく、手を顎でなぞって考え込む。


 名探偵と言われても差し支えないほどに芳樹の考え込む姿は様になっていた。


 ただ、ガタイがでかいので柔道部出身の名探偵とか言われそうである。


「そうか。わかったぞ」


 稲妻が走ったみたいに、なにかを閃いた芳樹が、ビシッと有希の方へと指を差した。


「大平さんは転生者だ!」


 ズバッと特大ファールみたいな単語が3月の青空へとこだました。


「大平さんは、前世は妖精の国のお姫様だった。前世ではお姫様自ら前線に立ち、国を守っていたが、志なかばで命を落とす。来世では素敵な王子様と結ばれるのを願い現在に転生。そして、現在、野球王子と称された晃くんと見事に結ばれたとさ」


 自信満々に言ってのける。


「その美しい銀髪と、整い過ぎている顔立ち。なによりお姫様抱っこでの登場が前世を物語っている!」

「大方正解です」

「だな」


 ほとんど正解みたいなもんで、有希と一緒に頷く。


「大ハズレだよ!」


 珍しく正吾がツッコミを入れてくれる。


「どこかです?」

「言ってみろよ、イケメンゴリラ」

「逆にどこに正解要素があったんだ!?」


 いつもバグっている正吾が、珍しくまともで、この世界の倫理観が覆られそうになっている。


「私はほぼお姫様ですし、晃くんはほぼ王子様です」

「間違いねぇぜ」

「「ねー♡」」


 お互い顔を見合わして甘い声を出し合う。


「うん。キミ達がバカップルだということは理解した」


 秒でバカップル認定されてしまう。


「晃と大平はお似合いではあるが、お前らの設定はそうじゃないだろうがっ!」


 普段ボケの奴がツッコミに回る違和感を覚えながらも、正吾は頑張って続けている。


「芳樹も芳樹で、なんでそんな回答になる!?」

「いやー、怪我でやることなくてさ。それで最近ラノベにハマってね。ついつい」


 野球ばっかりやってたからハマるととことんハマるタイプなのね。確かに怪我したら


 やることないから本とかゲームに走る気持ちは大いにわかる。


「まぁ冗談をさておいて、さっきのなぞなぞの答えってのはなんだい?」


 くだらないことでも答えが気になるタイプの芳樹は正吾へと問いかける。


「メイド」

「ん?」


 聞き慣れない単語に首を傾げる芳樹へ有希が訂正をする。


「違います」

「だ、だよね」

「専属メイドです」

「ん??」


 芳樹の?が追加された。


「専属メイド兼彼女です」

「ん???」


 ?がマシマシになりながらこちらに助け舟を出してくるので、芳樹を助ける。


「生徒会長の秘密を知ったら俺の専属にメイドになってくれた」

「僕の回答の方がまだマシなレベルの設定では?」


 なんだかまともなことを言われている気がする。


「すまない。まだラブコメ系のラノベは読んでいないんだ。次に来る時までには読んでおくから、一旦その設定を保留のままにしておいてくれないかい?」


 保留もなにも真実なのだが、別に弁明するほどでもない。


「そんなことより芳樹。今日も遊ぼうぜ」


 小学生みたいな誘い方をすると、パァと顔を輝かせて爽やかな笑顔を振り撒く。


「もちろん。今日はなにする? 大平さんと正吾くんもいるから4人でできることがしたいね。ボーリング、ビリヤード、カラオケ、ダーツ……。買い物も良いかもね。春服が欲しいところだし」

「芳樹」


 声をかけると俺は正吾がずっと持ってくれていた自分の鞄より、父さんがくれた受け継がれしグローブを取り出して彼に見した。


「野球しようぜ」


 瞬間、芳樹から笑顔と輝きが消えた。

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